2.1 援助案件の実施プロセス


Q17
開発調査案件の「発掘・形成〜案件選定〜調査終了」のプロセスを説明してください





  Key words:案件形成、開発調査、マスタープラン調査、プレフィージビリティ調査、フィージビリティ調査(F/S)

1.案件の発掘・形成
 援助案件の萌芽期ともいうべき段階では、まず途上国自身が優先的に実施すべき案件を選定して、その調査の実施をわが国へ要請してくる場合が考えられます。しかし途上国には独自で案件形成(project formulation)を行うことのできる国は少なく、日本政府に提出された要請書も内容が不明確だったりすることがあるため、最近では国際協力事業団(JICA)は企画調査員を派遣して相手国のニーズを把握し、案件発掘・形成にあたらせたり、外務省、JICA在外事務所経由で情報を集め、プロジェクト形成調査団の現地調査によって案件形成を行ったりします。
 その他のルートではコンサルタントが独自で調査を行ったり、国際厚生事業団(Japan International Welfare Services:JICWELS)、国際建設技術協会(国建協)や海外コンサルティング企業協会(ECFA)といった団体から派遣される案件発掘・形成調査団が途上国でプロジェクトをつくりだす場合もあります。NGOや民間法人の現地担当者(所)からの非公式の情報も案件を見つけだすうえで無視できません。

2.案件選定
 外交ルートで提出された要請書を受けて日本政府はJICAと内容を検討のうえ日本政府による調査実施が妥当であると判断された場合には政府は調査実施を決定し、JICAに実施を委ねます(この要請書には通 常、terms of reference またはT/Rと呼ばれる、調査内容を明記した書面が添付されています)。
 JICAは関係省庁(上水道・固形廃棄物の場合は厚生省)の協力を得て事前調査団を相手国に派遣します。この事前調査団は次に述べる本格調査を進めるための情報収集を行い、相手国政府と合意書を結びます。この合意書はscope of workまたはS/Wと呼ばれ、相手国のT/Rをもとに協議のうえ、調査の範囲、内容、方法および双方政府の担当事項を定めるものです。
 JICAは登録コンサルタントのなかで当該調査に関心を表明したコンサルタント各社に業務指示書を提示し、プロポーザルの提出を求めます。当該調査に最も適したチーム(本格調査団)を編成できると評価されたコンサルタントと業務委託契約を締結します。
 契約したコンサルタントは契約書(業務指示書)に従い、本格調査団を整え、国内作業から業務を開始します。この間JICAは厚生省など、関係省庁の専門家からなる作業監理委員会を編成します。目的は、本格調査団の調査進捗状況を把握したり、調査方法が妥当かどうかを検討し調査団に助言するためです。

3.開発調査
 開発調査と総称される調査業務には主として、マスタープラン(master plan:M /P)調査、プレフィージビリティ調査(pre―feasi-bility study)、フィージビリティ調査(feasi-bility study:F/S)が含まれます。いわゆる開発調査の中心になる段階です。マスタープラン調査の段階では長期的な目標を達成するための段階的な発展計画を示し、次のフィージビリティ調査を行うべき優先案件をいくつかの代替案のなかから選定します。フィージビリティ調査報告書は融資機関にとって融資前評価の基礎資料となるべきもので、これによって融資を行うか否かの意思決定を行うのです。フィージビリティ調査は発掘された案件を投資可能なプロジェクトにまとめあげる調査でなければなりません。ここで注意しておきたいのは、JICAで、たとえばマニラ市上水道「マスタープラン」調査と呼ばれるような調査は他の国際機関では「プレフィージビリティ」調査と呼ばれていて、「マスタープラン」という名称はもっと総合的なプロジェクトを対象とする調査に対して使用されることが多いようです。
 本格調査団は業務指示書に基づき調査方法・計画を詳細に記述した着手報告書(in-ception report または IC/R)を作成します。この報告書は国内の作業監理委員会による検討、相手国政府との協議の後、本格調査の方向を定めるものとして用いられます。
 この後、調査団は相手国政府の協力を得ながら現地での作業を行います。日本での国内作業を交えながら調査団は収集した資料を分析し、計画を立案します。結果 は調査の進捗段階に応じてさまざまな報告書にまとめられます。進捗報告書(progress report:P/R)、中間報告書(interim report:IT/R)、最終報告書案(draft final report:DF/R)などです。これらはそのつど相手国政府との協議にかけられます。
 できあがった報告書案をもとに相手国政府と協議を行います。この目的のため、JICAは協議ミッションを送ります。近年、この協議の期間中、相手国政府関係者や国際機関担当者を招いて調査結果 に関してセミナーやワークショップを開くことが多くなってきています。協議の結果 は最終報告書 (final report:F/R)にまとめられ、開発調査は完了します。

【参考文献】
1)国際協力事業団:開発調査のしおり,国際協力事業団,1995.
2)一宮隆夫:国際コンサルタント業務の特質:プロジェクトの経過.国建協情報557:p9―20,1990.
3)Grover B: Water Supply and Sanitation Project Preparation Handbook, World Bank, Washington DC, 1983.

(大村 良樹)

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