2.2 わが国による案件の発掘・形成


Q21
無償資金協力案件の発掘・形成のポイントと注意点について説明してください





  Key words:案件の発掘・形成、無償資金協力

1.無償資金協力の型
 無償資金協力の対象や内容はさまざまであり、型で区別すれば以下の4通りになり、どれにするかは相手国側の意向を配慮しますが、日本側が能動的に働きかけることもあります。ただし、いずれの場合も、相手国が負担すべき最低限のものは含めないことになっています1)。
(1)資機材供与型
 資機材供与に限定されますが、機材の運転操作指導に技術者の短期派遣を含むことがあります。
(2)資機材供与型+技術者派遣型
 資機材供与と技術移転を主目的とした日本人技術者派遣による建設工事への指導を含みます。
(3)資機材供与型+建設工事型
 資機材の供与と日本の建設業者による建設工事を含みます。建設工事を通じて技術移転を図ろうとするもので、機材の運転操作のみならず、プロジェクトの運営、資機材管理、施設の保守・管理などの技術移転もできます。
(4)建設工事型
 対象施設建設の協力を主目的とするもので、いわゆる完全請負方式による実施方法です。この型では、建設するだけではなく、完了後における効果 的な運転と保守・管理のため、引渡し時に十分な技術指導期間を含める必要性が高まっています。


2.ポイントと注意点
 ポイントと注意点は、「その国に一番大切なことを、状況に応じて、よい内容で、タイミングよく」に尽きます。これらを念頭に置きつつ、下記のことを配慮しながら発掘・形成すればよいでしょう。ただし、ここでは相手国に対する援助方針や優先分野などはすでに決まっており、水道分野のことだけを考えて案件の発掘・形成をする前提で述べます。
(1)協力のニーズがあるか
 発掘・形成で大切なことは、供与・建設したものが十分に利用され、目的を達成するかです。よく観察すれば、ニーズにはつくられたものと自然発生したものがあり、一概にどちらがよいとはいえません。発掘・形成にかかわっている人は、その人の思い込みから本当のニーズか否かを区別 できないこともありますので、常に客観的に判断する公正さと視野の広さが必要です(Q23参照)。
(2)要請の対象・内容が明確か
 わが国の援助は被援助国からの要請を受けて実施することが原則ですが、要請内容の妥当性は、次の理由で厳しくチェックすべきです。
 1)わが国と相手国側では妥当性の判断基準が異なること。 
 2)相手国側による要請内容のチェックが不十分な場合があること。
 3)要請にあたって第三者の思惑が入り、相手国側の真意が歪められているおそれがあること。
 このため要請案件は、表1に示すような項目について、内容が明確か、妥当性が認められるかをチェックし、実施の方向で進むことになれば現地調査が行われます。調査は要請内容の精度に応じて、事前調査を行う場合と、いきなり基本設計調査を行う場合があります。
(3)相手国側の注意を喚起すべきこと
 援助の基本姿勢は「協力事業は被援助国の主体的な努力を側面から手伝うこと」であり、相手国の立場を考えない一方的な言動や慢心はあってはなりません。しかし、案件の目的を達成し効果 を発揮させるためという視点から、必要なことは明確に主張し、相手国側の注意を喚起すべきです。下記に示すようなことを具体的に言わなかったためにプロジェクトの結果 がよくなかった場合は、結果的に不親切になります(Q23参照)。
 1)相手国側は全責任をもって、援助で完成した施設を末永く活用する心構えがあるか。
 2)運営・維持管理体制が整っているか。整える用意があるか。
 3)運転・保守管理のための費用が支出されているか。支出する用意があるか。
 4)自助努力の範囲内のことは自分で行っているか。行う意志があるか。

3.発掘・形成の難しさ
 DAC(Development Assistance Committee :開発援助委員会)諸国が束になって援助しても、無償資金協力では必要な案件のごく一部しかカバーできないのですから、実施すべき案件はたくさんあるように思えますが、実際は逆なのです。なぜかといえば、多くの援助機関は、ごく一部の案件しか実施できないからこそ、アピール効果 や費用対効果が大きい案件を探し求めているわけです。また、DAC諸国は日本の約10倍のプロジェクトを実施していますので、その発掘・形成手法が優れており、かつ足が速いとすれば、優良案件は残り少ないことになります。さらには、DAC諸国や多国間融資機関はローンによるプロジェクトも積極的に探しているわけですから、案件の発掘・形成は大変難しいことがわかります(Q38参照)。
 無償資金協力案件の発掘・形成にかかわる人は、これらのポイントをしっかり認識して、案件の目的、対象、内容、範囲、手法などを決めなくてはなりません。

【出 典】
1)国際協力事業団無償資金協力調査部編:無償資金協力調査報告書作成のためのガイドライン,日本国際協力システム,p72,1995.

(岩堀 春雄)

表1

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