5.4 浄水場の計画と設計


Q158
途上国の浄水場のろ過池でしばしば起こる問題点と、計画・設計にあたりわが国の技術者が気をつけるべきことは何ですか





  Key words:浄水場、ろ過池、急速ろ過池、緩速ろ過池

1.ろ過池で起こる問題点
 途上国のろ過池において起こる問題点は以下のとおりです。
(1)急速ろ過池
 1)途上国の浄水場ではろ過流量の調整機構のないところがあります。これらのろ過池では各池の処理水量 が不均衡となり処理機能が低下しています。
 2)排水トラフがないところや、あっても不足していたり適正に設置されていないろ過池では、逆洗時に濁質が効率よく排出されず、濁質分がろ床に残りマッドボール発生の原因となります。
 3)空気逆洗、水逆洗を併用する逆洗方式において、空気と水同時逆洗時の逆洗水量 が多すぎるためろ過砂が流出している浄水場があります。砂の流出は単にろ層厚が不足するだけでなく排水配管の閉塞、排水池での堆積などの二次的問題を引き起こします。
 4)ろ過池の逆洗状態をみると逆洗空気、逆洗水がろ過池全面に均等にならずアンバランスになっていることがあります。これは集水ストレーナーの成形不良、品質のばらつきによると思われます。
 5)途上国では水源により雨期と乾期の原水濁度に大きな差があるところがあります。これらの現場では高濁度時に逆洗不足となることがあります。これは逆洗水量 、圧力の不足、逆洗水槽の容量不足によるものです。
 6)ろ過池の弁、ゲート、ポンプ、ブロワーなどの運転が自動化された現場では、電気的なトラブル発生時に修理ができなかったため以後手動運転しかできなくなることがあります。これは保守管理者の技量 不足によるものです。
 7)途上国では逆洗に使う水がもったいないという理由から逆洗が行われないことがあります。この結果 、ろ床が閉塞し処理水量の低下などの問題を引き起こします。
 8)弁類がすべて手動式の現場では操作に手間がかかるため逆洗が行われなくなる例があります。
 9)エジプトのカイロ市のように一年中雨が降らず乾燥した地域では、空気圧縮機、除湿器などの空気源装置はすぐ故障してしまいます。したがって空気作動弁よりも電動弁がよく使われます。
10)電圧変動の大きな地域で電動弁を使用する場合、変動幅を事前に十分チェックする必要があります。日本製は一般 的に定格電圧に対して±10%が許容値となっています。変動幅が大きなときには特殊仕様になることがあります。
11)既存の下部集水装置の部分的改修を行った結果、既存品と新設品の品質差が大きく、逆洗が不均衡となり処理機能が低下します。
(2)緩速ろ過池
 1)計画時点よりはるかに高い濁度の原水が流入したため処理できない浄水場があります。緩速ろ過池は建設費が安いので途上国ではよく採用されますが、原水水質が事前に調査されていないとこういう不具合を生じます。
 2)ろ過池への分配設備のない浄水場では処理に不均衡を生じています。
 3)作業の面倒さから表面の汚砂の掻き取り、搬出が行われていないところがあります。この結果 処理が悪化しています。

2.計画・設計にあたり気をつけること
 以上の問題点をふまえ途上国においてろ過池を計画、設計する際に気をつける点について以下にまとめます。
(1)方式の選定
 途上国においては以下の点を総合的に検討してろ過池の選定を行います。
 1)水 質
 原水の水質が比較的良好で年平均濁度が10〜30度以下であれば緩速ろ過池とすることができます。しかし濁度がもっと高く、年間を通 して変動幅が大きいと予測される場合には急速ろ過池の採用を検討します。
 2)気象条件
 対象地域の気象条件、特に気温、水温を調査します。水温差が大きい地域では季節によって逆洗時の砂の膨張率が異なり逆洗速度に影響するので考慮が必要です。エジプトのカイロ市のように年中乾燥した地域での空気源装置は故障が多いので空気作動弁より電動弁の採用を検討します。
 3)電力事情
 対象地域の電圧変動、停電の有無、頻度などの状況を調査し設備の計画を行います。
 4)予 算
 ろ過池の弁は、池数が多い場合には、空気作動弁と空気源装置の組み合わせが電動弁よりも全体として安くできます。
(2)急速ろ過池
 1)原水の均等分配設備、またはろ過流量の調整機構を設けます。
 2)逆洗ポンプ、ブロワーの容量、洗浄水槽の容量、逆洗時間などを決定するために年間を通 した原水の水質データを調査しなければなりません。特に季節変動があるところでは重要です。
 3)ろ過砂の径は『水道施設設計指針・解説』1)では0.45〜0.7mmの範囲としていますが、途上国では1.0mm前後の径の大きな砂が使用されることがあります。したがって設計にあたっては、納入後の補充を含めて検討する必要があります。
 4)効率的な逆洗排水の排出を行うため逆洗トラフの設置を考慮します。
 5)運転、維持管理の容易なシステムを採用することが重要です。電気的にシーケンスを組んで自動化する方法は納入当初は喜ばれますが、故障時に現地での対応ができず結果 的にむだな設備になってしまいます。一方、すべて手動式とすると操作の面倒さから逆洗が行われなくなります。したがって、自動・手動運転の採用レベルは運転者の技量 と操作性を考慮したうえで選定することが大切です。
 6)既存設備の改修にあたっては、既存の運転状況、特に逆洗水量、圧力、時間などの逆洗運転について年間(雨期、乾期など)の実績を調査する必要があります。
 7)既存の集水装置を改修する場合は全数交換が望まれますが、破損部分のみの部分改修を行う場合は、既存品の仕様を十分調査し既存品と新設品の間に能力差がないようにする必要があります。
(3)緩速ろ過池
 1)年間の水質データを調査し、緩速ろ過池が適用できるかどうか検討します。
 2)原水の均等分配設備を設けます。

【出 典】
1)水道施設設計指針・解説,日本水道協会,p207, 1995.

(横尾 弘一郎)

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