5.4 浄水場の計画と設計


Q157
途上国の浄水場の沈澱池でしばしば起こる問題点と、計画・設計にあたりわが国の技術者が気をつけるべきことは何ですか





  Key words:浄水場、沈澱池、横流式沈澱池、傾斜板式沈澱池、高速凝集沈澱池

1.沈澱池で起こる問題点
 途上国の沈澱池において起こる問題点は以下のとおりです。
(1)横流式沈澱池
 1)沈澱池の表面負荷率が大きすぎるためフロックが沈降しないでキャリーオーバーする現象がみられます。
 2)沈澱池流出部に越流トラフが設置されていない浄水場ではフロックがキャリーオーバーすることがあります。
 3)設計水量以上に増量して運転する場合、越流負荷が大きくなり越流トラフが水没しフロックがキャリーオーバーすることがあります。
 4)ミーダ型汚泥掻寄機を採用した場合、運転、保守管理が複雑となります。リミットスイッチ、タイマーなどの電気品も多く定期的な調整が必要となります。故障しても修理ができず停止したままのものがあります。
 5)地域によっては、季節により通常の数十倍の高濁度のときがありますが、このときに汚泥掻寄機に大きな負荷がかかり運転できなくなることがあります。
(2)傾斜板式沈澱池
 1)傾斜板の清掃、点検時に汚泥が付着したまま水を抜いたため傾斜板が落下したことがあります。保守要領が理解されていなかったことと、清掃用水が確保されていなかったことによります。
 2)定期的な排泥操作が行われなかったため汚泥が堆積、圧密し清掃に手間がかかることがあります。また排泥管が閉塞する例がよくみられます。
 3)短絡流により沈澱効率が悪くなることがあります。
(3)高速凝集沈澱池
 1)高速凝集沈澱池を採用している浄水場ではきめ細やかな運転管理が必要です。しかし技量 不足から適正な運転管理が行われず機能が発揮されていないものがあります。
 2)汚泥循環ポンプなどの故障により汚泥が循環されず処理性能が低下しているものがあります。
 3)熱帯地方など水温が高くなる地域では密度流の影響から汚泥界面の保持が難しく除濁能力が低下します。
 4)停電が多い途上国では停電により運転がしばしば停止するため凝集沈澱の効率が低下します。
 5)定期的な補修塗装が行われなかったために水中部の部材が腐食し運転できなくなることがあります。
(4)その他共通事項
 1)1つの浄水場に異なる型式の沈澱池が採用されているため運転管理が複雑で、運転管理が手に負えなくなっている浄水場があります。
 2)系列が複数あるのに分配設備がないためそれぞれの沈澱池への水量配分が不均一になることがあります。この結果 、池によって過負荷運転になっていることがあり処理性能の低下の原因となります。
 3)排泥操作が定期的に行われないため排泥管が閉塞する例がよくみられます。
 4)排泥弁の故障や弁設置場所への管理動線が確保されていないため排泥操作が行われなくなっているところがあります。
 5)沈澱池が1池しかないため清掃、点検および修理ができないところがあります。

2.計画・設計にあたり気をつける点
 以上の問題点をふまえ途上国において沈澱池を計画、設計する際に気をつける点について以下にまとめます。
(1)方式の選定
 途上国においては以下の点を総合的に検討して横流式沈澱池、傾斜板式沈澱池、高速凝集沈澱池などの方式を選定します。
 1)水量、水質
 原水の水量変動があり、水質の変動が大きいと予測されるときには運転の難しい高速凝集沈澱池の採用は注意しなければなりません。横流式沈澱池、傾斜板式沈澱池はこれらの変動に対しても弾力性があるといえます。
 2)気象条件
 対象国の気象条件、特に気温、水温を調査します。水温が高い場合には高速凝集沈澱池の採用は十分な検討が必要です。また季節により濁度が通 常の数十倍になるところがあります。このような地域では排泥方法、頻度などを考慮して設備の計画を行わなければなりません。
 3)電力事情
 対象国の電力事情を調査し、停電の有無、頻度を考慮します。電力の不要な横流式沈澱池は停電の多い地域では有効です。
 4)設置面積
 傾斜板式沈澱池、高速凝集沈澱池は横流式沈澱池に比べ設置面積が小さくなるという利点があり、都市部で敷地面 積に制限がある場合には有利な方式となります。
 5)予 算
 横流式沈澱池は施設建設費、維持管理費とももっとも安くできます。傾斜板式沈澱池は建設費は高いものの維持管理費は安くなります。しかし高速凝集沈澱池は建設費、維持管理費とも高価となります。
 6)運転、維持管理の技量
 横流式沈澱池、傾斜板式沈澱池は運転、維持管理が比較的容易な方式です。一方、高速凝集沈澱池は高度な技量 が要求されますので採用する場合には運転者の教育を含めて検討しなければなりません。消耗部品、交換部品も多く、建設時に納める予備品は多めにみておく必要があります。
(2)共通項目
 1)池数は原則として複数とし、各池への水量が均等になるように分配設備を設けます。また水量 を調整、確認できる計量設備を設けることが望まれます。
 2)既存の沈澱池にトラフを据え付ける場合、浄水池の水位により沈澱池の水位 が変動することがありますので1日の水位変動、特に給水量の少ない夜間の水位 変動を確認します。また必要に応じオーバーフロー設備の設置を検討します。
 3)排泥が容易にできるような排泥弁の配置と管理動線を確保します。特に排泥弁をピット内に入れるときは換気、ピット内の排水、雨水の浸入対策を行います。
 4)排泥管は閉塞を考慮しφ150o以上とします。
(3)横流式沈澱池
 1)適正な越流負荷となるようトラフを設置します。また流入、流出部の水流の乱れをなくし流入水を池断面 に均等にするために整流壁の設置を考慮します。
 2)ミーダ型汚泥掻寄機を採用する場合には運転、維持管理者の技量を考慮して採用しなければなりません。もし採用する場合はできるだけ簡単な構造とし、点検の容易な部品を使用するようにします。
(4)傾斜板式沈澱池
 1)池排水、清掃時などに傾斜板を落下させないよう現場に操作手順、注意事項を記載した銘板を設置することが望まれます。
 2)清掃用の散水栓、ホースを必ず納入するようにします。
(5)高速凝集沈澱池
 汚泥濃度の維持や汚泥界面の保持、汚泥の循環、排出など運転に専門的な知識が必要となります。また熱帯地域では外気温(水温)の上昇により汚泥浮上現象などがあり運転を困難にします。したがって納入後の運転、維持管理が十分行われることを確認したうえで採用します。

(横尾 弘一郎)

戻る    次へ

コメント・お問合せ