5.4 浄水場の計画と設計
Q159 途上国の浄水場の薬品注入でしばしば起こる問題点と、計画・設計にあたりわが国の技術者が気をつけるべきことは何ですか
Key words:浄水場、薬品注入、凝集剤、アルカリ剤、塩素剤
1.薬品注入で起こる問題点
浄水場で使用する薬品としては凝集剤、アルカリ剤、塩素剤があります。それぞれ途上国で使用されている代表的なものは以下のとおりです。
@凝集剤:固形硫酸ばんど、液体硫酸ばんど、高分子凝集剤。
Aアルカリ剤: 石灰、ソーダ灰、苛性ソーダ。
B塩素剤:塩素ガス、次亜塩素酸ソーダ、さらし粉。
これらの薬品を使用した注入設備において起こる問題点を以下に示します。
(1)凝集剤、アルカリ剤
1)原水用流量計がなかったり、あっても故障している浄水場が多く、必要な薬品注入量 の計算ができません。したがって注入量の調整が運転者の勘に頼らざるをえないところもあり、満足のいく薬品注入は行われていません。
2)複数の注入点に注入する場合、均等分配して注入する装置がなく注入量があいまいになっています。
3)埋設配管で薬液を送る場合、配管から漏れていることがあるため、注入ポンプやフィーダーで注入量 を調整しても注入点では不足していることがあります。
4)石灰を使用する設備ではスケールの発生により配管が閉塞し運転できなくなることがあります。
5)途上国で使用される薬品には日本と違い多くの不純物が含まれています。この不純物がポンプや配管で閉塞し、安定した薬品注入ができなくなることがあります。
6)粉末の薬品を溶解する際に発生する粉塵が作業環境を悪くしています。また電動機などの電気品の故障の原因になります。
7)薬品の運搬から溶解作業まですべて人力作業のところが多くあります。これらの作業の手間から薬品の注入が行われなくなることもあります。
8)予算の都合で薬品の購入が滞り、薬品注入が行われていない浄水場があります。これらの浄水場では塩素消毒のみ行って送水されています。
(2)塩素剤
1)どこの浄水場でも塩素注入設備の故障がめだちます。通常、塩素注入機などは予備機を設置しますが、大半が故障しています。したがって運転機の点検、修理作業ができず、壊れるまで使うという状態にあります。
2)塩素容器を使用している浄水場が多くありますが、総じて容器の取り扱いが雑です。床に転がしたり、何の固定もしないで容器を立てかけているところがあり非常に危険です。また吊搬設備がなかったり故障しているため、容器の交換作業にもかなり手間がかかっています。
3)さらし粉を使用する場合、含まれている不純物がポンプや配管で閉塞し、安定した塩素注入ができなくなることがあります。
4)さらし粉を溶解する際に発生する粉塵により作業環境が悪くなっています。
2.計画・設計にあたり気をつけること
(1)凝集剤、アルカリ剤
1)原水流量計を設置し正確な流量を把握して薬品注入を行う必要があります。また注入点が複数箇所ある場合、定量 ポンプ、計量槽と堰などの組み合わせにより均等に注入できる方式を検討します。
2)薬品注入点にも注入量の計量ができる器具を設置し、注入量が確認できるようにすることが望まれます。現場直読式流量 計、あるいは容易にメスシリンダーなどで注入量の確認ができる計量用配管の設置を検討します。
3)薬品の自動比例注入設備の導入については注入量の精度向上面では非常によいと思われますが、途上国においては故障時の対応ができないので採用は見合わせたほうがよいと思われます。
4)溶解槽、薬品注入管に不純物除去用のストレーナーなどの器具を設置します。
5)石灰を使用する場合は、スケール対策を行います。
6)水槽カバー、ファンなどの粉塵発生防止設備の設置を検討します。
7)薬品の搬送設備は手動式でよいので設置するようにします。
8)薬品の使用量、購入などについての計画書を管理者側に提示し予算措置をするよう指導します。
(2)塩素材
1)予備機の設置は当然ですが、予備品の納入は多めに計画することが必要です。
2)容器の固定装置、搬出入装置を必ず設置します。
3)さらし粉を使用する場合、溶解槽、薬品注入管の途中に不純物除去用のストレーナーなどの器具を設置します。
(横尾 弘一郎)