5.2 水 源


Q136
公共用水域を水道水源としている途上国の水道において、水質汚染が進行した場合の対応方法について説明してください





  Key words:水道水源、水質汚濁、法的規制

1.水道水源と水質汚濁
 途上国の水道水源は表流水の場合、河川、湖沼、人造のダム湖などに頼っており、地下水の場合、掘削井戸あるいはスプリングなどに頼っています。表流水を水道水源とした場合、周知のごとくその水質汚濁の最大の原因は工場排水や生活排水の流入によるものと考えられます。下水道施設が整備されると、水質汚濁の最も大きな要因の一つが取り除かれること(あるいはその効果 が大)となりますが、下水道施設の整備そのものに多大なコストと時間を要するため、容易に水質汚濁問題は解決できない、というところが実情です。
 水源水の水質汚濁が進行しつつあると判断された場合、速やかな対応策を講じることが必要となります。対応策は大きく分けてハードな面 での対応策とソフトな面での対応策が考えられます。ハードな面での対応策として、周辺地域の下水道整備を行い汚濁水の流入を防いだり、浄水場での処理方法を改善することがあげられます。また、ソフトな面 での対応策として、排出規制を行ったり、水質のモニタリングを行ったり、新たな条例や法例の制定などを設け、水質をコントロールすることなどがあげられます。

2.法的規制による水質汚濁防止
 途上国において、法的規制により水質汚濁防止を図った一つの例として、トルコのイスタンブール州での計画があげられます。イスタンブール州の水道水源は、グレーター・イスタンブールの周辺50km圏内に散在する6カ所の人造湖に依存しています。これらの人造湖の周辺は大部分が現在農地として利用されていますが、近年グレーター・イスタンブールの拡大とともに湖の周辺地域に町や住宅地区が広がりつつあります。その結果 、湖のいくつかは高濃度のBOD、窒素、リンが検出されるようになり、富栄養化現象を起こすほどになってきています。
 イスタンブール州政府は、同州の上下水道公社(ISKI)とともに検討を重ねた結果 、水源の周辺のキャッチメントエリアに規制区域を設け、工場、住宅の進出をコントロールすることとなりました。すなわち、水源の周辺500m区域への基本的立入り禁止、2km区域への住居の建設禁止、というようなものでした。そのため、湖周辺の一般 家屋は代替地への立ち退きを命ぜられることとなりました。しかし、すでに規制区域に存在していた村は簡単に立ち退きというわけにはいかず、結果 的には下水管渠により集水した後、パイプラインで下水処理場まで輸送することとなりました。
 一方、これらの対策が立てられた1992年の段階で、6カ所の人造湖のうち既存の取水および浄水場施設は3カ所あり、さらに2カ所で新規施設が計画されていましたが、そのうちの1カ所は高度の水質汚濁により水道水源としての対象からははずされることとなりました。
 また、近い将来下水道の整備がなされても、2020年の計画年次までに水質が回復する可能性に乏しいことから、別 の水源を求めることとなりました。
 このように、水源水の水質汚濁が進行していると判断された場合には、前述のようにハードな面 とソフトな面の両面から迅速な対応を必要とします。具体的にどの方法を採用するかはケースバイケースであり、クライアントあるいはカウンターパート側と協議することが大切です。しかし、水源の保全となると担当組織レベルの問題であり、どの途上国においても組織の経済力が乏しいため、計画が実施されない、あるいは実施しても効果 が上がりにくいことが多いということを認識しておく必要があります。

(岡崎 敬介)

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