5.4 浄水場の計画と設計


Q156
途上国の浄水場のフロキュレーションでしばしば起こる問題点と、計画・設計にあたりわが国の技術者が気をつけるべきことは何ですか





  Key words:浄水場、フロキュレーション、機械式フロキュレーション、迂流式フロキュレーション

1.フロキュレーションで起こる問題点
 途上国のフロキュレーションにおいて起こる問題点は以下のとおりです。
(1)機械式フロキュレーション
 1)滞留時間の過不足から適正なフロックの成長がみられない浄水場があります。滞留時間が短い場合にはフロックの形成効果 が低下したり、逆に滞留時間が長すぎる場合はフロックが破壊されてしまうことがあります。途上国の浄水場では季節により原水量 が大きく変動したり、水不足から設計処理水量以上の水量で運転しているところが多くありこれらの現象がよくみられます。また途上国では、日本のように配水池を設け給水量 の時間変動の調整を行うのではなく、需要に合わせた給水量を直接浄水場から送水するケースが多くあります。このため1日の間に取水量 が大きく変動しピーク時に滞留時間が不足することがあります。
 2)槽内の水が撹拌翼と共回り現象を起こしたり、短絡流を起こし効果的な撹拌が行われずフロックが形成されていないところがあります。また停滞流部分にフロックが沈澱し排出できないことがあります。
 3)機械式フロキュレーション装置が故障し撹拌されていない浄水場が多くあります。以下に故障の例を示します。
 @横型機械式フロキュレーション装置において、軸と軸受の芯が出ていないため軸受が短期間に摩耗し回転不能となり運転できなくなりました。これは据え付け不良によるものです。
 A横型機械式フロキュレーション装置において、1台の駆動装置で多水路をフロキュレーションしているところでは駆動装置が故障すると全池のフロキュレーションが停止します。また点検、補修を行う際にも複数池を停止しなければならないため点検期間の処理水量 を減らさなければなりません。一方、浄水場としては給水量を確保するためにできるだけ運転を停止したくないという考えから点検の回数が減り結果 的に機器の故障が早くなりました。
 B機械式フロキュレーション装置では軸受、チェーン、スプロケットホイールなど摩耗により交換しなければならない部品が多くあります。また駆動装置のように一定時間の運転後に必ずオイル交換、部品の点検の必要なものがあります。しかし途上国では予算の都合から交換部品が購入できない、あるいは交換する技量 がないなどの理由から修理、点検が行われず早期に故障あるいは寿命に至っているものがあります。
 4)電動機を屋外に設置する場合、熱帯地域のように外気温が高いところでは電動機が加熱焼損することがあります。また雨期、特にスコールがある地域では雨水の浸入により電動機、軸受が故障することがあります。
 5)電動機を使用する場合、電力事情が運転に大きく影響します。停電が多い途上国では停電により運転がしばしば停止するためフロックができず、Q157とQ158で述べる沈澱、ろ過処理に悪影響を及ぼすことになります。停電、復電が短時間に繰り返されたり、電圧変動が大きな場合には電動機が焼損することがあります。
(2)迂流式フロキュレーション
 1)滞留時間の過不足、撹拌強度の不足から適正なフロックの成長がみられない浄水場があります。
 2)原水量が大きく変動したり、水不足から設計処理水量以上の水量で運転している浄水場では水量 変動に対応した攪拌強度の調整運転ができないためフロックの効果的な形成ができないことがあります。
 3)短絡流により効果的な撹拌が行われずフロックが形成されていないところがあります。また停滞流部分にフロックが沈澱し排出できないことがあります。

2.計画・設計にあたり気をつける点
 以上の問題点をふまえ途上国においてフロキュレーションを計画、設計する際に気をつける点について以下にまとめます。
(1)方式の選定
 日本では横型の機械式フロキュレーションが一般的ですが、途上国においては以下の点を総合的に検討して方式を選定します。
 1)水量、水質
 季節により原水の水量、水質の変動が大きい浄水場では機械式フロキュレーション装置が有効です。フロックの形成がうまくいっていない既存の施設を改修する場合は、まず現状の処理水量 、水質を確認して計画を行います。

 2)気象条件
 機械式を採用する場合、対象地域の気象条件(気温、降雨など)を調査し、気象条件に合わせた機器の仕様(電動機の絶縁種別 など)を選定します。
 3)電力事情
 対象地域の電力事情を調査し、停電の有無、頻度を考慮したうえで機械式が採用できるかどうか決めます。停電時対策として非常用の発電機を使用する場合は、途上国では燃料代の予算がないことから発電機の運転が行われなくなることがよくあるのでこの点も十分考慮する必要があります。迂流式では運転に弾力性がないものの電力が不要という利点があります。
 4)予 算
 機械式フロキュレーションは迂流式に比べ建設費だけでなく維持管理費もかさみますので、予算を考慮する必要があります。
 5)運転、維持管理の技量
 運転者の技量を考慮して方式を選定する必要があります。機械式はフロックの状態に合わせて撹拌力を調整するなど専門的な知識が要求されます。また駆動装置の保守管理にも専門的な技量 が必要です。一方、迂流式は機械式に比べ維持管理が容易です。
(2)機械式フロキュレーション装置
 1)池構造
 撹拌翼により共回り運動を起こしたり、短絡流を起こさないよう矩形槽の採用や阻流壁、整流壁の設置を適宜検討します。大切なことは流入水が一様に撹拌を受けるようにすることです。
 2)滞留時間
 フロックの形成を効率よく行うために滞留時間を決めます。『水道施設設計指針・解説』1)によれば計画浄水量 の20〜40分間を標準としています。
 3)撹拌力
 撹拌は下流に行くにしたがってその強度を漸減します。また水質の変動に対し撹拌強度を調節できる駆動装置を有するものが望まれます。『水道施設設計指針・解説』1)では撹拌装置の撹拌翼の周辺速度は15〜80cm/秒を標準としています。
 4)横型か立型か
 日本では1台の駆動装置で複数池のフロキュレーションができる横型が一般的ですが、据え付けに高度な技量 が必要なことに加え、止水用に特殊な軸受を使用しますので将来の部品調達も考慮したうえで採用しなければなりません。立型は台数が増えるので横型に比べ効率的ではありませんが据え付け、維持管理が容易な点が利点です。
 5)構造、調達先
 途上国ではフロキュレーション装置が故障したり部品交換の必要が生じても容易にアフターサービスを受けることは難しいといえます。したがって現地でも容易に修理できる構造としたり、現地で手に入る部品を使用することが大切になります。電動機と減速機が一体になった駆動装置よりも別 置きにしてベルト駆動としたほうが現地でも容易に修理することができます。部品もできるだけ現地製品の採用を検討します。もし第三国製品を採用する場合には、納入後のアフターサービスを考慮して現地にサービス店、代理店があるメーカーを優先的に採用することを推奨します。
(3)迂流式フロキュレーション装置
 1)池構造
 短絡流を起こさない構造とし、阻流壁、整流壁を設置します。一般的に迂流式は決められた流量 範囲内で運転することが望ましいのですが、水量の変動に対応できるように阻流壁、整流壁を増やしたり取りはずしできるようにすることも検討します。
 2)滞留時間
 フロックの形成を効率よく行うために滞留時間を決めます。『水道施設設計指針・解説』1)によれば計画浄水量 の20〜40分間を標準としています。
 3)撹拌力
 水流から撹拌力を得るので平均流速が重要な要素となります。『水道施設設計指針・解説』1)では平均流速は15〜30p/秒を標準としています。

【出 典】
1)水道施設設計指針・解説,日本水道協会,p182,1995.

(横尾 弘一郎)

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