5.2 水 源


Q142
途上国において飲用可能な水道が少ないのはどうしてですか





  Key words:飲用可能(な水道)、水質管理、衛生教育

1.途上国における一般的な状況
“drinkable(飲用可能)”を達成することは、供給側の水質管理にかかわる技術上の問題のみならず、経営上の姿勢や利用者側の認識にも大きくかかわるものです。これらの視点からみて、多くの途上国では不適切と思われる点やあいまいな点がみられるのも事実です。また、この背景には国内の社会的、経済的状況があることも見逃せません。

2.“drinkable”に対する供給側の問題
“drinkable”をスローガンに掲げていても、水源から給水栓までのトータルとしての水質管理意識が希薄です。また、利用者のニーズを的確にとらえて事業を展開しようとする積極性に欠ける面 があります。
 一般的に、首都(圏)の水道が“drinkable ”であるかどうかがその国の水道に対する認識を把握するうえで参考となります。
(1)施設の運用管理
 1)国によっては水道水を直接飲用する習慣がないため、浄水処理が適正に行われていないところがあります。また、浄水場で適正に処理されていても、配給水系での色、濁りなどの水質劣化や再汚染、さらには残留塩素が検出されない事例も多くみられます。主として水道管の老朽化、水圧不足、漏水、断水などが原因としてあげられますが、施設の維持管理・改善が思うように進まないのが現状です。
 2)国によっては、色度、濁度などの水質基準が妥当とは考えられないものがあり、消毒はされていても外観からみて飲用に適しないものがあると思われます。
 3)経済的理由から、浄水場では塩素の注入量を減少させることがあり、無注入の場合もあります。
 4)大都市の浄水場では、需要増に対し水量確保を優先させるため過負荷運転を行っている例が多くみられ、良質な処理水が得られないことがあります。
 5)地方の水道施設では、水質分析機器が整備されていないため、日常の水質チェックが行えないところがあります。
 6)水質試験データは施設の運用管理に活用されることがほとんどありません。データは分析担当者や化学職のところにとどまっていることが多く、他の職種からも無関係と思われているのが実態です。
(2)経営の姿勢、認識
 1)多くの途上国では、水量が確保されればよいという考え方が一般的であり、 “drinkable”が水道の要件として欠かせないものであるという認識が希薄です。このような国では、利用者の“drinkable”に対するニーズを正しく把握していない面 がみられます。
 2)途上国の多くは、“drinkable”を達成できない理由として、施設の維持管理・改善にあてる予算がないこと、人材や技術力の不足をあげがちですが、これらの課題を解決しようという積極的な姿勢はあまりみられません。施策はトップダウンで決まることがほとんどであり、下部からのよい提案があってもなかなか受け入れられません。したがって、トップがいかに正しい認識をもっているかどうかが大きなポイントであるといえます。

3.利用者側の認識
利用者の水道水に対する認識として、水道水がそのまま飲めるとは思っていない、また期待もしていないというのが実態です。このような国では水道水を沸かして飲むことが習慣になっていたり、ボトルウォーターが普及しています。したがって、供給側の水質管理も甘くなりがちです。

4.社会的、経済的背景
(1)衛生教育
 国によっては衛生教育が不十分なために、安全な水道水が不可欠であるという認識が、供給側、利用者側とも欠けている面 があります。また、衛生教育が行われていても水道水が“drinkable”でないため、良質の水道水の恩恵を日常生活で体験できないことや、“drinkable”であっても供給側からの積極的なPRがほとんどないので、教育の効果 も薄れがちとなります。
(2)他のインフラストラクチャー整備とのかかわり
 途上国の多くは、道路、港湾、電力、通信などの他のインフラストラクチャー整備も抱えており、水道整備に優先的に投資できないのが現状です。また、水道に加えて、下水、トイレ、ゴミ処理などの衛生分野の整備が伴わないため、水道分野のみが努力しても衛生環境全体の向上にはつながらない面 もあります。特に大都市への人口流入が激しく、整備が追いつかない状況にあります。
(3)途上国への経済協力
水道分野における途上国への経済協力は、水源開発、施設の建設改良、漏水防止といった水量 の確保に重点を置いたものが多く、水質の向上を主目的としたものは少ないのが現状です。

【参考文献】
1)開発途上国の水道事情.水道協会雑誌 63(12):p2―5,1994.

(阿部 信樹)

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