5.1 水道整備


Q126
途上国の水道整備状況を定量的に把握するための指標、ならびに整備の現状について説明してください





  Key words:水道整備状況、水道普及率、漏水率、水系伝染病罹患率

1.水道整備状況を定量的に把握するための指標
 日本国内では水道の意味が正確に定義されておりその統計資料も整備されているため、水道の整備状況を把握することは簡単です。しかし途上国においては水道普及の意味(Q 125参照)するところは千差万別 で、またその基本的な統計資料でさえ不備なところが多いため、正確に状況を把握することも比較することも容易ではありません。一般 的に途上国の水道整備状況を把握する指標として、普及率、1人あたり平均供給施設能力、漏水率、有収率、水系伝染病の罹患率および死亡率、1人あたり水道投資額などが考えられます。これら指標の特徴を表1に示しました。また同一国内で水道整備状況の推移を把握する場合は、給水人口、給水量 、1人あたり給水量、投資額などの指標も考えられます。

2.指標の具体的な例
(1)水道普及率
 ここではWorld Development Report1) の水道普及率を用いて水道整備状況を把握してみます。なお、同レポートでは水道の定義を「共同水栓または戸別 配管のいずれかによって安全な水へのアクセスをもつ住民の比率」としています。このような定義があるものの、Q125で示したように普及率の示す内容は、国、地域によって大きく異なります。特に都市と地方農村の水道の給水形態は大きく異なることに注意してください。このレポートによると一般 に、経済レベルの高い国ほど普及率が高くなる傾向にありますが、経済レベルの低い途上国のなかでも、高い普及率を示している国も少なくありません。一般 に、1人あたりのGNPが6000ドルに達すると普及率がおよそ100%になるようです。途上国のなかでも最も所得が低いグループ(低所得国)のなかで、高普及率を達成している国はヨルダン(99%)、ルーマニア(95%)、エジプト(90%)、ジンバブエ(84%)があります。低い国はマリ(11%)、エチオピア(18%)、マダガスカル(21%)があります。また都市と地方農村別 では、ほとんどすべての国で都市の普及率が高くなっていますが、一部の国、たとえばバングラデシュなどでは、都市(39 %)の普及率が地方農村(89%)の普及率を下回っています(注:上記数値はすべて1990年の値)。また、普及率が高くなった国としては、ミャンマー(21%から74%:1980年から1990年)、ブルキナファソ(31%から70%:同)、ギニア(15%から52%:同)があげられ、逆に低くなった国は少ないのですが、ペルー(53%から50%:同)、エルサルバドル(50%から47%:同)があります。参考として、途上国の水道普及率の高い国、低い国の上位 3カ国を国全体、都市、地方農村別に表2に示しました。
(2)漏水率
 漏水は送配水および給水施設の劣化により発生しますが、水圧コントロールが適切でない場合はさらに漏水量 を増加させます。日本のコンサルタントの調査による途上国における漏水率の例を表3に示します。また、World Development Reportによる途上国の大都市圏の水道システムを対象とした給水ロスのデータ〔物理的なロス(漏水)と商業的なロス(メーターの過小表示、不正接続、無届接続、消火用水などの使用)の合計〕を表4に示します。国によって多少のばらつきがありますが、ほとんどの国が30%以上の給水ロスを示しています。このなかで、モロッコの5%は驚異的な数値です。なお、日本の無効率の全国平均は、平成8年で9.1%となっています。
(3)水系伝染病の罹患率および死亡率
 図1は、日本における水道普及率と水系消化器系伝染病患者数の推移を示したものです。およそ100年前、日本の近代水道が主として水系伝染病対策、特にコレラ予防策として進められました。その結果 、水道普及率が50%を超えたあたりから普及率の伸びとともに急激に患者数が減少しだしました。ただし、このような患者数の減少は水道の普及によるものだけではなく、下水道の普及などの衛生環境の改善、腸チフスの予防注射の普及などの医療の発展が寄与した部分もあります。表5に途上国の水道普及率とコレラ罹患率の数値を示しました。

【出 典】
1)World Development Report, World Bank, Washington DC, 1994.
2)改訂水道のあらまし,日本水道協会,1993.

【参考文献】
1)World Development Report, World Bank, Washington DC, 1994.
2)丹保憲仁:上水道.新体系土木工学 88,技報堂出版,p2−3, 1980.
3)Weekly Epidemiological Record, WHO, Geneva, 14 July 1995.

(芳賀 秀壽、佐藤 弘孝)

表1

表2


表3,4

図1, 表5

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