5.3 水 質


Q144
途上国における飲料水の水質基準の整備状況について説明してください





  Key words:水質、水質基準、水質管理

1.途上国の水質基準
 途上国の飲料水の水質基準について体系的に整理された資料は、現在のところ見あたりません。表1は、限られた資料から、各地域を代表する11カ国の水質基準をまとめたものです。わが国の水質基準項目(46項目)が、各国の水質基準にあるかないかを示しています。
 表1によれば、揮発性有機化合物、消毒副生成物を除くと、わが国やWHOのガイドラインに相当する項目を有している国が多いことがわかります。基準値については、項目によって、WHOのほか、USEPA(US Environ-mental Protection Agency:米国環境保護庁) の最大許容濃度目標値を参考にしている国もあります。このように、国によって異なる項目や値を採用しているのは、各国の技術力や達成の可能性の違いなどを反映していると考えられます。途上国においては、水質基準に対する認識が、わが国とは違うといわれます。わが国の水質基準は、水道法でその遵守が義務づけられている「スタンダード」です。監視項目にある指針値も、これに準ずるものとして位 置づけが明確です。これに対して、多くの途上国で、たとえ水質基準をスタンダードと称していても、それは、あくまでも「目安」であり、遵守義務をさほど重要視しない傾向がみられます。基準を遵守することは、供給側の自己規制にのみ委ねられているケースもみられます。一般 に途上国では、浄水処理技術、水質検査技術、その他水質管理上の技術が十分ではありません。水質基準があったとしても、これを遵守できないことが、このような認識を形成させている要因の一つといえます。

2.水質基準整備に対する方策
 途上国の状況はさまざまですが、水質基準を整備し、これを遵守することは、清浄で安全性の高い飲料水を供給するうえできわめて重要なことです。将来には、水質基準を真のスタンダードとして、法的に整備していくことが不可欠となります。しかし、当面 は必要最小限の項目を選定し、段階的に基準として整備していくことが現実的であると考えられます。
 基準が十分でない国・地域に対しては、WHOのガイドラインを一応の目標とし、濁り、色度、急性・慢性毒性、病原菌に汚染されていないことを確認できる項目を優先させ、基準化の手始めとすべきです(わが国の従前の毎月試験項目10項目程度)。また、現在基準を有している国・地域に対しても、基準を遵守する意義を啓蒙することが重要ですし、優先項目の選定にあたっては、それらのプライオリティに応じて基準化を図ることが必要といえます。
 一方、実務においては、その時々の問題に対して、どの水質基準を適用すべきか判断が必要となる場合があります。問題となる項目が水質基準にない場合には、特に難しい判断となります。一般 には、わが国の基準を適用しがちですが、各国の実情に沿って、項目相互の関連や持続的な基準整備を進める意味でも、基本的にはWHOのガイドラインを適用すべきものと考えられます。

【出 典】
1)各国技術協力レポート.

【参考文献】

1)丹保憲仁,小笠原紘一:浄水の技術,技報堂出版,p21―26, 1985.

(相原 重則)

表1

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