5.5 浄水場の電気・機械・計装の計画と設計


Q174
途上国における、停電時の緊急用発電機の設置の考え方を説明してください





  Key words:浄水場、停電、緊急用発電機、自家発電装置

1.途上国の電力事情
 途上国において停電時の発電機の設置を考える場合、まず、その国の電力事情を知らなければなりません。途上国の電力事情といっても国によってさまざまです。これはその国の経済やエネルギー政策によっても異なってきます。しかし多くの場合は、電力会社から電力の供給を受けていても非常に不安定で停電もしばしば発生することがあります。そのため安定した水処理や送配水のためには、自家発電装置の設置が不可欠になります。たとえば、インドネシアにある日系のポンプ製造工場では停電により製産ラインが止まることを防ぐために、工場の中で消費する電力はすべて工場内の自家発電装置で発電して使用しています。ここまで自家発電装置に電力を依存すると緊急用発電機とはいえませんが、途上国の電力事情を説明するわかりやすい例といえます。

2.自家発電装置の計画・設計の留意点
 途上国での自家発電装置の稼動率は日本の浄水場に設置されている緊急用発電機に比べるとはるかに高く、言い替えればそれだけ停電の頻度が高いといえます。また、電力会社からの電力供給が停電する時間も日本では考えられないくらい長時間にわたることもありますので、できれば自家発電装置の合計出力はプラントの常時稼動設備の電力を確保できることが望ましいと思われます。設置計画・設計の段階なら、プラントの増設拡張の可能性も考慮する必要があります。
 次にプラントの形式や浄水・給配水に要求される電力供給の信頼性の度合いの問題があります。このことは、そのプラントにおいて瞬時も停電をすることが許されないのか、瞬時停電は仕方がないが数分のうちに復電しないといけないのか、あるいは1時間程度の停電は許されるといった具合にプラントの事情によって緊急用発電機の設置の考え方が変わってきます。これらの事情はそのプラントに自家発電装置の設置を計画・設計する前に十分考慮する必要があります。
また、途上国では運転および維持管理を行う技術者の技術水準を把握しなければなりません。日本ではプラントの発電機の調子が悪ければ、エンジンなり発電機のメーカーのサービスが比較的短時間で受けることができますが、途上国では多くの場合メーカーのサービスが期待できず、維持管理を行う技術者の腕にかかってきます。このために自家発電装置の計画・設計にはスペアパーツやメンテナンスツールの確保はもちろんのこと、現場の技術者への十分な研修や技術指導も含めておかねばなりません。

3.機種の選定
 自家発電装置の原動機は主にガスタービン、ディーゼルエンジンおよびガソリンエンジンが使用されていますが、途上国では多くの場合、燃料消費率や保守点検の関係からディーゼルエンジンが適しています。
『水道用電気設備ハンドブック』1)によれば上水道プラントの非常用機は負荷容量 が長期計画によって変わるため、この負荷容量の見通しに対応させて出力と台数を計画することが必要です。常用機の場合は、所要の出力以外に1台の予備機を設置するのが一般 的です。
 大出力を必要とするときはこれらを分割し並列運転を行い対応します。ここで注意しなければならないことは、ディーゼルエンジンは負荷が50%以下になると燃料消費率が非常に悪くなることであり、非常用の場合には、その運転時間が短く、かつ運転中の経費はあまり問題にはなりませんので、燃料消費率の低下にこだわってエンジンの出力、発電機の出力を抑えたために、将来出力の不足をきたしたり、業務の遂行が困難にならないように注意しなければなりません。

4.周辺機器
 自家発電装置の周辺機器についてはエンジンの始動装置、燃料の貯蔵タンクや小出しタンク、それに同期運転をする場合は同期投入装置などがあります。
 ディーゼルエンジンの始動方式はバッテリーで始動電動機を駆動させるか、エアコンプレッサーの圧縮空気で始動させる方法がありますが、普通 は小型発電機の場合は始動電動機により、大型発電機は圧縮空気により始動させます。これらバッテリーやエアコンプレッサーの維持管理は、自家発電設備の保守のうえで重要な作業の一つですので、新しく自家発電装置の導入の計画をした場合は始動方式が電動機方式ならバッテリーの充電装置やできればバッテリー用比重計を、圧縮空気方式ならエアコンプレッサーのスペアパーツや保守用品を用意するとよいでしょう。
燃料の貯蔵タンクの容量は自家発電装置の使用時間や使用頻度、それに燃料の確保の手段などを予想して決定します。

5.燃料の確保
 途上国で自家発電装置を設置する場合、燃料の購入先なり輸送方法も考慮しておく必要があります。燃料は普通 ドラム缶もしくはタンクローリー車で運ばれますが、それらの購入量および輸送方法は常に安定しているかどうかを確認しなければなりません。燃料の供給先および供給手段が安定していれば問題はないのですが、そうでない場合はその分を見越した燃料の貯蔵量 が必要になってきます。日本では原動機の燃料はいつも豊富に売られており品切れということはまずありませんが、途上国では燃料が売り切れになり、次の補充が入るまでに何日も待たなければならないこともあります。そのため自家発電装置の燃料の確保はいつも怠らないようにしなければなりません。

【出 典】
1)東芝:水道用電気設備ハンドブック6編:自家用発電システム,p6.

(盛田 茂樹)

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