2.1 援助案件の実施プロセス


Q18
無償資金協力案件の「発掘・形成〜案件選定〜完了」のプロセスを説明してください





  Key words:無償資金協力、basic human needs(BHN)、基本設計調査(B/D)、交換公文(E/N)

1.案件の発掘・形成
 開発調査のプロセスと同様な手順で案件発掘・形成が始められます。Q17で述べたようなフィージビリティ調査(F/S)の結果 、優良と考えられた案件も対象になります。公式には相手国政府からの要請を在外公館が受けることが出発点になります。在外公館では予備的検討を行い、要請を外務省へ送ります。案件を無償資金協力として実施するのに妥当であるとする基準1)は以下のようなものです。
(1)当該国の社会・経済開発計画のなかに位置づけられ、高いプライオリティが確保されるもの。
(2)主に民生の安定、福祉の向上に寄与するもの。
(3)財務・経済的便益は低くとも公共性が高いもの。
(4)当該国自身による実現が困難で、借款にもなじまないもの。
(5)プロジェクトの有効活用のため、運営体制・予算が確保されるもの。
 最近よくBHN(basic human needs:基礎生活分野)2)という言葉が使われます。外務省のODA白書では「開発途上国の貧困層に直接働きかけることに主眼を置いた基礎生活分野」3)としています。つまり、低所得層の民衆に直接役立つものを援助しよう、そのためには保健・医療や給水施設整備が大きな分野を占めることになります。無償資金協力は主としてBHNを対象にしています。また、供与対象国は、1995年度では原則として1993年の1人あたりGNPが1345ドル以下であることになっています。なかでもLLDC(後発開発途上国)に対しては一般 無償の52.4%が供与されています。アジアは依然として重点地域になっていますが「LLDC重視の政策を反映し、従来よりアフリカ地域に対する協力についても拡充に努めてきてい」ます。

2.案件選定と基本設計調査(B/D)
 案件の内容によっては事前調査を行う場合もあります。案件を国内で検討した結果 、開発調査(フィージビリティ調査など)を行ったうえで無償資金協力案件として実施することが妥当であるとされることもあります(たとえば地下水を水源とする案件の場合、地下水賦存量 に不安があったりすると開発調査を行うことがあります)。外務省はJICAのコメントをふまえ、案件の検討を行い、選定された案件に対して最適な実施計画案を作成するようJICAに指示します。この作業は基本設計調査(basic design study:B/D)と呼ばれ、厚生省などの専門家や民間コンサルタントからなる調査団によって行われます(コンサルタント選定についてはQ17を参照してください)。この調査では計画の目的・内容・背景・効果 の確認をし、上述の基本点について検討を行い、概算事業費を見積もります。計画規模の決定にあたっては対象となる水道事業体の維持管理能力や住民の費用負担能力を十分に考慮したうえで、単一会計年度内に完了することという無償資金協力の制約のなかでどのような施設建設が可能なのかを検討しなければなりません。工期が不足するようであれば工期を分割して複数の案件とするか、二ないし三会計年度にまたがる国庫債務負担行為案件(国債案件)として計画を策定しなければなりません。調査結果 は報告書案にまとめられ、相手国政府への説明の後、最終報告書(basic design report)が作成されます。
 外務省は厚生省の協力を得て基本設計調査の内容を検討し閣議に提出し、無償資金協力の実施について承認を得ます。閣議決定が得られると、相手国に駐在する日本国大使と相手国の代表との間で交換公文 (exchange of note:E/N) が署名されます。この段階以降は相手国政府の実施機関が中心になって案件を実施します。案件が速やかに実施されるようJICAは側面 からのサポートを行います。実施設計・入札書類作成から工事管理まで日本のコンサルタントが従事します。日本人または日本法人が相手国政府と調達のための契約を行い、E/Nに定められた資機材(goods)と役務(services)を提供することになります。
【事例プロジェクト名】
エジプト「第二次アミリア浄水場施設改善計画」
ベトナム「ハノイ市ザーラム地区上水道整備計画」
ラオス「ヴィエンチャン市上水道補修拡充計画」

【参考文献】
1)国際協力事業団:無償資金協力とJICA,国際協力事業団,1992.
 (このパンフレットには日本語版のほかに英語,スペイン語,フランス語版がある).
2)樋口貞夫:政府開発援助(第2版),勁草書房,1991.
3)国際協力事業団無償資金協力調査部編:無償資金協力調査報告書作成のためのガイドライン,日本国際協力システム,1995.
4)国際協力事業団無償資金協力業務部編:無償資金協力案件の入札業務ガイドライン:コンサルタント業務実施要領,国際協力事業団,1984.

【出 典】
1)国際協力事業団:無償資金協力とJICA,国際協力事業団,p 3―8,1992.
2)樋口貞夫:政府開発援助(第2版),勁草書房,p 19―20,1991.
3)外務省経済協力局編:我が国の政府開発援助(ODA白書 上巻),国際協力推進協会,p110―113,p195,1995.

(大村 良樹)

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