4.4 水道事業の組織と人事制度


Q123
途上国での顧客管理の改善は、どこから、どんな手順で進めたらよいですか





  Key words:顧客管理、データ収集、OA化

1.何のための顧客管理か
 水道は人の生命の維持と健康の保全のために必要なものですから、国家が国民に対して負う責任を果 たすためのサービスです。同時に、水道は水という商品を顧客に販売する事業でもあります。
 事業という点からみれば、売り手として買い手がどのようなサービスを求めているのか、サービスの現状に満足しているのか、不満があるとすればどのような点を改善すべきかというのは大事な問題です。したがって、水道事業は顧客とのコミュニケーションを広げ深めるための活動が必要です。Q122で述べた広報活動も、ここでいう顧客管理もコミュニケーションの手段です。
 買い手が商品に満足できなければ、買わないことで意思表示ができますが、水道の場合にはそれができません。具体的な苦情を別 にして、顧客が水道事業について不満を言う手段や機会がほとんどありません。
 正しい顧客管理とは、顧客の情報を収集することにより顧客の不満やニーズを汲み取り、それに基づいてよりよいサービスを提供することです。水道事業には顧客の理解と協力を必要とする場合が多くあります。たとえば、水源環境の保全、節水、漏水の通 報、料金改定などを実行する場合です。
 途上国の水道には役所意識が強く、顧客とのコミュニケーションを大切にする意識は弱いようです。そのために、広報活動に消極的ですし、顧客管理を料金収入を確保するための手段であると狭く解釈しがちです。 

2.顧客の給水装置についてのデータ収集
 途上国の場合に、顧客の給水装置(公有の引き込み管とメーター、私有の屋外・屋内の配管や装置)のデータが整備されている例はまれです。それどころか、そのようなデータが必要であることの理解も乏しいのです。
 長い間使用され、途中で検定されなかったメーターを検針して、それに基づいて料金を調定・請求することが平気で行われています。粗悪な材料を使って施工された屋内配管から漏水して、せっかくの浄水が浪費されていても、それは顧客の一方的な責任とみなされ、水道事業の側としては料金が徴収されればよいという考え方です。公有部分の施工が悪くて出水不良を起こしても、それだけの問題として片づけられます。
(1)メーター
 専用水栓と共用水栓の両方がある途上国の都市で、共用水栓や集合住宅の各戸にメーターを取り付けていない場合が多くみられます。費用を多少とも節約したいという意図によるのですが、これが水道水の浪費を誘起することになりやすいことに気づいていません。
 メーターがないから浪費してもわからない、他の人が浪費するかもしれないから自分が節約しても意味がないという考え方であり、それが拡幅されて受益者負担とか原因者負担というルールが守られなくなります。他の費用を節約しても、必要なメーターをすべて取り付けることが大事です。
(2)規格・基準
 給水装置に関して、公有部分と私有部分に使用する材料の規格を作成し、検査に合格した製品だけを使用すること、施工基準を作成し、事業体も施工業者もそれに従うことが必要です。施工能力の向上のために技能試験を行い、資格を認定する制度も有効です。
(3)施工記録の保存と管理
 途上国では、給水装置の公有部分について作成された施工記録が完全に保管されている例はほとんどありません。どのような材料がどれだけ使用されたか、どの位 置、どれくらいの深度に埋設されたかという記録が保管されることは、大切な顧客サービスです。
 給水装置の私有部分についても同様です。この点について、事業体の側に明らかな誤解があります。私有財産であるから事業体には責任がないとか、とやかく言うのは私権の侵害になるという誤解です。不良材料の使用や不良施工を防ぐためには、事業体が立ち入り検査権をもつような考え方を勧めるべきです。
(4)水質モニタリングデータの管理
 途上国のかなりの数の都市で、浄水の安全性を監視するために配・給水管網内の定点において、定期的に採水し残留塩素量 を計測するモニタリングが行われています。しかし、このデータが単なる技術資料として取り扱われ、顧客サービスのための重要データであるという認識は少ないようです。
 都市の変貌に伴って水道施設も変化しますから、このデータを保存し、適当な時機に分析して評価することが必要です。

3.顧客の水使用についてのデータ収集
(1)検針・調定(料金査定)・集金
 外勤の係員が検針した水使用量のデータに基づいて、内勤の係員が料金を査定して請求書・領収書を作成し、外勤の係員が請求書を配達しながら同時に集金するか、顧客が水道事業体の営業所や金融機関に出かけて料金を納入するのが、途上国の最も一般 的な例です。
 検針は毎月というのが多いのですが、資金に余裕がある事業体では2カ月ごとという場合もあります。1人1日の検針件数はさまざまです。徒歩、自転車、バイクなどの交通 手段、住宅の密度、メーター設置場所の条件などに支配されるからです。検針用カードは地区別 に保管され、顧客名、住所、前回までの使用量などがあらかじめ記入されています。検針係員は今回までの使用量 を読みとり記入します。
 検針効率を上げるためには、スピードの早い交通手段を供与すること、メーターを近づきやすい場所に設置すること、修理や取り替えによりメーターを読みとりやすくすることなどです。
 メーターの形式と番号、給水栓数などを検針カードの記入項目に追加し、給水装置のデータとリンクするすることがデータベースの改善につながるのですが、あまり例をみません。また、これらの項目をコード化することが将来のコンピューター化のために便利と思います。
 多くの場合に調定は電卓による手計算です。料金が用途別であったり、単価が逓増・逓減であったりする場合には、あらかじめ数表が作成され利用されています。
 途上国でやっかいなのは集金です。ある程度のレベルの国々では、上・中流の階層は銀行カードを使用していますし、銀行口座をもつ階層は広い幅にわたっていますが、自動引き落としを水道事業体と契約する制度は普及していません。集金係員の悩みは、集金日を予告していても不在であったり、当日持ち合わせが不足していることです。居留守を使って支払いを遅らせる顧客もいます。
 集金効率を上げるためには、営業所や取り扱い金融機関の数を増やし、自動引き落としや、自分から出向いて早めに納入する顧客に対して料金割り引きをするなどの改善が考えられます。
 いずれにせよ、途上国の水道事業組織で検針・調定・集金作業に関係する職員の数は大きな部分を占めていますし、転写 や計算などの手作業にはミスは避けられませんから、コンピューターが普及しつつある途上国では、早晩自動化が最初に着手される部門でしょう。
(2)組織編成
 現金を取り扱う人や部門が誤ちを犯さないかというのは、すべての組織に共通 する悩みです。作業効率からみれば検針・調定・集金は一貫するべきですから、多くの組織で1つの部門に集約され一元的に管理されていますが、時には集金だけが切り離されて、経理や会計の組織に組み込まれています。
 顧客の便宜を図る点からは、料金納入できる営業所の数を増やすべきですが、現金取り扱いの係員の数も増やすことに難点があります。金融活動が活発な途上国ならば、なるべく多くの金融機関の出先に公金の取り扱い認可を与えるべきでしょう。それは、自動引き落としを容易にしますし、これらの機関のコンピューターネットワークを利用できますし、民営化の方向づけの一つにもなりますから。
(3)OA化の方向づけ
 失業率の高い途上国では、軍隊や行政機関は失業救済という観点から縮減しがたいのが現状ですが、それを恐れていては国や社会の構造を改革し全体の経済効率を高めることは不可能です。水道事業も例外ではなく、減員によって固定経費を減らし、浮いた費用をサービス性を高めるような投資に振り向けるべきです。
 水道事業では毎日膨大なデータを処理しなければなりませんが、幸いにも小型コンピューターの性能が日進月歩し、価格も急速に下がっているという環境変化があります。ゲームの普及により、子供のころからコンピューターになじむ機会も急増しつつあります。
 途上国の水道事業体のOA化について、積極的に進めることが必要であり、それは援助計画の主要なアイテムになると思います。
 アプローチとしては、下部に権限を移譲するように組織を再編成し、顧客サービスの充実を目的とすることが前提です。当初は、小型コンピューターによる分散型の処理を習熟し、次に事業体のなかでネットワークを形成し、最終的には大・中型コンピューターをホストとする全体のネットワークを組むという順序となるでしょう。
 検針・調定・集金のデータと顧客の給水装置のデータを統合することは初期段階から必要ですが、コンピューター利用が進めばマッピングによる施設データの整備も行われることになります。
 途上国の大都市では、いろいろな行政事務や公共サービス事業のデータを処理するための計算センターが設けられ始めました。事業体組織自身のコンピューター化と並行して、当面 の対策として計算センターを利用することも検討されるべきです。

(若本 修)

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