5.2 水 源


Q143
わが国の水質の常識をそのままあてはめられない、途上国における水道水の水質上の問題点は何ですか





  Key words:水質、水質基準、水質管理

1.途上国における一般的な状況
 途上国では、未消毒、濁り、異臭、異味、その他の水質上の問題によりそのまま飲用することが不適当な水道水が多く見受けられます。そしてこれらの問題の発生については、水量 確保の優先、衛生思想の未普及、水質管理技術の未発達、法的規制の未整備、水質技術者の不足、経済力の不足、水道管の老朽化・水圧不足、水質関連機材・文献などの不足など国の事情によってさまざまな要因が考えられます。

2.問題点とその背景
(1)未消毒や消毒不十分な水道水が多いわが国では、水道水は消毒されているので、直接飲むことができると考えています。しかし、途上国では消毒をまったく行っていないか、行っていても不十分である水道水が多いようです。これは、衛生思想が十分普及していないため、未消毒でも気にしない、そのまま飲用できなくても煮沸すればよいなどの考え方をもつ利用者や水道関係者が少なくないことがその背景としてあります。そして、消毒設備の運転管理や残留塩素管理の技術の未発達、水道管の老朽化・水圧不足、漏水、断水などの配給水系の問題もこれに拍車をかける要因となっています。
(2)濁度、色度が高い水道水が多い
わが国においては、赤水に代表されるような水道水の濁水発生は、利用者に不快感を与え、苦情の対象の一つとなっています。途上国では、「赤水」、「黒水」などの濁度、色度が高い水道水が多くみられますが、利用者からの苦情はほとんどありません。これは、途上国においては、水道水の濁りは日常の出来事になっているためと考えられます。「赤水」、「黒水」などの発生原因の一つとしては、溶存鉄、溶存マンガンの多い地下水を原水として取水し、未処理または十分に除去せずにこれらを高濃度のまま配水する浄水場が多いため、水道管内で酸化析出して濁りを発生させる例が多いようです。また、浄水場での粘土粒子などの濁質除去が不十分であったり、水道管の老朽化・水圧不足、断水、漏水などによる配給水系での再汚濁も原因となっています。これらは、浄水場での水量 確保のための能力を超えた過負荷運転、濁度処理のノウハウの不足、原水・配給水などの水質データなどの水質情報の不足などとあいまって、多くの水道関係者の水質に対する認識不足などが背景としてあります。
(3)水質的に安全性が高いものかどうかが不明な水道水が多い
 水道水中の濁質は、ある程度は視覚的にその汚濁状況から把握できますが、溶解性物質については、種々の定性・定量 分析を行わなければ水道水の水質が明確なものになりません。しかし、多くの途上国の水道水はこれらの水質データが不足なため、どのような物質がどの程度入っており、何が問題なのか不明な水道水が多いようです。これは、水質検査技術者の不足、水質検査施設・機器・器具・文献などの不足、水質分析技術の未発達などにより分析可能な水質項目が限られてしまうためです。そして、このような問題が解消されない背景として、臭気、味などが著しく異常を示さない程度の汚染はあまり気にしない利用者や、適用されるべき水質基準項目が少なく、かつ明確でない国が多いこと、水質基準に対する遵守精神が希薄であったり、基準に合致さえしていればよしとする水道関係者が多いことなどがあげられます。ここで注意しなければならないことは水質基準は最大許容値と考えるべきであり、供給する水道水水質は基準値を可能な限り下回るべきであるということです。たとえば、濁度は限りなくゼロに近いことが、水道管内への濁質沈着量 を減少させることになり、濁りの発生を少なくすることにつながるからです。
 このように、水質管理の重要性に対する社会的・組織的な認識不足は、汚染物質の除去技術をもたないにもかかわらず、水源水質保全の未対策をもたらし水道水水質の悪化の遠因となっています。
 わが国では、歴史・風土的にも清浄な水に恵まれてきたため、安全性の高い良質な水道水を求める傾向あります。水の安全性は人の健康にとって生涯影響するとの認識や、「おいしい水」に代表されるような嗜好性の追求などがその例としてあげられます。しかし、途上国においては嗜好性を論じる以前に、急性・慢性を問わず、まずは毒性の有無が現実的で重要な問題であり、わが国の水質の常識はほとんどあてはまらないのが現状となっています。

(伊藤 正範)

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