2.1 援助案件の実施プロセス


Q19
有償資金協力案件の「発掘・形成〜案件選定〜完了」のプロセスを説明してください





  Key words:有償資金協力、円借款、プロジェクトサイクル、フィージビリティスタディ(F/S)、借款契約(L/A)、案件形成促進調査(SAPROF)、交換公文(E/N)

 有償資金協力(円借款)のプロセスの概略をフローにすると、図1に示すとおりです。プロジェクトサイクルと呼ばれるこの図に沿って、案件の流れをみてみましょう。

1.発掘段階
 案件の発掘は、プロジェクトサイクルの最初の段階で、国の開発の方向、開発計画に沿った事業を見つけ出す作業です。
 円借款の案件の発掘は、基本的に途上国政府により行われますが、Q17でもふれられているように、途上国独力での優良な案件の発掘は、実質的には困難なことから、円借款の実施機関であるOECF(海外経済協力基金)では、途上国政府(国家企画開発庁などの政策官庁および実際に事業を担当する実施官庁)との協議を通 じた積極的な働きかけを行っています。
 具体的には、カントリー/セクター調査などを通じて、当該国のマクロ経済の状況、各セクターの現状と問題点、今後の開発の方向、セクター間の優先順位 、個別プロジェクトの問題点など、さまざまなテーマに関して定期的に意見交換を行い、円借款として優良な案件を浮かび上がらせるものです。
 また、JICAの開発調査によるマスタープランの策定を通じて、候補案件を発掘することも有効な手段です。

2.準備段階(案件要請まで)
 円借款として要請されるような比較的規模の大きな案件については、通常、開発途上国の国レベルでの開発計画に、案件の必要性や優先度が位 置づけられ、実施に入る前に経済面、技術面などの分析および代替案の検討が行われることになります。これがフィージビリティスタディ(F/S)です。準備段階は、F/Sの実施が主な内容となります。
 F/Sは、発掘された事業を具体化するための作業で、十分な水準の内容を途上国政府のみでつくりあげていくことは通 常困難であり、世界銀行などの国際機関、あるいは二国間援助を担当する機関の協力により、F/Sを実施する場合が多いのが実情です。F/Sに対する協力は、わが国では、JICAの開発調査により行われており、実際に採択された事業のなかでもJICAの協力によるF/Sの割合は高いものとなっています。
 円借款の審査は、F/Sをベースに行われるため、十分な水準のF/Sが実施されていることが非常に重要となります。しかし、現実には、十分な水準に達していない場合がしばしばみられ、また、F/Sの前提となっている条件にその後変更が生じているにもかかわらず、適切な見直しが行われていない場合もみられます。
 途上国政府は、F/Sなどの関連資料を添え、在外の日本大使館を通じて日本政府に対し円借款の要請を行うことになります。

3.審査〔案件要請後、借款契約(L/A)締結まで〕
 要請された案件については、政府およびOECFにより審査が行われることになります。審査は、机上審査と現地審査に大別 されます。
 インドネシアのように毎年円借款が供与される年次供与国の場合には、毎年供与される借款額の水準はおおむね決まっており、通 常、相手国からはこれを上回る金額の要請が行われることから、要請された多数の案件を段階的に選別 する必要があります。
 まず、OECFの実施しているカントリー/セクター調査の結果や、相手国から提出されたF/Sなどの添付資料をもとに机上審査を行い、必要性や案件の成熟度、開発の方向性などに問題のあるものを除き、現地審査対象とする案件を選定します。年次供与国については、案件選定に際して、相手国に対して政府ミッションが派遣され、審査対象案件に関して相手国政府と協議を行うのが通 例です。
 なお、F/Sなどが十分でないような場合であっても、案件としての必要性が高い場合には、OECFの予算で案件形成促進調査(special assistance for project formation:SAPROF)を実施することにより、これを積極的に補完し、現地審査につなげていくことがあります。
 OECFは、上記の検討により選定された審査対象案件につき、現地審査(通常、約2週間)を行います。現地審査では、これまで収集し机上審査してきた資料に基づいて、追加質問事項を用意し、相手国の実施官庁、政策官庁と協議を行います。また、同時に事業実施予定地の現地調査を行うのが通 例です。現地審査の結果は、事業の詳細な内容や事業費の積算、調達方法、実施体制なども含めて、双方の合意議事録(minutes of discussion:M/D)として取りまとめられます。
 現地審査後、OECFは、政府に審査結果を報告し、円借款として採択される案件が決定されると、日本政府から相手国政府に対して、その旨の事前通 報がなされます。
 事前通報がなされた後は、両国政府間で交換公文(E/N)が締結されます。これは二国間の条約の一種であり、円借款供与に関する一般 的な事項が定められます。
 E/N締結後、OECFと借入国政府との間で借款契約(loan agreement : L/A)が締結されます。
 L/Aには、OECFと借入国との間の法的事項および事業の実施に関する基本的事項が定められています。
 これらの手続きは、年次供与国では長引くことはあまりありませんが、先方政府が円借款の手続きに習熟していない場合など、長期間を要することもしばしばあります。

4.実施段階(L/A締結後、案件完成まで)
 案件の実施段階では、途上国の実施機関の役割が主となります。実施段階で必要となる調達は、借入人の責任のもと、OECFが公表しているガイドラインに沿って行われることになります。
 OECFでは、あらかじめ合意されたスケジュールに沿って事業が進捗しているかどうかモニターするとともに、事業進捗の重要な段階で内容の検討を行うことが主な役割となります。
 具体的には、契約の規模や調達方法によっても異なりますが、コンサルタントの雇用に関しては、招請書類の同意、評価結果 の同意、契約の同意、また、本体工事の調達に関しては、入札書類の同意、入札評価結果 の同意、落札者との契約の同意などを行っています。
 実施段階で問題が発生した場合には、OECFと実施官庁とが協議して解決を図りますが、特に必要があると判断される場合には、OECFの予算で案件実施支援調査(special assistance for project implementation:SAPI)により追加的・補足的調査を行い、事業の効果 的な実施を支援することがあります。

5.評価(案件完成後)
 借入人は、案件完成後半年以内に、OECFに対して事業完成報告書を提出することになっており、この報告書に基づいて案件の評価を行っています。この評価は、事業が計画どおりの効果 を発揮しているかどうかを確認すると同時に、将来の案件の発掘、審査、実施監理に対する教訓を得るためのものです。
 これ以外にも、OECFでは、事業の完成後、3年目、7年目に「完成案件現況調査」を行い、完成後一定期間を経た後の現況の把握にも努めています。 

【出 典】
1)海外経済協力基金・開発援助研究所編:海外経済協力便覧(1998),海外経済協力基金,1998.

【参考文献】
1)海外経済協力基金:年次報告書1996,海外経済協力基金,p28,p208―210,1996.
2)海外経済協力基金参与会基金業務中期展望検討委員会:基金業務の中期展望,海外経済協力基金,p参考1―6,1996.

(山本 昌宏)

図1

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