5.4 浄水場の計画と設計


Q152
途上国の浄水場を設計する際に、機械の多い浄水プロセスと機械の少ない浄水プロセスの選定の考え方を説明してください





  Key words:浄水場、浄水プロセス、原水水質

1.各プロセスにおいて採用される機器、方式
 はじめに機械の多い浄水プロセスと機械の少ない浄水プロセスにて採用される機器および方式を表1に示します。
 浄水プロセスは原水水質に応じて選定されます。原水の水質がよく安定している場合は消毒設備のみ、あるいは緩速ろ過方式が採用されます。また原水水質が悪くこれらのプロセスでは処理ができない場合には急速ろ過方式が採用されます。それぞれのプロセスにおいて現地の諸条件を総合的に判断して機械の多いプロセスと機械の少ないプロセスが選定されます。ここで選定にあたって考慮すべき点について以下に示します。

2.考慮すべき点
(1)原水水量、水質
 原水水量、水質の変動が大きいとき、あるいは原水水質が悪いときには機械の多いプロセスが有効であるといえます。たとえば混和池における急速撹拌では機械式装置を使用すれば確実に安定して原水にエネルギーを与えることができます。したがって水量 、水質が変動してもその機能を発揮することができます。これに対し阻流板を採用した場合には与えるエネルギーが小さく決められた範囲の水量 、水質にしか適用できません。同様にフロック形成池においても機械式は水量 、水質に応じて撹拌力を変えることができますが、迂流壁を設けただけでは撹拌力を調整することができません。このように機械を採用したプロセスは安定した弾力性のある運転ができますので原水水量 、水質変動が大きいと予測される場合に有効となります。
(2)気象条件
 機械を多く採用するプロセスでは現地の気象条件を検討する必要があります。電動機を使用する機器は現地の最高、最低気温を調査し電動機の使用可能温度のチェックを行います。外気温によっては機器を保護するための建物が必要となることがあります。
 また雨期がある地域では雨量のチェック、スコールの有無なども考慮しカバーを設けるなど機械の仕様を決めなければなりません。
(3)現地の電力事情
 機械を多く採用するプロセスでは機械を運転するための電源が必要です。したがって電源が安定して供給されることが採用の条件となります。電源のない地域に新たに浄水場を建設する場合には、送電設備の計画も必要となります。既存の電源がある場合でも電圧、周波数、停電の有無、頻度、電圧変動幅などを注意して調査しなければなりません。停電の多い国や地域で機械式を採用し、停電時対策として非常用の発電機を設ける場合、途上国では燃料代の予算がないことから発電機の運転を行わないことがよくありますので注意が必要です。また電圧変動の大きなところでは電動機、工業計器などを保護するための設備も必要となります。このように機械を多く採用するプロセスでは電気設備のウエイトが高くなります。したがって現地の電力事情を十分調査したうえで機械の多いプロセスが採用できるかどうかが決定されます。
(4)施設建設費
 施設建設に必要な予算が十分ある場合には機械の多いプロセスが採用できます。浄水場のすべてを機械化するのではなく、重要度の高いものから優先して選定することにより建設費を節約することができます。
(5)維持管理費
 施設建設費と同様に維持管理費も重要な要素となります。機械を多く採用するプロセスでは機械を運転するための人件費、電気代、交換部品の購入費などの維持管理費が発生します。日本の援助などにより施設を建設しても維持管理費は途上国負担となります。この維持管理費が水道料金の回収などにより確保できる見通 しがあるかどうかを事前に十分検討します。機械の少ないプロセスでは維持管理費は安くできるという利点があります。
(6)設置面積
 機械の少ないプロセスである緩速ろ過方式は敷地面積が大きくなります。したがって途上国でも都市部では処理規模が大きくなるとその採用は難しいと考えられます。これに対し機械の多いプロセスは敷地面 積が小さくできますので都市部での採用には有利となります。
(7)機械の構造、調達先
 機械の多いプロセスは機械の故障や部品交換の必要が生じても容易に修理したり部品を調達して交換することができません。したがって採用する機械は容易に修理できる構造であること、現地で手に入る部品を使用することが必要になります。電動機と減速機が一体になった駆動装置よりも別 置きにしたほうが現地でも容易に修理することができます。部品もできるだけ現地製品の採用を検討します。もし第三国製品を使用する場合には、納入後のアフターサービスを考慮して現地にサービス店、代理店があるメーカーを優先的に選定することが必要です。
(8)施設の運転、維持管理の技量
 機械を多く採用するプロセスは装置を運転するための運転技術、また機械を常に良好な状態に保つ維持管理技術が必要となります。途上国ではこれらの技術をもった技術者が不足しており人材を育成する必要があります。

 以上の点を総合的に検討したうえで機械の多いプロセス、少ないプロセスの選定を行います。

(堀尾 豊)

表1

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