5.3 水 質


Q149
途上国においても、水道水に含まれるトリハロメタンなどの微量 有機化合物が問題視されますが、塩素消毒との関係をどのように考えたらよいですか





  Key words:水質、塩素消毒、残留塩素、水系感染症、トリハロメタン

1.塩素消毒の意義
 飲料水としての水道水に要求される第一の条件は、病原生物を含まず衛生上安全であることです。原水中の病原生物を不活性化し、さらに残留塩素によって配給水系での二次汚染を予防する塩素消毒は、この水道水の要件を満たすために必要不可欠な措置です。わが国の水道整備とコレラ・赤痢などの水系感染症の発生の歴史的変遷をみると、水道創設以来1950年代まで水系感染症が頻発する状況が続きましたが、これは主に塩素消毒の不徹底などの維持管理上の問題が原因とされています。水道法施行規則の規定により塩素消毒を徹底している今日の日本の水道では、水系感染症の発生はきわめてまれになりましたが、その反面 、塩素消毒の際に生成されるトリハロメタンなどの副生成物の発がん性や変異原性が問題となり、その制御が新たな課題となっています。
 このようなわが国の状況と比較して、多くの途上国では今なお水系感染症の罹患率が高く、死亡の主因になっています(表1)。WHO環境保健委員会報告によれば、水系感染症は途上国の乳児死亡率に寄与する感染症中の単一最大のカテゴリーとなっています1)。 したがって、消毒副生成物がもっている可能性がある慢性毒性のリスクと比較しても、塩素消毒を完全に行うことで水系感染症の発生を予防することが優先されるべきであると考えますが、新しい発想の消毒方法についての研究・開発が望まれます。

2.消毒副生成物への対応
 途上国においても、消毒副生成物の制御を視野に入れた対応が必要です。熱帯地域に位 置する途上国では、一般的に水温と前駆物質のフミン質濃度が高いため、消毒副生成物濃度も高くなる傾向にあるといえます。しかし、現在のところトリハロメタンなどの消毒副生成物に関する水質基準をもっている途上国は少ないです。このような状況において当面 必要な措置としては、次のことが考えられます。
(1)凝集沈澱処理の徹底
フミン質は、通常の凝集沈澱処理によってもかなり低減することが可能といわれています。高度処理の導入以前に、凝集沈澱処理による濁度、色度の除去を徹底することが重要です。
(2)塩素注入点の変更
前塩素処理を実施している場合には、中間塩素または後塩素処理に変更することにより、消毒副生成物の抑制を図ることが可能です。
(3)モニタリングの実施
ほとんどの途上国では、水道水中の有機化合物濃度を測定していませんが、トリハロメタンも含めて、その測定体制の充実を図り、濃度レベルがどの程度であるのかを把握することは必要です。このためには、ガスクロマトグラフなどの分析機器の準備と、それを使いこなす高度な技術が必要となりますが、これと連動して、技術協力によるモニタリング体制の整備が望まれます。

【出 典】
1)WHO環境保健委員会報告,環境産業新聞社,1983.
2)途上国の保健医療と国際協力,国際協力推進協会,1992.

(小田 直正)

表1

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