5.1 水道整備


Q127
途上国における給水形態別の1人あたり1日平均給水量 の目安について説明してください





  Key words:1人あたり1日平均給水量

1.1人あたり1日平均給水量の目安
 1人あたり1日平均給水量は水道や水道以外の飲料水供給施設の規模決定の基礎となる数値です。なお、水道以外による給水方法はQ125を参照してください。1日平均需要水量 は、供給対象地域の家庭用水と公共用水、商・工業用の都市活動用水などの1日平均需要水量 に、漏水などの有効に使用されない水量を足し合わせることによって算出されます。1人あたり1日平均給水量 はこの需要水量を給水対象人口で割り戻すことによって算出されます。水道による給水の場合、必要な水量 を連続して給水でき、また、家庭用水以外に都市活動用水を供給することが多いため、1人あたり1日給水量 は水道以外による給水形態の水量よりも大きくなります。一般に途上国においては水道以外の方法による給水は地方農村で多く家庭用水のみをまかなうのが一般 的です。表1に途上国における給水形態別の1人あたり1日平均給水量の目安を示し、以下でその説明を加えてみます。

2.水道以外の給水形態の1人あたり1日平均給水量
 水道以外の給水形態では水運搬の労働が伴うため給水量は非常に少なく、一般 に運搬距離が長くなればなるほど給水量が少なくなる傾向にあります。水道以外の給水形態の1人あたり1日家庭生活用給水量 の目安を表2に示しました。古い文献(1983年)の値ですが、この給水形態の給水量 は水運搬の労力が減少しない限り給水量も増加しないと考えられますので、現在でも十分有効な値として使用できます。この給水量 から需要水量を算出するとき、共同水栓だけは導管施設があるため、漏水量を見込む必要があります。なお、参考として、共同水栓の1人あたり1日平均給水量 は、カイロ(14リットル/人/日)、エジプトの州都平均(32リットル/人/日)、ダルエスサラーム(22リットル/人/日)、カトマンズ(31リットル/人/日)となっています1)。
 生命維持のために必要な最小水量は一般に、温暖な地域で2.2リットル/人/日、高温乾燥気候で9.0リットル/人/日くらいといわれており1)、この水量 はほぼすべての給水方法で満足しています。しかし、基礎的な生活を営むために必要な最小水量 〔United States Agency for International Development(USAID)によると20〜40リットル/人/日〕を、500m以上の長距離水運搬は満足していません。したがって、基礎的な生活を営むための最小必要量 を確保するため、500m以内に給水施設の設置が最低限必要と考えられます。特に、水の運搬を担っている女性や子供の労働を軽減するためにも、適切な給水施設が必要とされます。

3.水道の1人あたり1日平均給水量
(1)家庭用1人あたり1日平均給水量
 途上国における給水形態別の家庭用1人あたり1日平均給水量の目安を表3に示します。1983年と多少古い文献ですが、家庭の水使用量 は生活水準や水使用機器の普及度合いに比例するため、低所得国などでこれらの数値が変わらなければ現在でも十分有効です。複数給水栓の150リットル/人/日は、日本の1970年前後(1990年には234リットル/人/日)の家庭給水量 に相当し、途上国の都市家庭にとっても十分な給水量と考えられます。
 表4に屋内給水栓による給水で生活水準別の1人あたり1日給水量を示します。当然のことながら生活水準が高くなるほど、そして給水栓が多くなるほど給水量 は増えます。給水栓1個あたりに換算した給水量は約80〜50リットル/日となっており、これも目安になるかもしれません。
(2)都市水道の1人あたり1日給水量
 途上国の都市の水道の1人あたり1日給水量は、気候、水源の賦存量、住民の生活水準、産業の発達の度合い、人口規模や水道の普及度合いなどによって大きく異なります。特に水源の賦存量 の影響は大きく、中近東などの砂漠地帯で水源に恵まれない地域の給水量は非常に低く抑えられています。また、先進国の都市水道の給水量 もさまざまで、表5に示すようにここに示された都市の値だけでも229〜753リットル/人/日の幅があります。なお、先進国の給水量 はここ十数年ほぼ横ばい、あるいは節水型水使用機器や節水意識の高まりによって多少減少傾向にあり、先進国の1人あたり1日給水量 はほぼ平衡に達しつつあるようです。途上国の都市水道の1人あたり1日平均給水量 は200〜500リットル/人/日の範囲内にあり、途上国の1人あたり1日給水量は先進国に比べて少なくなっています。理由としては以下のようなことが考えられます。
 1)途上国の家庭においては、水洗便所、洗濯機、シャワーなどの水使用機器の普及率が低いため、家庭使用水量 が少ない。
 2)途上国においては商・工業などの産業の発達が遅れており、産業用水量が少ない。
 3)水道施設の整備が遅れており、供給量が限られている。
 先進国も途上国もその都市の特性により1人1日あたり給水量は大きく異なってきます。したがって、一律に給水量 の目安を示すことは妥当ではありません。ここでは家庭用給水量をもとに適当と思われる数値を算出してみました。途上国の家庭用給水量 (複数給水栓)を150リットル/人/日として、1960年の日本の用途別給水量割合(営業・官公庁用水27.9%、工業用水13.9%)と途上国の給水ロスとして30%(Q126参照)を適用して算出すると、およそ300リットル/人/日となります。日本の1960年には、すでに産業がかなり発展していたことを考慮すると、300/人/日以下が適当な目安と考えられます。実際の途上国での都市水道の計画では100リットル/人/日や500リットル/人/日で計画しており、やはりケースバイケースで考える必要があります。

4.途上国における特殊用途の給水量
 家庭用や産業用のほかに途上国に特異な飲料用水の用途として、家畜用水、家庭菜園用水、暑い地域における庭撒き用水などがあります。特に途上国でもさらに低開発国や都市スラム、地方農村の住民は、食物の自給を飲料水を利用した家庭菜園に頼っていることが多く、無視できない水量 となっています(表6)。

【出 典】
1)Bernard J. Dangerfield, ed:Water Practice Manuals 3. Water Supply and Sanitation in Developing Countries, Institution of Water Engineers and Scientists, London, England, 1983.
2)Hofkes EH, ed:Small Community Water Supplies:Technology of Small Water Supply Systems in Developing Countries, Technical Paper Series 18, IRC, 1983.

【参考文献】
1)水道のあらまし,日本水道協会,1987.
2)水道統計 平成4年度,日本水道協会.

(芳賀 秀壽、佐藤 弘孝)

表1

表2,3

表4,5

表6

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