5.1 水道整備


Q132
途上国の水道システムにおける、高度技術、適正技術、sustainable technologyについて説明してください





  Key words:高度技術、適正技術、sustainable technology、環境影響評価

1.高度技術
 日本ではこれに類する用語に「高度浄水技術」があります。これは既存あるいは通 常の浄水技術にはない新しい方法で、浄水水質の向上を図ったり、新しく発生した水質汚染に対応する技術としており、活性炭処理、オゾン処理、生物処理などがあげられます1)。なお、高価な処理、複雑な処理だけが高度処理であると誤解を受けやすいのですが、臭気物質を除去する目的のエアレーションや、鉄・マンガンの除去目的で使用する前塩素処理などの簡易で低コストの技術も高度浄水技術に含まれます。同じように考えると水道システムにおける高度技術とは、既存あるいは通 常の技術にはない新しい方法で、水道システムを維持し、向上させる技術と解釈できます。日本においては、既存あるいは通 常の技術が確立され、その技術で施設が適正に維持管理されており、その上に立つ高度技術も受け入れやすく、その効果 も十分に発揮できる状態にあります。しかし、途上国においては、通常の技術が適切に運用されていなかったり、財政的理由により施設が適正に維持管理されていないことが多いため、高度技術を導入しても効果 を発揮しないケースがあります。また、一般に高度技術による施設は建設、維持管理費が高価であるため、途上国では費用負担できないのがほとんどです。したがって、高度技術を導入しなければいけない場合は、基礎となる通 常の技術が適正に運用されているか、費用を負担できるかどうかが大きなポイントとなります。

2.適正技術
 適正技術とは一般に、地域社会の状況・条件にうまく適合した技術のことをいいます。『開発途上国の水・くらし・衛生([)』2)によると、適正技術を、「途上国においては、新しい技術を導入すれば、たとえそれが生活改善を目的としているとしても、長年の伝統や習慣や経済的な価値観さらには文化を変えることに結び付く。従って途上国に導入する技術を適正に選択するためには、その地域の文化や習慣や生活を考慮し、人々が経費を負担でき、持続して利用できる技術の導入が必要となる。一般 には低コストで設置が容易で、スペア部品が複雑でなく、管理が容易で技術の効果 を認識でき、かつ、経済的価値を見いだせるもの」と説明しています。具体的には、技術は、途上国の以下のような状況・条件によく適合する必要があります。
(1)自 然
 気候、水資源賦存量、水源水質。
(2)社 会
 因習、宗教、文化、組織、制度、人口、都市や農村の規模や形態、産業構造、労働力の質と量 。
(3)経 済
 国や対象地域の経済状況、事業体の財務状況。
(4)健康目標
 疾病率、健康目標、飲料水質目標。
(5)技術レベル
 現在および将来の技術レベル、建設・維持管理レベル、既存システムとの技術バランス。
 表1は「国連飲料水供給と衛生の10カ年計画(1981〜1990年)」のなかで事業実施にあたって何がネックとなっているかを調査したもので、評価点で上位 10位に入る条件を列挙したものです。これによると、資金的制約が最大の制約となっており、以下、運転維持管理、不十分な資金回収、専門・非専門職員の不足と続いています。この結果 を集約すると途上国の水道システムの適正技術を考える場合、費用と維持管理が最も重要であるようです。途上国における適正技術は低コスト、メンテナンスフリーであるとはよくいわれることです。低コスト技術としては、雨水の利用、自然流下による給水、手押しポンプ付き井戸による給水、共同水栓による給水などがありますが、これらの技術は途上国においてさえも地方農村水道向きです。途上国の都市においても大量 に連続的に飲用に適した水の供給を必要としており、水道による給水が必須です。水道の枠組みのなかで、維持管理が容易で低コストの技術を選択する必要があります。

3.sustainable technology
 最近、よく耳にする言葉に“sustainable development(持続可能な開発)”があります。開発プロジェクトを実施する際に、環境配慮が十分になされず、周辺の自然資源の管理に注意をはらわなかった場合には、開発そのものの基盤が損なわれ、開発が持続できなくなるケースが起こり、そのために住民の生活、生存基盤が不当に脅かされるという事態をまねきます。したがって、開発プロジェクトと周辺の自然環境、住民生活・生存基盤とのバランスを考え、開発が持続可能となるように配慮することが必要となっています3)。同様に考えるとsustainable technologyも、導入した技術により環境が破壊されるなど、住民の生活、生存基盤が不当に脅かされることがないような技術と解釈できます。逆浸透膜プラントなどの高濃度汚染廃液を排出するような技術を導入する場合は、十分に環境に配慮する必要があります。次いで、技術の永続性について考えてみると、sustainable technologyは、現時点だけでなく将来においても十分に有効な技術である必要があります。安くて簡単な技術を導入したのはいいのですがすぐに陳腐化したり、あまりにも高度な技術なため、途上国ではすぐに維持管理不能となるような技術はsustainable technologyとはいえないでしょう。 環境、経済、技術、厚生などの現在と将来の目標レベルを十分考慮したsustainableな適正技術を選定する必要があります。

4.適正技術の選定方法
 適正技術を選定する場合、一般に用いられている方法は受容可能な代替案を作成し、そのなかから最適なものを選ぶ方法です。一般 にとられている選定方法は、まずは最も重要な基準としての住民の厚生に貢献するもの、そして自然条件は改変不可能であるから、これに適合するものを代替案として選びます。そのなかから、まずは技術的、社会的に明らかに不適なもの、社会経済的に受容不可能な制度的なサポートを必要とするものを消去します。残った代替案に対してコスト比較と詳細な技術比較を行い最適案を選定します。この最適案に対して、環境的な受容可能性をチェック(環境影響評価)し、最後に、受益者である住民あるいはその代表と話し合い、受容可能な最適な技術かどうかを決定します。これは技術的に維持可能なものであり、かつ住民が費用的な面 で維持可能な技術(sustainable technology)でなければいけません。このプロセスは、大規模なものから小規模なもの、つまり、水道システムの選定から始まって各施設、各機器の順に実施していくのが一般 的です。

【出 典】
1)水道施設設計指針・解説,日本水道協会,p5,1990.

【参考文献】
1)水道・廃棄物処理適正技術マニュアル:小規模水道編,国際厚生事業団,1988.
2)開発途上国における都市排水・汚水処理技術適用指針(案),建設省・国際建設技術協会,p 61,p66―67,1983.
3)The International Drinkig Water Supply and Sanitation Decade:Review of Decade Progress(as at December 1988), WHO, Geneva, 1988.
4)Kalbermatten JM, Julius DS, Gunnerson CG:Appropriate Technology for Water Supply and Sanitation :Technical and Economical Options, World Bank, Washington DC, 1980.
5)東京都海外水道研究グループ著,斎藤博康監修:開発途上国の水・くらし・衛生,水道協会雑誌第699号〜710号(1992.12〜1993.11).

(芳賀 秀壽、佐藤 弘孝)

表1

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