4.3 水道事業の民営化と民活化


Q113
民営化・民活化の進み具合を、その水道事業をODAの対象とすべきかどうかという観点から説明してください





  Key words:民営化、民活化、完全民営化、ODA、水道経営の効率化

 援助機関が、どのようなプロジェクトを援助の対象とするかどうかということは、その援助機関の政策の問題ですから、基本的には、外部からあれこれ言うべきことではありません。ただ、各援助機関も、援助に関する世界的なコンセンサスを無視するべきでなく、世界の援助政策の動向を把握したうえで、自らの援助政策を樹立すべきでしょうから、そういう観点から、世界の水道援助の考え方を整理してみると次のようになるでしょう。

1.民営化の進み具合とODAの対象
 まず、完全民営化についてですが、それをめざすための構造改革プログラムのような政策の立案は援助の対象になりえますが、民営化された水道そのものを直接援助するわけにいかないでしょう。民営化された水道に、市場金利よりも有利な条件で融資、補助などを行うことは、効率化の努力に水をさすものであり、資金の、その国における最適配分機能を歪めるものだという考え方もあるようですから、今後も政府開発援助(ODA)の対象になることはまず考えられません。
 実際の援助プロジェクトでは、完全民営化の事例はほとんどなく、水道の新規投資と経営を、できるだけ民間セクターに委ねようという民活化プロジェクトが大部分です。このようなプロジェクトのうち、公的セクターが資金調達の責任をもつプロジェクトは当然ODAの対象となりえますが、そうでない場合、すなわち、民間に資金調達の責任がある場合に、そのプロジェクトを援助するかどうかは難しい問題です。
 最近、借款については、途上国政府の債務保証などを条件に、民間セクター、第3セクターなどへの転貸が、海外経済協力基金(OECF)を含め多くの援助機関において可能になっています。無償資金協力の場合は、現在のところなかなか難しいようですが、基本的には借款の場合と考え方は同じですから、借款の場合よりも条件はきつくなるにしても、水道経営の効率化という観点から条件は緩和の方向にあるのではないでしょうか。

2.民活化を視野に入れた援助政策
 ところで、民営化・民活化は経営効率化の一つの手段であって、それ自身が目的ではありませんから、何が何でも民営化、民活化の取り組みをしなければ援助しないというのでは本末転倒です。しかしながら、実際には、援助機関が途上国政府に対して、援助の実施に際して民活化の条件を課すことが多くなってきています。それは、世界銀行をはじめとして世界の各援助機関では、途上国の水道は、経営を公営のままにしておいたのでは、先進国がいくら技術移転をしたり資金協力をしたりしてもうまくいかない、結局、経営効率化のためには民活化が不可欠であると考えているからでしょう。援助プロジェクトでは、建設資金は援助機関が基本的に融資するのであって、途上国政府に資金調達をさせようとしているわけではないのですから、本来、BOT(build−own−transfer)などの手法をとる必要はないはずですが、それでも、そのような方式をとらせようとするのは、工事完成後の維持管理、経営を考慮すると、最初の段階から民活化を考えておくほうがよいということでしょう。
 日本の援助プロジェクトでは、公営のままでも効率化の可能性はあるはずだということで、JICAの技術協力においては、民営化、民活化について積極的に提言することは、これまではあまりありませんでしたが、最近では1つの選択肢として検討されることが多くなっています。世界の援助機関と今後とも協調して活動するためにも、公営だけを前提にせず、民活化を含めた広い視野からの援助政策が必要になると思われます。
(斉藤 博康)

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