5.1 水道整備


Q125
途上国における、「水道」と「飲料水供給」の区別 、ならびに「普及率」の意味を説明してください





  Key words:水道、飲料水供給、普及率

1.「水道」の意味
 まずはわかりやすい「水道」の意味から考えてみます。日本の水道法1)によると、「水道」とは、「導管及びその他の工作物により、水を人の飲用に適する水として供給する施設の総体をいう。(略)」と定められており、また『新体系土木工学』上水道編2)によると、「水道」とは「生活・公共・生産活動に必要な質と量 の水を、管路系により有圧で連続的に供給する公共施設」としています。したがって、「水道」とは飲料水を供給する施設を意味しています。これを「水道」の狭義の意味とすると、英語ではwater worksとなります。また、「飲料水供給」のように「水道」が供給をも含めた意味(広義)で使用される場合のことを考えてみます。『水道法逐条解説』3)によると、「水道事業」とは、「一般 の需要に応じて、水道により水を供給する事業をいう。(略)」と定められており、ここで、「水道により水を供給する」とは、「水道(狭義)」によって水を供給することを意味し、水道以外の手段、たとえば車両や船舶、タンクなどによって水を直接需要者に供給したり、びん詰めの水を供給したりするのは水道事業ではないとしています。したがって「水道(広義)」とは、多くの飲料水供給方法の一つで、導管により需要者に供給することを意味します。英語ではpiped water supplyとなります。

2.「水道」と「飲料水供給」の区別
 この「水道」の意味は日本の例ですが、途上国でも同じように考えても不都合はありません。つまり、「水道」は「飲用に適する水を供給するための導管を含む施設の総体(狭義)およびその水道による給水(広義)」となります。そうすると、「飲料水供給」は「飲用に適する水を供給する水道を含むあらゆる方法(drinking / potable water suppply)」と、「飲用に適する水を供給する水道以外の方法」の2通 りに考えられます。日本においては飲料水の供給は水道にほぼ100%頼っていますが、途上国においては水道以外の給水方法も多数使用されています。たとえば、公共水栓、家庭用手押しポンプ、給水車による給水、水売りからの購入、水源からの往復数時間かけての水運搬、雨水の使用などがあります。なお、途中まで導管、途中から人力運搬による給水である公共水栓は戸別 給水と同じ水道システム内にあり、水道のなかに含めたほうがよさそうです。一般 に途上国においては、都市は水道による給水が多く、地方農村は水道以外の供給方法による給水が多いようです。

3.「普及率」の意味
 日本では、普及率というと水道普及率を意味し、行政区域内あるいは給水区域内の全人口に対する水道(各戸給水)を利用している人口の割合で示され、水道の整備状況を把握する最も簡便で有力な指標となっています。しかし、途上国での水道の普及は日本のそれと内容において大きな隔たりがあります。途上国では水道以外による給水も普及のなかに数えられ、そして水質、水量 の面でもさまざまな普及レベルがあります。つまり、途上国における普及の意味するところは、家庭用手押しポンプや公共水栓の設置、安全な水源にアクセスできることであったり、水道による給水であっても断水が頻繁に起こったり、飲料に適しない水の供給だったりします。このように普及の意味するところは、国、地域によって大きな違いがあり、一概に普及率という数字だけで途上国の給水整備状況を判断することは非常に危険です。しかし意味がまちまちであるなかでも、最も途上国の普及率データが整備されているWHOの「国連飲料水供給と衛生の10カ年計画」によると普及率は、英語で“the percentage of the population with access to safe water either by standpipe or house connection”と定義されており、「共同水栓または戸別配管のいずれかによって安全な水へのアクセスをもつ住民の比率」が普及率の尺度であるとしています。なお、共同水栓のなかには井戸も含まれます。このような普及率の意味の多様性により、ある都市や地域の普及率の示す内容を正確に把握するためには、提示されているデータを以下のようなことを考慮しながら調整する必要があります。
(1)普及率の定義。
(2)水質、水圧、水量などの状況。
(3)給水の利便性。
(4)人口の増減。
(5)施設が建設されただけではなく、持続してサービスを続けているか。

4.普及の内容
 普及内容にもいろいろなレベルがあることを、給水水質、水量、利便性の面 から具体的にみてみます。
(1)給水水質
 一般に日本では水道による供給というと、飲用に適した安全な水を供給することを意味しますが、途上国においては普及率の高い国であっても安心して蛇口あるいは供給された水をそのまま飲用にできない国が多いのが現状です。財政的な理由から殺菌剤を注入していなかったり、老朽化の著しい水道では水圧の低下時に損傷している部分から汚水が混入したりと、水道が普及していても不衛生な水の給水が行われているところもあります。
(2)給水量
 一般に水道による給水というと、1日24時間連続して十分な圧力で供給されると考えられがちですが、24時間給水のほうがまれで、給水制限により1日数時間の給水が常識となっている地域や水圧不足で必要な給水量 を得られない地域もあります。特に途上国の都市部では、急激な人口増加による需要量 の増加に施設の拡張が追いついていけないため、市内のいたるところで出水不良や断水を引き起こしています。このような場合には実際の1人あたりの給水量 は著しく少なくなり、そしてこのような給水状況にもかかわらず、給水区域内にいる人口は普及率のなかに数えられてしまいます。一般 に途上国において公表された普及率は実際の数値より高く見積もられる傾向にあります。
(3)給水の利便性
 各戸給水のほかに途上国では、水運搬を伴う公共水栓や井戸からの給水も普及のなかに数えられます。したがって、都市部では、戸別 給水および公共水栓による給水で100%となったり、農村部では、深井戸と手押しポンプの設置で集落の全員に飲み水の供給ができて100%となったりします。また運搬を伴う給水の場合は、水源へのアクセス距離が数十m〜数qであったりと、利便性において大きな違いがあります。また1個の給水栓が受け持つ給水人口もさまざまで、給水人口が多い場合は長時間行列して給水を受けているケースもあります。
 このように途上国においてはさまざまな給水形態やサービスレベルがあり、一口に普及率といってもその示す内容は千差万別 です。したがって、途上国における普及率の意味を一様に定義することも、それを使用して途上国の給水状況を把握することも簡単なことではありません。「普及率」はその意味と限界を十分知ったうえで使うようにしなければいけません。

【出 典】
1)厚生省環境衛生局水道環境部監修:水道六法,東京法令出版,p1, 1980.
2)丹保憲仁:上水道.新体系土木工学 88,技報堂出版,p9, 1980.
3)厚生省水道環境部水道法研究会:改訂水道法逐条解説,日本水道協会,p104―124,平成4年改訂.

【参考文献】
1)水道協会雑誌 62(3):p105, 1993.
2)水道協会雑誌 62(4):p2―5, 1993.
3)水道協会雑誌 63(12):p135―141, 1994.
4)World Development Report, World Bank, Washington DC,p146―148,p248,1994.
5)WHO環境保健委員会報告,環境産業新聞社,p 180―187,1993.

(芳賀 秀壽、佐藤 弘孝)

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