3.2 水道とサニテーション


Q71
途上国では、水道とサニテーションを同時に整備すべきですか





  Key words:水道、サニテーション、公衆衛生知識の普及・啓蒙、衛生的トイレの普及

1.水道とサニテーションの一体的整備の重要性
 一般に、途上国における水道整備状況は普及率およびサービスの質(水圧、水量 、給水時間など)とも、必ずしも満足できる状況ではありません。また、下水道施設や浄化槽などの整備状況は水道以上に遅れています、このため、水道施設が整備されるだけでは、浸水防除、蝿、蚊などの有害昆虫や水系疾患の発生の抑制など生活環境衛生の全体的改善を達成するのは困難といえるでしょう。サニテーションとしての衛生的なし尿処理施設や雨水排除施設の整備・普及のみならず、保健衛生知識の普及・啓蒙などのソフト面 での対応もあわせて実施することにより、生活環境衛生の全体的な底上げが可能になると考えられます。
 水道とサニテーションの一体的整備は、何も都市部に限ったものではなく、地方農村部でもその重要性は同じです。むしろ、経済的に大きなハンディを背負っている地方農村部ほど、重要性は大きいものといえるでしょう。
 1980年から1990年にわたって実施された「国連飲料水供給と衛生の10カ年計画(water decade)」を受けて、世界銀行などの援助機関が世界各国において、積極的に水道とサニテーションを一体不離のものとした事業を推進してきています。

2.わが国のODAによる対応
 わが国の政府開発援助(ODA)の代表的なものとして、フィリピンに対しての無償資金協力による「地方環境衛生整備計画」が、これまでに3次にわたって実施されてきています。このプロジェクトは、地方農村部における飲料水供給施設の整備と同地区に立地する公立小学校に衛生的学校トイレの建設を同時に実施するもので、まさに上述した水道とサニテーションを一体として推進しているものです。
 学校トイレに焦点が合わされているのは、
(1)水系伝染病などに対する抵抗力が最も弱いのが児童であること
(2)村落内で水系伝染病などに罹患した児童が不特定多数の他者に疾病を伝播する可能性が最も高い場所が小学校であること
(3)公立小学校の飲料水源である井戸と既存のトイレは非衛生的な構造と位置関係にあり、これの改善を図ることが効果 的である
(4)地方農村部における水系伝染病などの水系疾患の発生抑制に最も効果的である
と判断されたことが出発的となっています。
 この事業の実施にあたっては、給水事業を所管する公共事業道路省と保健衛生を所管する保健省が連携し、これらに小学校を所管する教育・文化・スポーツ省が加わっています。小学校児童に対しては、保健省の看護婦などが巡回して公衆衛生知識の普及・啓蒙を進めるとともに、児童自身が掃除当番を組んで自らの手でトイレの維持管理を行うというソフト面 でのフォローアップが組織的に進められています。小学校児童が在学中に体得する衛生的な生活習慣は、やがてそれぞれの家庭(両親や兄弟など)にことづてに伝播するほか、村落の集会などで学校に集まる父兄が衛生的なトイレを実際に見ることで、究極的には村落全体に公衆衛生知識の普及・啓蒙と衛生的トイレの普及を図るというねらいが込められています。

(辻 良)

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