1.1 水道分野の国際協力の動向と課題


Q1
水道分野の援助の国際的な動向について説明してください





 Key words
:アジェンダ21、地球環境サミット、国連飲料水供給と衛生の10カ年計画

 1992年ブラジルのリオデジャネイロで「地球環境サミット(環境と開発に関する国連会議)」が開催され、「環境と開発に関するリオ宣言」、「アジェンダ21」および「森林原則声明」が合意されました。また、それに引き続き、「気候変動枠組条約」、「生物多様性条約」や「砂漠化防止条約」など地球レベルでの環境保全にかかわる国際的な条約とそれに向けての展開が図られるようになってきています。
 水道分野の国際的な枠組みは「地球環境サミット」で合意された「アジェンダ21」の「第18章:淡水資源の質と供給の保護」に位 置づけられています。この、具体的な実施については、1994年3月、オランダのノルトベルグで開催された「飲料水と環境衛生:UNCEDアジェンダ21の実施に向けて」というテーマの大臣会合および高級事務レベル会議で、65カ国、14国際機関およびNGO(非政府組織)の参加者を得て検討されました。
 「安全な水の供給と衛生をすべての人に」という目標を掲げて「国連飲料水供給と衛生の10カ年計画」(以下、ディケイド計画)が1981〜1990年に実施され、開発途上国における水道と環境衛生施設の普及に貢献してきました。しかし、開発途上国における人口増加、政治的優先順位 、地域住民の参加、財政的・人的資源、施設の維持管理、コストといった事項に対して配慮が十分でなかったため、「すべての人に」という目標は達成することができませんでした。さらには水道施設や環境衛生施設が整備されたとしても、それらのうちにはやがて人々に利用されなくなり放置されたままになっているものもあるとさえ指摘されています。
 地球環境会議で採択されたアジェンダ21の第18章は、ダブリン会議やニューデリー会議など一連の準備会議で採択された宣言を受けてきています。すなわち、@水資源と液状・固形廃棄物の総合的な管理による環境の保護と健康の確保、A施設整備やその維持管理にかかる制度や手続きを抜本的に改正し、これらにかかわる活動を総合的に推進できるとともに女性の参加を求めるようにすること、B地方機関を施設の計画・整備と持続的な発展ができるように強化するとともに、コミュニティそれ自体の維持管理への参画、C適正技術の適用と適切な維持管理により達成できる健全な財政状態が必要であることが基本的なテーゼとなっています。
 ノルトベルグ会議での政治宣言の概要は次のようです。多くの国々では無秩序な工業・農業開発のため水資源が持続可能でないように利用され、疾病を増加させるばかりでなく、地域的な水争いやその緊張は平和への潜在的な脅威ともなっています。まさに、世界は水の危機に直面 しています。利用可能な淡水資源が減少したり、その水質が悪化しているのは人間活動の影響を受けているためです。そのため、安全な飲料水を都市部はもとより、都市周辺部や農村部でも供給し続けるためには、水資源に関係するすべての分野で統制のとれた協調が図られるようにしなければなりません。
 ディケイド計画の「安全な水の供給と衛生をすべての人に」という目標は、未来の世代のためにも果 たさなければならない責務です。その目標を達成するためには、地域のさまざまな環境条件、社会経済的・文化的な条件やニーズの多様性や男女の役割などを考慮した体制が整えられなければなりません。そのためには、これまでの体制を総括して、人、水、財源を有効に活用できるようにしなければなりません。それには、これまで水道などを利用していなかった人々が費用負担可能で、環境にやさしい施設が整備されるようにならなければなりません。そのためには従来にも増して、政府資金・民間資金、援助機関の利用効率を高めること、それらの運用効率を高めること、自助努力のため地域共同体を積極的に活用すること、支払い能力に応じた現実的な料金を定めること、都市、工業および農業用水の浪費を少なくすること、水の再利用により水資源の有効利用と環境汚染の防止を図ることが必要です。そして、これらを達成するためにも水と環境衛生にかかる技術のブレークスルーをめざした研究が推進されるべきです。
 これらを達成するために世界各国は、行動計画を策定するとともに、その推進にあたって国際的な協調が求められています。その行動計画には次のことが対象になるとされています。水の危機の重大さについて市民や政治の関心を高め、「安全な水の供給と衛生をすべての人に」という最終目標をめざした現実的な目標を定め、効果 的で効率的な飲料水と衛生施設を整備し、それらの施設を通じて利用者から、あるいは汚染者負担の原則に立って得られる収入を最大限活用し、持続的な自立したシステムを確立します。また、国際的な資金を最大限利用できるようにするとともに、国内資源を有効に活用できるように技術移転を推進することが含まれていなければなりません。
 上記のような政治宣言を受けて、行動計画が採択されました。そこではさまざまな具体的事項が各国政府や国際機関に求められています。市民などの意識を啓蒙すべき事項として、水は社会・経済的な財であること、女性やNGOの役割を評価することや意志決定プロセスのあり方を考えなければならないことなどがあげられています。また、教育や人材開発、技術開発プログラムについての連携や島嶼国など小さな国への地域的・国際的な支援を求めています。水と健康には良質な水資源が不可欠であり、そのための水資源管理システムと、水と環境衛生についての国際的なモニタリングを求めています。施設の持続性を可能にするには適切なサービスがなければ不可能であり、サービスの対価としての料金でまかなうようにすべきであるとしています。しかし、農村や貧困層を対象とするような施設群では、国あるいは地域全体でバランスがとれるような料金制度の導入も配慮されるべきとしています。
 また、ODA(政府開発援助)の20%と国内財政資金の20%を水道や環境衛生分野に割り当てるというUNDP/UNICEFによって提唱されている20/20原則を配慮することが勧告されています。このような行動計画を進めるために、WHOが関与しているAFRICA2000計画、UNDPなど国連機関ばかりでなく、各国が定めるナショナルプランに政治宣言を反映させることや、国際水道協会(International Water Supply Association)や国際水質協会(International Water Quality Association)など国際的な専門家協会の国別 の協会の設立や発展が重要であるとしています。

(眞柄 泰基)

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