5.5 浄水場の電気・機械・計装の計画と設計


Q167
途上国での電気設備の計画・設計において、特に注意すべきことは何ですか





  Key words:浄水場、電気設備

1.基本事項
 電気設備の計画・設計を進めるにあたって、考慮すべき事柄は次のようなものがあります。
(1)信頼性、安全性
 公共施設としての重要性を考慮し、信頼性の高いシステムを構築すること。バックアップ、危険分散などを考慮します。
 1)途上国では、水道施設の拡張整備と同様に、電気供給もインフラストラクチャー整備の重点課題であることが多く、都市部においても電力供給の安定性や品質について電気事業者から必要な情報を得ておく必要があります。
 2)単システムの停止が全体の停止とならないようバックアップ方式を考慮するとともに、トラブル発生時の対処法について具体的な操作手順書を準備することが重要です。
(2)保全性
 各機器の維持管理と保守の容易性、互換性は完成後の施設運用に大きな影響を及ぼします。
 1)機器自身の保守の容易性とともに、機器の点検を行う保守スペースの確保も重要です。
 2)配電母線から分岐する回路に予備回路を設けたり、今後入手が困難と考えられる機器については、5年間程度の使用に対応できる数量 の予備品を確保することが必要です。また、検電器・絶縁抵抗計・接地抵抗計など保安上必要な試験器具や携帯用のマルチメーター(抵抗・電圧・電流計)・補修用工具を付属品に含めておくべきです。
(3)監視制御性、操作性
 動力供給源としての役割と同様に、浄水場施設の運転に大きな役割を担う電気設備として、オペレーターに常に的確な情報を提供し、安全・確実・容易な操作ができる設備が要求されます。
 1)わが国の監視制御システムは、積極的に電子応用機器の導入を図って省力化、コンパクト化を追求することが潮流となっていますが、途上国においては、電子技術の浸透の度合いやマンパワーの供給など国情が異なることに留意する必要があります。
 2)電子応用機器のライフサイクルは他の機器に比べ短いことや、もし故障が発生した場合の修理が浄水場では対応できないことが多いことなども考慮しなければなりません。
(4)拡張性
 増設・更新時に既存設備の運転に極力影響のないように対応することが求められます。
 1)将来、給水能力増強などの拡張計画がある場合は、既存設備を停止させないように、あるいは停止させるとしても短時間、小範囲に限定して実施できるように、全体計画と整合した検討が必要です。機器の設置スペースの確保のみならず、ケーブル類の配線ルートは余裕のあるものとする必要があります。
(5)経済性
 最小費用で最大効果となるような計画を検討するとともに維持管理費を軽減できるような設備とします。
 1)経済的な計画・設計を行い、最小費用で最大効果を得ることは、万国共通 のことですが、その効果の内容は異なる部分があります。わが国の場合、先進技術を導入し、設備の自動化、省力化を推進する傾向にあります。水道界にもこうした先進技術を受け入れるこれまでの技術の蓄積があります。また、水道施設で使用されている電気設備はほとんど大部分が国産メーカーによって製作されたもので、機器のアフターサービスの体制も整っています。当然のことながら、操作説明や取り扱いのマニュアルは日本語で書かれ、不明な点があればすぐにメーカーに照会が可能です。最近の自動制御に使用される電子機器は、使用者にとってブラックボックス化が進んでいるといわれています。もしこうした電子機器にトラブルが発生して故障が起こっても、施設への影響を最小限にとどめ、アフターサービスの体制の整ったメーカーに修理を依頼すればトラブルを解消できる環境と途上国のそれとの差に着目しなければなりません。途上国における浄水場建設には、施設の信頼性のみならず、技術の普及・蓄積・浸透の効果 をも考慮する必要があります。
 2)先進国や国際機関の援助により施設建設を行う場合でも、維持管理については途上国政府や水道事業体の負担となります。限られた予算のなかで維持管理費を捻出すること、機器の補修部品などの入手経路についても配慮が必要です。
(6)環境、施工
 機器の信頼性確保のため、気温、湿度など気候、地域特性を配慮する必要があります。また、施工にあたっては、搬出入、据え付け、配線ルートなど無理のない計画が必要です。
 1)高温多湿の環境下では、空調・換気設備の必要性を検討します。特に、変圧器や電動機など大きな発熱量 を伴う機器は、設備周辺の気温をさらに上げることになるので、有効な換気方法を土木構造物・建築設備の計画・設計に反映できるようにする必要があります。また昆虫や小動物の侵入を防止することも重要です。さらに、電気設備が設置されている区域への立入りや扉の開放禁止などを周知徹底することも不可欠です。
 2)土木・建築・機械など関連する他の計画・設計との整合性を十分考慮し、監視室や電気室の面 積・設置位置、配線ルートを決定し、搬出入・据え付けにクレーンなどの設備が必要かどうかを検討します。

2.運用・維持管理体制と技術研修
 上記1.の基本事項に基づき計画・設計を進めるとともに、完成後の運用・維持管理体制や技術研修についても考慮する必要があります。
(1)運用・維持管理体制
浄水場の規模や電気設備の概要が決まれば、運転監視や保守の要員や統括責任者など、必要な人員や体制を確立しなければなりません。また、それぞれのポジションでどの程度の技術レベルが必要かを判断することも必要です。こうした人員についての組織的な問題は、途上国側の責任で決定されますが、今後の安定した浄水場の運用には大変重要なことになりますので、計画のなかに含む必要があると思います。
(2)技術研修
 途上国では、水道の普及とともに人材の育成が急務です。浄水場の維持管理体制が確立し、必要な技術レベルが決められれば、その体制を確立し維持発展させていくために、さまざまなレベルで技術研修が必要となってきます。また、こうした技術研修を独自でできるようにする手だても考慮する必要があります。

(小山 達也)

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