4.2 水道料金制度


Q104
水道料金制度におけるクロスサブシディとは何ですか





  Key words:水道料金制度、クロスサブシディ、料率

1.政策的な料率設定で発生するケース
 クロスサブシディ(cross subsidy)、すなわち内部補助または内部相互補助とは、不採算部門のコストを採算部門の価格に上乗せしてまかなおうとするものですから、料金や価格を単一商品単一価格で設定するのであれば、クロスサブシディの話は出ません。
 ところが、水道の場合は、本来的な用途や量を対象とするのに加え、他の用途や多量 使用にも同じ施設を使って供給し、料金には違う単価を使う場合が多いので、クロスサブシディをしているのではないかと思われがちです。
 しかし、日本の水道は、各供給対象について、それぞれに必要なコストに基づいて料金値を設けていますから、クロスサブシディにはあたりません。
 ところが、負担能力による料金設定や、生活弱者への減額免除と高所得者からの補填という考え方で政策的な料金設定をすれば、クロスサブシディになります。

2.事例が少ない水道事業での利用
 水道の場合、効率的な運営という観点から、まったく切り離された路線を併設することは少ないのですが、この場合には、供給するサービス、質、施設建設、運転いずれも独立しますので、コストも自ずから異なります。
 しかし、この場合でも、供給対象の性格は変わらないわけですから、政策的に同じ料率を適用することもありますので、クロスサブシディの一例になりえます。
 一方、水道と工業用水道、中水道などを各別に併設する場合は、自ずから対象が異なりますので、料率も異なるのが普通 です。
 もし、この場合で、不採算部門をカバーするために他部門の料率を高くすれば、クロスサブシディになります。

3.国による相違は政策の相違
 途上国の場合、国の現状を理由にして、上述のようなクロスサブシディを使う可能性は十分にあります。
 しかし、同時に、しっかりした考え方と見通しに基づいて採用していればともかく、便宜的に使う場合も多いので注意する必要があるでしょう。また、内容も、政策の違いに左右されることでしょう。
 しっかりした見通しもなくクロスサブシディに頼ると、財政上の悪循環をまねくおそれが強いのです。高額負担者は、井戸やボトルのような他の競合する給水源に、撤退もしくは依存を強めることも考えられるからです。
 また、競合するものがない場合でも、強度の累進税と同様に、経済成長の活力を削ぐ可能性もあります。

【参考文献】
1)植草益:公的規制の経済学,筑摩書房,1991.

(野津 博道)

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