5.3 水 質


Q145
途上国で地下水を水源とする水道システムを設計する場合に、注意すべき水質項目は何ですか





  Key words:地下水、水質、水質調査

1.地下水利用のメリット
 良好な水質の地下水を水源とすることは、途上国の水道にとって次のようなメリットがあります。
(1)衛生的安全度が高いこと。
(2)単純な処理方式でよく、高度の技術者を必要としないこと。
(3)建設費や維持管理費が少なくてすむこと。
(4)水質検査回数が少なくてよいこと。
 これらのことは、技術者が少なく、経済的にも余裕のない途上国において水道システムを設計する場合、きわめて重要なファクターと考えられますが、需要量 に見合う揚水量が確保できることが前提となります。

2.地下水水質の問題点
 地下水は一般に水質が良好であることから、水道システムの設計にあたっては、「揚水→(塩素注入)→配水」といった簡単な処理方式を採用することが多くありますが、この場合、水質のわずかな異常に対しても対応が困難となり、さらに、汚染があった場合は、水質が回復するまでに数年を要することとなるので、事前の水質調査は慎重かつ頻繁に行い、基本的な項目のほか、問題となる項目の動向を把握しておく必要があります。
 事前調査を行うべき水質項目は、大別して次の2つが考えられます。
(1)基本的な項目
 簡単な操作や設備で測定でき、その変化傾向から降雨などの影響や汚染などの水質異常を知ることができることから、問題の有無にかかわらず測定することが望ましい項目で、水温、外観、濁度、色度、臭気、pH値などがあげられます。
(2)問題となる項目
 その地下水に特徴的な問題であり、水質障害や施設の維持管理に大きく影響することから、定期的に測定することが望ましい項目で、それらの多くは問題解決のための技術や施設が必要であり、個々の問題への対策は事前に検討しなければなりません。

3.問題項目と対策
(1)鉄・マンガン
 これらは主として地質に由来し、地下水における問題としては多い項目ですが、鉄については通 常の浄水処理やエアレーションなどの酸化処理およびろ過で容易に除去が可能です。
 しかし、マンガンは通常の処理では除去できず、長時間の酸化を受けて黒色の酸化物が水道管の内壁に沈着します。この沈着物が急激な流速変化などによって剥離・流出し、黒水障害を引き起こします。この障害は、供給開始当初はあまり発生せず、数年を経過した後に発生する例が多くみられます。マンガンの除去方法としては、マンガン砂による接触酸化法、過マンガン酸カリウムによる酸化法などがあり、原水中のマンガン濃度によって採用すべき処理方法が異なります。いずれの方法も、処理水にマンガンが残っている限り、障害発生の可能性があることから、処理後のマンガン濃度を0.01mg/以下となるよう、可能な限り除去する必要があります。
(2)塩 分 
 海の近くでは海水の影響を受けやすく、また、昔は海であった場所では古生海水が封じ込められていることがあります。これらの地下水は塩分を含むため、味、塩素イオン、蒸発残留物などによって水質障害が引き起こされる可能性がありますが、脱塩処理は技術的に難しく、費用も高額となることから、水源としては好ましくないといえます。
(3)有機化学物質
 工場や農地付近の地下水は、事業活動に由来するトリクロロエチレンなどの有機溶剤や農薬による汚染が考えられます。また、都市周辺部の地下水では、生活排水による汚染を受けることがあり、アンモニアなどの窒素化合物やABS(洗剤)が高い値を示すことがあります。これらの汚染を受けている地下水は、除去処理がきわめて難しいことから、水源としては好ましくないといえます。
(4)金属類および無機イオン
 鉄・マンガン、ナトリウム、ヒ素などの金属類およびフッ素イオン、塩素イオンなどの無機イオンのうち、鉄・マンガンについては除去技術が適用できますが、その他の金属類や無機イオンについては除去が困難であることから、鉱山や温泉源の近くの地下水を水源とする場合は注意が必要です。
(5)硫化水素
 硫化水素を含む水は、腐った卵のような臭いがあり、深井戸水にこの障害が発生することがあります。硫化水素はエアレーションを行えば大部分が発散し、また塩素などの酸化剤により容易に処理することができます。硫化水素と塩素が反応すると硫黄を生成しますが、通 常はごく微量なので支障がないと考えられます。
(6)細菌類
 都市周辺部の地下水は、生活排水やし尿などのたれ流しによる細菌汚染を受けることがあります。この場合、問題となる項目が細菌のみであれば、確実な消毒を前提として水源とすることは可能と考えられます。
(7)アンモニア性窒素
アンモニア性窒素は、有機物が分解して最初にできる無機態の窒素で、地表水ではし尿汚染の状態を知ることができるだけでなく、水質管理および水処理のうえからも重要な項目です。アンモニア性窒素は、除去しにくい物質であるとともに、塩素と結合して遊離残留塩素に比べて消毒効果 や酸化力の弱いクロラミンを形成します。また、この結果、遊離残留塩素を必要とするマンガン処理や鉄バクテリア処理に際しては、塩素を多量 に注入する必要が生じます。
深井戸の水では、し尿汚染と関係がない場合でも、硝酸性窒素が還元されてアンモニア性窒素が生成することがあり、汚染の有無の判定には細菌試験が必要となります。微量 で汚染によらないアンモニア性窒素であれば、飲用に供しても差し支えありませんが、塩素消毒やマンガン処理などの障害となることから、水道原水にはアンモニア性窒素を含まないことが望ましいと考えられます。

【参考文献】
1)小島貞男,相澤金吾:新水質の常識,日本水道新聞社, 1977.
2)厚生省環境衛生局水道環境部監修:水道維持管理指針,日本水道協会,1982.

(妹尾 義正)

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