5.4 浄水場の計画と設計


Q155
途上国の浄水場の急速撹拌でしばしば起こる問題点と、計画・設計にあたりわが国の技術者が気をつけるべきことは何ですか





  Key words:浄水場、急速撹拌、フラッシュミキサー、撹拌方式の選定

1.急速撹拌で起こる問題点
 途上国の急速撹拌において起こる問題点は以下のとおりです。
(1)機械撹拌式(フラッシュミキサー)
 1)フラッシュミキサーがあるものの撹拌力が不足しているためにフロックができていないところがあります。
 2)混和池内の水が撹拌翼と共回り現象を起こしたり、短絡流を起こし効果的な混和が行われずフロックができていないところがあります。
 3)流入水路にフラッシュミキサーを設置する場合、凝集剤との混和時間が十分確保されていないケースがあります。撹拌力はあるものの混和時間が数秒しかなく不足しているため凝集剤と原水の混和が十分行われずフロックができないことがあります。
 4)流入水路にフラッシュミキサーを設置する場合、水流の流速が速いとミキサーのシャフトに力がかかりシャフトが変形して運転不能になることがあります。またミキサーの手前にスクリーンなどの除塵設備がないと流木、ゴミがシャフトに当たったり、からみついたりしてシャフトが損傷したり電動機がオーバーロードするなどのケースがあります。
 5)電動機を使用する場合、電力事情が運転に大きく影響します。停電が多い途上国では停電により運転がしばしば停止するため混和が行われずフロックが形成されません。したがって後段の処理に悪影響を及ぼし浄水機能を低下させてしまいます。また停電、復電が短時間に繰り返されたり、電圧変動が大きな場合、電動機が焼損することがあります。
 6)電動機を屋外に設置する場合、熱帯地域のように外気温が高いところでは電動機が加熱により故障することがあります。またフィリピンやバングラデシュなどのようにスコールがある地域では雨水の浸入により電動機が故障することがあります。
 7)駆動装置の回転部、軸受への給油が十分でないために部品が損傷し早期に故障してしまうことがあります。また逆に給油量 が多すぎて油脂が槽内に落下している例もみられます。
 8)特殊な駆動装置を使用しているものは納入後に予備品がなかったり修理に専門的な技術が必要なため十分な維持管理が行えず故障したまま放置してあることがよくあります。
 9)水路にバイパスがないときにはフラッシュミキサーが故障しても浄水場を停止することができないため修理ができず故障したまま放置してあるものがあります。
10)フラッシュミキサーの設置場所への管理動線が確保されていないため保守管理が行われなくなることがあります。
(2)阻流板による方式
 1)途上国では水路に阻流板などを設置し水流方向を急激に変化させて乱流を起こすことにより凝集剤と混和させる方式が多くみられます。この方式のように水流自体のエネルギーを利用した撹拌は機械的作動部分がないので故障が少なく維持管理が容易で建設費も安くできますが、必要な撹拌力が得られず十分な混和効果 が得られないことがあります
 2)雨期、乾期により水源の水量が変動する場合、混和効果が安定しないことがあるので年間の原水量 の変動を考慮しておかなければなりません。
(3)配管内の乱流を利用する方式(ラインミキサー)
 比較的故障のない方式ですが、時として原水中に混入したゴミなどにより閉塞することがあります。
(4)ポンプの吐出側の乱流を利用する方式
 ポンプの吐出側配管に凝集剤を注入する方式では凝集剤注入部付近の配管材が腐食する例がみられます。
(5)薬品注入
 1)凝集剤の注入量が適当でないためにフロックができないことがあります。ひどいケースでは薬品が注入されていないこともあります。
 2)注入点が適当でないためにフロックができないことがあります。

2.計画・設計にあたり気をつける点
 以上の問題点をふまえ途上国において急速撹拌を計画、設計する際に気をつける点について以下にまとめます。
(1)撹拌方式の選定
 日本ではフラッシュミキサーなどの機械式が一般的ですが、途上国においては以下の点を総合的に検討して撹拌方式を選定します。
 1)気象条件
 機械式を採用する場合は対象地域の気象条件(気温、降雨など)を調査し、気象条件に合った機器の仕様(電動機の絶縁種別 など)を選定します。
 2)電力事情
 対象地域の電力事情を調査し、停電の有無、頻度を考慮したうえで機械式が採用できるかどうかを決定します。機械式を採用し、停電時対策として非常用の発電機を使用する場合、途上国では燃料代の予算がないことから発電機の運転が行われなくなることがよくあります。したがってこの点も十分考慮する必要があります。阻流板による方式では電力が不要なため電力事情の悪いところでは有効です。
 3)予 算
 迂流式は建設費が安くできるので予算に余裕がないときは迂流式が有効となります。
 4)運転、維持管理の技量
 運転者の運転、維持管理の技量を考慮して方式を選定する必要があります。機械式は駆動装置の保守に専門的な技量 が要求されます。一方、阻流板による方式は維持管理が容易です。
(2)機械撹拌式(フラッシュミキサー)において気をつける点
 1)混和池、水路構造
 混和池を設ける場合には撹拌翼により共回り運動を起こしたり短絡流を起こさないよう矩形槽の採用や阻流壁の設置を検討します。また流入水路に設置する場合は混和時間を確保できる水路構造とします。
 2)混和時間
 原水の水質により適当な混和時間が決定されますが、『水道施設設計指針・解説』1)によれば計画浄水量 に対し1〜5分間を標準としています。
 3)撹拌力
 混和に必要な撹拌エネルギーが与えられなければなりません。注入された凝集剤を均一に撹拌することが重要です。『水道施設設計指針・解説』1)ではフラッシュミキサーの撹拌翼の周辺速度は1.5m/秒以上としています。
 4)構造、調達先
 日本ではフラッシュミキサーが故障したり部品交換の必要が生じても容易にアフターサービスにより対応できますが、途上国においては難しいといえます。したがって現地でも容易に修理できる構造としたり、現地で手に入る部品を使用することが大切になります。電動機と減速機が一体になった駆動装置より別 置きにしてベルト駆動としたほうが現地でも容易に修理することができます。部品もできるだけ現地製品の採用を検討します。もし第三国製品を採用する場合には、納入後のアフターサービスを考慮して現地にサービス店、代理店があるメーカーを優先的に採用することを推奨します。
 5)除塵設備
 水路の上流側には除塵設備の設置を検討します。
 6)維持管理
 故障時、維持管理のためにバイパス水路、ゲート設備を設置します。また管理動線を確保します。
(3)阻流板による方式
 1)水路構造は、必要な混和時間が得られ、短絡流を起こさない構造とします。
 2)水理的検討を十分行い必要なエネルギーが得られることを確認します。特に原水を自然流下で取水する場合には阻流板による損失水頭をチェックします。
 3)阻流板は必要に応じて追加、取りはずしができる構造が望まれます。
(4)配管内の乱流を利用する方式(ラインミキサー)
 スクリーンなどの除塵設備を設け原水中にゴミなどが混入しないようにします。
(5)ポンプの吐出側の乱流を利用する方式
 1)ポンプの吐出圧力により必要なエネルギーが得られるかどうかチェックします。
 2)薬品注入点における配管材の腐食対策を考慮します。
(6)薬品注入
 1)薬品注入量は原水量に対し適切であることが注入点で確認できるように流量 計などの計量設備を設けることを検討します。
 2)薬品注入点は撹拌による凝集剤と原水の混和が均一に行われるよう撹拌装置の中心部や流入管の中心部に注入するようにします。
 以下、Q159を参照してください。

【出 典】
1)水道施設設計指針・解説,日本水道協会,p180,1995.

(横尾 弘一郎)

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