2.2 わが国による案件の発掘・形成


Q20
開発調査案件の発掘・形成のポイントと注意点について説明してください





  Key words:案件の発掘・形成、開発調査、マスタープラン(M/P)、フィージビリティスタディ(F/S)、リハビリテーション

1.開発調査の型
 開発調査の対象や内容はさまざまであり、こうあるべきだという定まったものはありませんが、調査対象で区分すれば以下の3通 りになります。ただし、国際的には、water supply(水供給:井戸によるポイント給水から上水道までを含む)、sanitation(衛生:し尿処理、浄化槽から下水道までを含む)と定義し、両方を合わせて水供給・衛生分野と分類します。
(1)水供給型
 水供給を対象とするもの。
(2)水供給型+衛生型
 水供給と衛生の整備は、一体として実施することにより公衆衛生面の効果が上がることから、両方を合わせて対象とするもの。
(3)衛生型
 衛生を対象とするもの。
 次に、調査内容で区分すれば以下の3通りになります。
(4)マスタープラン(M/P)型
 ある地区の水道施設の基本計画を策定するもので、最近では、まったく新規に作成するものは少なくなっており、古くなったM/Pの見直し、あるいは給水区域の拡大によるM/Pの見直しなどが多くなっています。
(5)MP型+フィージビリティスタディ(F/ S)型
 M/Pを策定した後、そのなかの優先順位の高い部分を選んでF/Sを作成するもので、最も一般 的な調査方法です。

(6)F/S型
 すでに基本計画があり、そのなかの優先順位の高い部分のF/Sを作成するもの。
(7)リハビリテーション型
 ある地区の水道施設が老朽化したことにより、そのリハビリテーション(以下、リハビリ)計画を作成するもので、F/S型の一つですが、今後は、この型が増えてくると思われます。もちろん(4)〜(6)のなかでも、調査の前段でリハビリの調査を含めることが一般 的です。
 このほかに、数は少ないですが、詳細設計を行う詳細設計型もあります。

2.ポイントと注意点
 ポイントと注意点は、「その国に一番大切なことを、状況に応じて、タイミングよく」に尽きます。これらを念頭に置きつつ、下記のことを配慮しながら発掘・形成すればよいでしょう。ただし、ここでは相手国に対する援助方針や優先分野などはすでに決まっており、水道分野のことだけを考えて案件の発掘・形成をする前提で述べます。
(1)調査のニーズがあるか
 発掘・形成で大切なことは、その調査にニーズがあるのか、すなわち調査結果 が本当に利用されるかであり、調査のための調査にならないようにすることです。ニーズにはつくられたものと自然発生したものがありますが、水道施設は社会基盤施設であることからニーズをつくることもあり、一概にどちらがよいとはいえません。発掘・形成にかかわっている人の思い込みから、これらを区別 できないことがあり、無理にニーズをつくっていたことに後から気づくこともあります。
(2)相手国の実施体制とマッチしているか
 上述の水供給型+衛生型を例にすれば、これが理想的に実施されれば公衆衛生面 での効果が上がることは確かであり、国際的にもそうすべきであるとされています。その意味で、この型は積極的に取り組む価値があると思いますが、理想であるとしても、相手国の実施体制・組織とマッチしていなければ実施に移すことは難しく、調査が有効に活用されないおそれがあります。さらに大切なことは、実施した後の保守・管理体制が組め、費用の確保ができるかどうかであり、調査のなかで無理に組んでみても実際には機能しないこともあります。
(3)技術オンリーになっていないか
 わが国では水道分野の援助活動に参画する人の多くは技術者であり、国内では技術オンリーで仕事をしてきた人もいます。日本の技術者が国内で水道の長期計画などに参画する場合でも、財務計画にはタッチしないことが多いのではないでしょうか。しかし、開発調査では、経済・財務評価、事業資金の確保、事業経営などの知識が必要であり、むしろウエイトが大きく、これらを配慮せずに発掘・形成した場合は、調査のための調査になるおそれがあり要注意といえます。
(4)リハビリテーションの注意点
 リハビリは、現に故障・老朽化している施設の設計能力を回復させ、費用対効果 が大きいことから、プロジェクトの実施にあたって、まっ先にリハビリに取り組むケースがよくみられます。しかし、ここで見落としがちなことは、保守・管理方法、費用の確保、施設更新の考え方などについて、相手国側に根本的な誤りがあったため、リハビリを援助として要請せざるをえなくなったということです。 
 たとえば日本では、管路情報の収集、保守・管理に膨大な人数と費用を投入していますが(Q211参照)、途上国では自ら管路情報さえ集めず援助国側に調べてもらおうとするケースがあります。「調査してもらい、必要な資金協力を受け、自分は手を汚さずに管路のリハビリをすれば、漏水も減り料金収入が増えるから、協力してほしい」というような論法が目立ちます。日本で、日夜、管路の保守・管理に携わってきた人たちが聞いたら目をむきたくなるような話でしょう。
 だからといって、リハビリを実施すべきでないといっているのではなく、問題は、それがなぜ誤りであるか気づかずに、途上国の水道事業体が日常業務として行うべきことと、開発調査で対象とすべきことをごちゃ混ぜにしてしまうことです。開発調査案件の発掘・形成にかかわる人は、これらのポイントをしっかり認識して、調査の目的、対象、内容、範囲などを決めるべきです。

(岩堀 春雄)

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