5.1 水道整備


Q133
途上国のある都市の水道が、将来的に発展するか否かのキーポイントは何ですか





  Key words:水道普及率、水道事業の発展、運営改善、民間セクター

1.経済成長と水道普及率
 一般に、国あるいは都市の経済成長に比例してインフラストラクチャーの一つである水道も発展していくと考えられますが、必ずしもすべての国があてはまるわけではないようです。1人あたりGDPと水道普及率の関係(図1)をみてみますと、所得の高い国が確かに高普及率を達成していますが、普及率が高い国が必ずしも所得も高くなっていません。また、高い経済成長率を達成した国や都市が必ずしも水道事業を発展させていないようです。たとえば、途上国でも最貧国に属するシエラレオネの都市部の水道普及率は1980年の50%が、経済の沈滞にもかかわらず(1人あたりGDP成長率は年率−1.4%、1992年時点で1人あたりGDPは160ドル)、1990年には80%に達しました。同じように、ニジェールの都市部の水道普及率は1980年の41%が、1990年には98%に飛躍的に発展しました。この間の1人あたりGDP成長率は年率−4.3 %と大幅なマイナス成長を記録し、1人あたりGDPは1990年時点で280ドルに低下しました。一方、インドネシアの都市部の水道普及率は1980年の35%が1990年においても35%と停滞しました。しかし、この間の1人あたりGDP成長率は年率4%の高い成長率を示し、1992年時点の1人あたりGDPは670ドルに達しています。このように経済成長だけでは水道事業の発展の可能性は説明できないようです。

2.水道事業の発展を阻害している要因
 それでは、将来的に発展するか否かのキ−ポイントを探すために、まずは、途上国において何が水道事業の発展を阻害しているかを考えてみます。World Development Report 1)によると、インフラストラクチャー全体について発展の阻害要因として、競争の不在による非効率性、公的運営主体に経営および財務上の自主性が与えられていない、消費者のニーズを取り込んでいなかったことをあげています。
 水道事業の場合は、公的運営主体に経営および財務上の自主性が与えられなかったことが最大の阻害要因のようです。つまり、公的運営主体はインフレによる価格調整が認められないことが多く、水道事業はbasic human needsであるため補助事業という認識も強く、コスト以下でサービスを提供することがほとんどでした。結果 として財政移転などによって補填されることが多く、補助なしでは水道事業が運営できないようになりました。このような体質になったことが水道事業の健全な発展を阻害してしまったと考えられます。当然ながら運営に失敗すると施設の維持管理や拡張事業を阻害することとなり、これがさらに運営を悪化させる原因となりました。日本の場合も補助事業という一面 がありますが、幸いなことに高度経済成長とともに水道事業に対する投資も順調だったことや、料金の受益者負担原則のもと、適正料金が徴収されたため順調に発展できました。

3.将来的に発展するための方法
 したがって、水道事業が将来発展するためのキーポイントは運営が改善されるかどうかにあるようです。援助国が無償でいくら施設を建設しても、運営が改善しなけれは発展は望めません。この運営を改善するため、公的運営主体は以下のような運営目標を実行する必要があります。
(1)料金は最低限維持管理コストをカバーするように設定する。
(2)料金徴収率の改善を図る。
(3)健全な経営慣行にしたがい、民間会社と同様の規制、労働法、会計および報酬基準によって運営する。
 また最近では、途上国においてさえ民間セクターを活用することは水道事業の活性化や発展にとり有力な方法(表1参照)となっています。

4.援助の有効活用
 水道事業の発展のためには、技術と資金が必要となりますが、国内で調達可能な国は少なく、多くの国が海外からの技術の移転と資金の調達を必要としています。援助国や機関は技術と資金のサポートをしていますが、これにも限りがあります。したがって、途上国は効率的な援助を受ける必要があります。先に示したように運営の失敗が最大の事業阻害要因であったことを考えると、運営の健全化や強化につながる援助、途上国の水道事業が援助依存体質から脱却し、自助努力で自立した運営が続けられるような援助である必要があります。維持管理技術の移転とリハビリテーションにより既存システムだけでも適正、効率的に運転が可能になるハ−ド面 と財政基盤が強固となるソフト面の援助が重要と考えます。その際、政府あるいは行政当局は効率的な運営を可能とするような制度面 の改革を実施し、これをサポートすることが途上国側の必要最低限の負担事項となります。

【出 典】
1)World Development Report :Infrastructure for Development, World Bank, Washington DC, p6―10, p62−63, 1994.

(芳賀 秀壽、佐藤 弘孝)

図1

表1

戻る    次へ

コメント・お問合せ