巻 頭 言


わが国の水道分野の国際協力事業が、タイやパキスタンなどで水道分野の先達たちが辛苦の汗を流しながら始めてから、もう既に40年近くを迎え、水道分野の国際協力事業は半世紀を経ようとしています。その間に、わが国の政府開発援助は世界第一位 となり、それに占める水道分野の役割もますます重くなってきています。世界の、特に開発途上国の人々が、それぞれの国民・市民としての尊厳を保つうえで欠かすことのできない基礎生活分野(べ一シック・ヒューマン・二一ズ)の重要な分野として、水道が位 置づけられるようになってきています。

水道に関する国際協力が拡大し、この分野に携わる関係者は政府、地方自治体、民間を通 じて広がってきています。また、開発途上国で活動をした経験者も多くなり、そのなかには現役を引退した先輩たちも多くなってきています。しかし、このように水道分野の国際協力事業がさかんになり、今後もまさに持統的に発展していくうえで、これまでの経験・実績や蓄積されてきた技術が系統的にまとめられた書物が必要であるにもかかわらず存在しておらず、いわば口伝で技術が継承されてきています。このような反省にたって、これまで水道分野の国際協力事業に関与した経験のある方々が中心となって『開発途上国の水道整備Q&A』を上梓することとしました。

水道の国際協力といっても、開発途上国の首都など大都市の水道は、わが国水道と同じサービス水準で水道事業を展開している一方で、農山村では衛生的な水が得られないため乳幼児死亡率が高いとか、水汲みのために多くの時間を消耗せざるを得ない状況にあります。国連は、来世紀には水をめぐる地域紛争が多発すると警告を発しています。水、なかんずく人の命にかかわる飲み水の供給はまさに世界の安寧に資することになり、水道など環境衛生工学の責任は重くなる一方です。世界の水道を考えるということは、わが国の水道を見直すということ、すなわち、日本の水道を再発見し、再認識するということにつ.ながることはいうまでもありません。

現在わが国の水道は大きな転換期を迎えようとしています。そのような意味でも水道の国際協力に携る方々に限らず、広くわが国の水道関係者、国際協力関係者にも本書は参考になるところが多いと確信しています。

最後に、本書の執筆に関係された多くの方々に敬意を表するとともに、本書の刊行に際して多大の貢献をされた社団法人国際厚生事業団に謝意を呈します。


 平成11年12月          

執筆者を代表して         
  北海道大学大学院工学研究科    
  教授 眞柄 泰基         
  (公益社団法人国際厚生事業団水道部会長)

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