1.1 水道分野の国際協力の動向と課題


Q2
水道分野の援助における、わが国の動向について説明してください





 Key words:技術協力、資金協力、ODA

 政府による技術協力(専門家派遣、研修員受入れ、開発調査など)、資金協力(無償、有償)別 の1970年代、1980年代と1990年以降の協力実績を表1に示します。全体としては技術協力、資金協力とも大幅に増加しています。なお、表1に示す実績は水道・環境衛生分野をあわせたものですが、このうち水道分野の占める割合は約9割であり、また、1994年度は年度途中の実績であるので、1994年度実績はさらに多くなっています。
 技術協力については、専門家派遣、研修員受入れとも増加しています。すなわち、年間あたりの実績で比較すると、専門家派遣では4.8人、36.4人、83.3人であり、研修員受入れでは17.8人、46.2人、74人と増加しており、特に専門家派遣が増加しています。開発調査は0.8件、1.5件、および11.5件と増加しています。また、資金協力については無償分では5.6億円、86.5億円、235.8億円と増加し、有償分についても38.7億円、197億円、624.9億円と増加しています。また、外務省の資料によれば、1994年度の水道と衛生分野の協力事業は二国間ODAの9.53%を占め、技術協力では2.4%、無償資金協力では18.7%、政府貸付けなど(有償)では9.0%とされています。このように水道・環境衛生分野の国際協力の実績は着実に増加していますが、無償・有償という資金協力の増加に比べて、技術協力分野の増加が遅れています。すなわち、施設整備には貢献していますが、施設を計画したり、維持管理や経営管理といういわゆるソフト面 での割合が低くなっています。  
  1980年代後半から水道・環境衛生分野の技術協力の実績が増えたのは、「国連飲料水供給と衛生の10カ年計画」が国際的に展開されるにつれて、開発途上国においても水道・環境衛生施設整備の重要性が強く認識され、それぞれの国での水道・環境衛生分野の優先順位 が高まったことが大きな理由であると思います。また、わが国のODAにおいて、いわゆる基礎生活分野(basic human needs)への優先度が高くあげられるようになったことも大きな理由です。しかし、わが国のODAが開発途上国からの要請があってはじめて実施されるという原則も承知しておかなければなりません。
 1995年度までの過去10年間に実施された無償資金協力および有償資金協力の実績を表2,表3に示します。無償資金協力は36件、328.6億円であり、アフリカ・中近東諸国に対して19件、アジア諸国に対して13件、中南米諸国に対して4件となっています。これに対して有償資金協力案件10件のうち9件がアジア諸国であり、無償資金協力と有償資金協力との間に大きな差違がみられます。これは、アフリカ・中近東諸国の多くが後発開発途上国(least developed countries)であるため有償資金協力の対象とならないか、対象となったとしてもその債務返還が困難であるため、無償資金協力によって水道・環境衛生施設の整備を図る意志が強いためであると考えます。これは、無償資金協力の対象として地方水道の整備案件が多いことからも裏付けられると思います。
 水道・環境衛生分野の技術協力事業は資金協力に比べて、その全体に占める割合が低くなっています。水道・環境衛生分野の技術協力事業は、わが国が国際協力事業を実施するようになった時点から実施してきており、いわゆる後発の分野ではありません。専門家派遣については、水道分野の専門家が水道事業体に所属していることが多く、地方公務員派遣法が成立するまでは長期専門家として派遣されることが処遇上不利になることが多かった。しかし、そのような制約条件がなくなったにもかかわらず派遣専門家の実績が少ないのは、開発途上国からの要請が少ないのか、要請があったとしてもしかるべき専門家が少ないのか、専門家にふさわしい人材があったとしても水道事業体など派遣先の関心が低いのかさまざまな理由があるでしょう。
 水道分野の集団研修は、国際協力事業団(JICA)からの委託を受けて、(社)日本水道協会が運営している集団研修コースに加えて、札幌市水道局が運営にあたる水道技術者養成コース、寒冷地水道技術者養成コース、大阪市水道局が運営にあたる都市上水道維持管理コースのほか、国別 特設コースが開催されるなど集団研修コースの数も多くなってきています。しかし、開発途上国の水道・環境衛生分野の技術者養成のニーズは非常に高く、さらに多くの集団研修コースの開設を図っていかなければなりません。その際には、漏水防止、電気・機械、経営管理、小規模水道などに焦点を絞ることが必要だと思います。なお、政府が実施している研修コースのほか、横浜市水道局のように水道事業体独自で研修事業を行っていることも注目する必要があります。
 開発調査事業も、表3に1994年度の実績を示すように行われています。開発調査は、水道・環境衛生施設整備計画などを策定するために行うものであり、その成果 は無償あるいは有償資金協力事業に活用されることを意図しています。すなわち、開発調査により資金の運用計画や経営管理のための組織などを考慮した適正な事業の枠組みが明らかにされるものです。  水道分野のプロジェクト方式技術協力事業は1973年から3カ年にわたって実施したインドネシア水道技術者訓練センター事業に遡ることができます。その後、1985年12月〜1991年1月に実施されたタイ水道技術訓練センター事業、1991年4月〜1997年9月に実施されたインドネシア水道環境衛生訓練センター事業、1995年4月から5年間の予定で実施しているタイ水道技術訓練センター事業(フェーズ2)が実施されてきました。 


(眞柄 泰基)

表1

表2

表3.4

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