5.1 水道整備


Q130
途上国では都市部と地方農村部で水道整備の状況が大きく異なりますが、整備の優先順位 をどう考えるべきですか





  Key words:水道整備、水道整備の優先順位

1.都市と地方農村の水道整備状況
 World Development Report 1)による途上国の都市と地方農村の水道整備の状況を普及率(Q126参照)を指標として図1に示します。また、水道普及率を表1のように都市と地方農村別 に高、中、低に分類して集計してみますと、一番多いケースが都市が高く地方農村が中程度の普及率のケースで、次が両方とも高いケースです。都市が低いケースはまれで、都市と地方農村ともに低い2カ国があるのみです。このように途上国においても都市の水道整備が進み、地方の整備が遅れているのが一般 的です。

2.水道整備の一般的傾向
『水道・廃棄物処理適正技術マニュアル』2)によると、日本の援助で実施された水道事業は、これまで都市水道が優先され、地方農村水道に対する援助は相対的に少なかったとしています。これは、途上国の大中都市が急激な人口増加に伴う水道の整備・拡張について日本の援助を求めてきたこと、日本の水道関係者の海外援助の経験が質・量 ともに限られていること、都市水道の技術面では日本と途上国のギャップが比較的小さいこと、日本の企業関係者がプロジェクト案件を発掘する際、規模の大きな資金援助になりそうな都市水道から先に発掘する傾向にあること、などが理由としてあげられます。
 最近の世界的な傾向としては、地方農村の水道整備が強調されているようです。その考え方の基本となっているのは、「都市では、住民の所得・負担能力が高く設備投資の資金調達が比較的容易で、水道関係の経営・技術の制度・人材が充足されており、保健衛生の教育や施設の整備も進んでいるが、地方農村ではこれらすべての面 で問題が多い」という事実によります。
 1980年代の「国連飲料水供給と衛生の10カ年計画」によると、開発途上国では、人口の70%が地方農村部に生活しているにもかかわらず、水道事業における農村部への投資額は都市部に比べて4分の1と低く、地方農村部に多くの努力を傾ける必要があるとしていました。1990年代の行動指針は都市部、地方農村部ともに、水供給の恩恵を受けていない人々への普及に重点を置くとしています3)。また、USAIDも、途上国において安全な飲料水と衛生処理を最も必要としている人たち、すなわち地方農村部と都市スラムの居住者を対象とするプロジェクトを、優先的に資金援助することを基本方針としています。

3.水道整備の優先順位の考え方
 先に示したように、国によって都市と地方の水道の整備状況が異なることからわかるとおり、その国の状況に応じた整備の優先順位 を考えなければいけません。具体的には、次に示すようなことを考慮した優先順位 づけが考えられます。
(1)普及率、普及人口の格差是正
 都市と地方の水道普及率あるいは普及人口の格差が大きい場合には、格差を是正する方向で整備します。
(2)飲料水による健康被害の緩和
 普及率の格差の是正は量的な面で考えた優先順位づけですが、これは水道整備による質的な効果 を考慮しています。住民の健康被害の緩和を目的とし、飲料水による健康被害の深刻さが大きいほうを優先的に整備します。深刻さを評価する指標は水系伝染病の罹患率や死亡率が考えられます。人道的援助ではこの緩和が最優先されるべきと考えます。
(3)投資効率
 途上国では利用できる資金に限りがあり、その資金を水道事業に効率的に活用できる順位 を考える必要があります。たとえば、1単位の投資によって受益人口が大きくなるような優先順位 づけなどが考えられます。一般に、都市は人口が集中し、各種産業が発達し、また発展する可能性があるため、水道整備による投資効果 も大きいようです。ただし、大規模な投資を必要とします。一方、地方農村は井戸や共同水栓の設置などで十分な場合が多く、比較的低費用で整備可能な場合が多いようです。
(4)経済の活性化と水道整備
 都市は単に人間の生活の場だけではなく、各種産業の生産・サービス拠点でもあります。したがって、都市のインフラストラクチャーの一つである水道の整備が遅れていることによる都市の経済的不利益は、basic hum-an needsを充足することに重点が置かれる地方農村の不利益より大きいと考えられます。水道整備が遅れているために産業の発達が制限されている都市も多くあります。他のインフラストラクチャーとともに都市の水道整備の促進は、国の産業や経済を活性化し、さらに国全体の水道整備事業の発展も促すものと考えられます。

【出 典】
1)World Development Report, World Bank, Washington DC, 1994.
2)水道・廃棄物処理適正技術マニュアル:大・中規模水道編,国際厚生事業団,p48,1989.
3)水道協会雑誌 62(11):p121, 1993.

【参考文献】
1)The International Drinkig Water Supply and Sani-tation Decade:Review of Decade Progress (as at December 1988), WHO, Geneva, 1988.

(芳賀 秀壽、佐藤 弘孝)

図1

表1

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