5.2 水 源


Q135
途上国の水資源確保に関する制度的問題について説明してください





  Key words:国際協力、コンサルティング、トータルコンサルティング、水道コンサルタント

 途上国の多くはそれぞれ独自の水資源の開発・利用にかかわる組織・制度を保持しています。ただしこれらの途上国の多くの国では同制度が合理的に運用されていないのが現状です。一般 に途上国内の地方部の水道事業を目的とした小規模な水源(地下水あるいは小支流)開発では、それほど組織・制度的な問題は起こりません。一方、比較的大きな流域を対象とした水資源開発計画の策定に際しては、上水道、水力発電、灌漑開発などを含む多目的プロジェクトとして計画される場合が多く、既得水利権ならびに関係する省庁間の開発方針をめぐって制度的問題が生じることがあります。これらの流域総合水資源計画において個々のセクター別 に水資源を確保する際、問題となる事柄は以下のとおりです。
(1)既得水利権の認可・運用に対する管理の不備。
(2)開発優先権に対する各省庁間の争い(関連省庁間のコーディネーションの不足)。
(3)国立公園・動物保護区などの環境にかかわる問題。
(4)水資源開発プロジェクト完成後の水配分にかかわる運転・維持・管理の問題。
 上記の問題に関して以下にそれらの概要を記述します。

1.既得水利権の認可・運用に対する管理の不備
 現在では途上国のどんな未開発河川においても多少の水利用は行われており、水資源開発計画を策定する場合、常に何らかの慣行水利権が存在することを念頭に置く必要があります。これら慣行水利権の多くは、河川沿い住民への飲料水供給および伝統的農業のための水供給を目的としていますが、アフリカの途上国では大規模なプランテーションが慣行的に河川から取水を行っている例もみられます。
 ケニアでは既得水利権の認可・登録は、Water Apportionment Board(WAB:水資源配分委員会)が担当しています。しかしながら、これまで同国全体で提出された25000件の水利権の申請書は十分に整理されておらず、どの河川にどれほどの水利権が設定されているかについて正確な情報を得ることは非常に難しくなっています。また現地視察のための車両および燃料が不足しているため、既得水利権者による取水量 の監視もほとんど実施されておらず、また不法な水利用者に対する取り締まりもほとんど行われていないのが実情です。現在、同国のWABは水利用管理に必要な資金を確保するため、水利権に対して一定の料金を徴収するシステムを提案しています。この提案が実現すると、現在きわめて不明確となっている各河川ごとの既得水利権の実態が明らかとなり、既得水利権に対する管理が効率的に行われていくものと期待されています。
 開発途上国のなかには、ケニアのような既得水利権に関する登録制度がない国もあります。これらの既得水利権制度がない国で水資源開発を行う場合、特に域外導水計画において下流域の慣行水利権を考慮して、対象プロジェクトの水資源を確保することが非常に重要です。ただしこれらの慣行水利権(飲料水、灌漑など)については、通 常地方政府がきわめて概括的に把握しているだけで定量化されていません。また将来の拡張計画も不明な場合が多く、プロジェクト完成後、重大な社会環境問題を引き起こす可能性があります。

2.開発優先権に対する各省庁間の争い(関連省庁間のコーディネーションの不足)
 一般に途上国では水資源開発に対する政府関係省庁間の意思の疎通が図られていない例が見受けられます。ある流域に対する多目的な水資源開発計画は、上水道、灌漑(農業)、水力発電などの開発項目中で何を最重点開発項目とするかによって最終的な開発計画の概要が異なるものとなります。この場合、水資源開発にかかわる省庁、たとえば農業省が相当以前から大規模な灌漑開発計画を独自に策定していたならば、当然のことながら同開発計画のなかに農業開発計画を最大限盛り込むよう要請します。一方、都市用水供給に責任を負っている政府機関は、同流域の水資源を首都、または同流域近傍の都市への将来の上水道を優先することを希望します。このように、各省庁から個々の開発要望がある場合、対象流域においてこれらの要望をすべて満たすだけの水資源量 が十分あれば問題ありませんが、不十分な場合にはいずれかの開発項目(オプシヨン)を削除、またはその開発規模を縮小せざるをえなくなります。通 常、“basic human needs”に重点を置いて上水道が最優先されますが、これら水資源にかかわる省庁間を統括する機関が存在しないと、政府内部の意見がなかなかまとまらない事態が生じます。この省庁間の統括を図るには、インドネシアのジャワ島の主要河川の開発を統括するために設けられた、ブランタス川流域開発事務所、ソロ川開発事務所のように、個々の流域を総合的に統括する政府機関の設置が非常に有効な制度的方策となります。

3.国立公園・動物保護区などの環境にかかわる問題
 途上国のなかには、ケニア、タンザニアのように国内に大規模な国立公園・動物保護区を定め、自然環境の維持に努めている国もあります。計画された流域水資源開発計画がこれら国立公園および動物保護区などに対して直接的または間接的に何らかの悪影響を及ぼすと予想された場合、同計画は開発規模の縮小または破棄に追い込まれる事態が生じます。世界的に環境保護の重要性が強調されており、今後、途上国においても環境問題にかかわる厳しい条例を制定していくものと想定されます。したがって環境維持に関する制度面 からも、水資源確保に関するさまざまな制約的問題が生じるものと予測されます。またダム開発によって水資源量 の増大を図る計画においては、必要に応じて下流域の環境維持のため人工放流などの環境対策が施され、これら環境問題が水資源確保を制約する条件となっていくものと想定されます。

4.水資源開発プロジェクト完成後の水配分にかかわる問題
 多目的水資源開発計画では、プロジェクト完成後の運転段階でその開発水量 の割り当てをめぐって問題が生じる場合があります。特にインドネシアにおいて建設された多目的ダムに関しては、渇水時に灌漑を重視した貯水池運用がなされ、発電が軽視されているとの不満が電気局(PLN)の要人から聞かれます。通 常、灌漑計画では10年に一度の水不足の発生を許容するよう使用水量が決定されますが、プロジェクト完成後の運用段階になると相対的に強い政治力を有する政府機関の意向が反映され、当初の計画どおり水資源配分が行われない事態が生じます。このような事態が生じた場合、不公平を被った関連省庁は単目的の水資源開発を推進することとなり、各セクターごとに均衡を保った水資源確保に支障をきたすことがあります。

【参考文献】
1)Republic of Kenya, Ministry of Water Development:The Study on the National Water  Master Plan, Sectoral Report(P):Laws and  Institutions, Japan International Cooperation Agency,Tokyo, July 1992.
2)The United Republic of Tanzania:Study on Water Resources Development in the Ruvu River Basin, vol V:Supporting Report, Japan International Cooperation Agency, Tokyo, June 1994.

(片山 俊夫)

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