5.1 水道整備


Q128
途上国での施設計画における、目標(計画)年次の定め方について説明してください





  Key words:水道計画、目標年次の設定

1.日本の設計指針
 『水道施設設計指針・解説』1)によると、「計画年次は、計画策定時より15〜20年間を標準とし、将来予測の確実性、施設整備の合理性を踏まえたうえで、可能な限り長期に設定するのが基本である」としています。実際の途上国での水道計画においても、日本の指針値を踏襲して、15〜20年を採用することが多いようです。

2.『開発途上国における都市排水・汚水処理技術適用指針(案)』2)
 この指針によると、「下水道計画の計画目標年次は、都市の発展の速さ、予測の精度等を勘案して、無理のない期間とする」とし、「目標年次は、データがそろっていて開発計画を持っているような都市については都市の発展が高い精度で予測されるため計画目標年次までの期間を長くとり、このようなデータがなく今後変動が予想される都市については期間を短くすることができる」としています。その他に考慮する事項としては、「他に中長期開発計画があって、その計画目標年次が15〜20年の間にあるときには、下水道の計画目標年次をそれに合わせることもある」としています。また、同指針内で参考としている Okun A & Poghis G によると途上国における計画目標年次は、以下の理由により先進工業国が慣習的に用いているものよりもずっと短くすべきであるとしています。
(1)施設の質は劣っており、それらの寿命は比較的短い。
(2)システムは容易に拡張できる。
(3)人口の伸び率は不確かであるが、急激な伸びは上下水道施設の整備があって初めて可能となる。
(4)借入金の利子率がきわめて高い。
(5)下水道の施設能力は初期能力段階で能力に見合った負荷がかかる程度にすべきである。

3.『新体系土木工学 上水道』3)
 同書によると、計画年次をどの時点に選ぶかは、以下のような要素が複雑にからみ合って単純ではないとしています。
(1)都市の発展の予想(人口、構造の変化)
(2)資金取得の難易(利率)
(3)構造物(施設)の耐用年数
(4)施設の拡張の難易
(5)水資源の状況
 また、「計画年次を先へもっていくほど、需要量が期待値から外れるリスクが増すため、将来への供給水量 の安全性と経済性との調和から10〜15年といった計画年次がしばしば用いられる。急激な人口集中が生じているような大都市の計画年次は数年程度と極端に短い場合があり、英国のように20世紀初頭にすでに人口の都市集中を終えた国における30年を計画年次とするのと大きく異なる。また、施設の耐用年数、拡張の難易も勘案する必要がある」としています。

4.標準的な水道計画の例
 次に途上国で策定される中大都市の水道計画を例にとって考えてみます。まず、水道計画が策定され計画を実施する場合、一番大きな制約条件は資金調達の可能性です。日本国内の水道プロジェクトの場合は、比較的資金調達が容易で、整備計画が順調に進みますが、途上国においてはこのようなケースはまれで、一般 に計画は資金的な制約のため遅延、中断することがほとんどです。そのような場合、目標年次は有名無実化し、計画自体も年を追うごとに陳腐化していきます。仮に資金調達が可能であるとすると、資金の拠出が決まるまでの審査、手続きなどに約1〜2年を費やし、第1期事業の設計・建設期間が3〜4年とすると、完成までおよそ5年の期間を必要とします。また、途上国においては、計画立案時点ですでに需要をかなり下回った水量 しか供給できていなかったり、施設の老朽化が著しい場合が多く、まずはリハビリテーション(改修)を必要としています。したがって、第1期事業は、主に施設のリハビリテーションに重点が置かれ、本格的な供給地域の拡大や施設の拡張は第2期事業に回されます。この拡張に5年ほど必要とし、完成後すぐに需給が逼迫しないように5年程度先の需要を満たすように施設を計画します。これらを合計するとおよそ15年となります。

5.参考事例プロジェクト
 JICA調査で策定された水道計画の目標年の例を表1に示します。一般的に15〜20年を目安として考えるところが多いようです。

6.まとめ
 指針値や実際の計画の例などを参考として、目標年次の設定には以下のことを考慮する必要があります。
(1)一般的に10〜30年後程度が妥当と考えられ、この間で対象国の発展の可能性、予測の不確実性を考慮して設定する。予測誤差が過大になる可能性がある場合は短期に設定したり、段階的な整備計画とし、計画の見直しを計画途中年で実施する。
(2)水道の整備状況が極度に遅れていたり、システムの劣化が著しく、長期的に大規模な投資と労力を必要とする場合は比較的長期に設定する。ただし、リハビリテーションのみの場合は短期でもよい。
(3)目標年次は2010年、2015年などの5年単位の区切りのよい数字が好ましい。技術的ではないが心理的に受け入れやすく、目標に向けてスローガンが立てやすくなる。
(4)基本的には、各施設の耐用年数、拡張の難易などを考慮したうえで、施設の計画年次が最大のものを採用する。ただし、ダムなどの長期的視野に立った大規模な先行投資が必要な場合は、施設により目標年次を変えても差し支えない。
(5)他の水道計画や関連計画がある場合は、その計画との調整を図り、目標年次を決定する必要がある。
(6)目標年次の長短にかかわらず、各施設は過大な先行投資を避けるため、その時々の需要に見合うように段階的に建設する必要がある。
(7)5年ごとや計画中間年での見直しが必要である。

【参考プロジェクト名】
ダルエスサラーム水道改修計画調査(タンザニア)
プノンペン上水道整備計画調査(カンボジア)
ポートモレスビー上水道整備計画調査(パプアニューギニア)
ザルカ地区上水道整備計画調査(ヨルダン)
アラル海沿岸6都市上水道整備計画調査(ウズベキスタン)

【出 典】
1)水道施設設計指針・解説,日本水道協会,p5,1990.
2)開発途上国における都市排水・汚水処理技術適用指針(案),建設省・国際建設技術協会,p66―67,1993.
3)丹保憲仁:上水道.新体系土木工学 88,技報堂出版,p41―42,1980.

(芳賀 秀壽、佐藤 弘孝)

表1

戻る    次へ

コメント・お問合せ