2.2 わが国による案件の発掘・形成


Q22
ある特定の国における案件の優先度を決める考え方を示してください





  Key words:案件の優先度、政策的視点、発展段階、費用対効果

 この質問に対する回答には2つのケースがあり、1つは異なる分野間での優先度の決め方、2つは同一分野間での優先度の決め方です。

1.異なる分野間での優先度の決め方
(1)政策的視点
 被援助国には、通常、援助の窓口機関があり、それぞれの実施機関から提出された異なる分野の案件に優先度をつけます。つけ方は相手国側の裁量 によりますが、相手国側からの要請のみによる受動的なものでは十分な効果を期待できないことから、わが国では効果 的・効率的な援助のための措置をとっています。『我が国の政府開発援助』のなかで「上流部門」の強化について記されており1)、要約すれば以下のようになります。
 なお、わが国ODA(政府開発援助)の分野別配分によれば、水供給・衛生分野の援助額のシェアは着実に大きくなっている傾向にあることから、同分野の優先度はかなり高いものと判断されます。
 1)政策対話の充実
 協力は援助国と被援助国との間の共同作業であり、両者の考え方や意見の調整が必要である。この観点から、わが国は従来より途上国との間の援助に関するさまざまなレベルでの政策対話を重視し、今後もさらに強化していく。
 2)国別援助方針の策定
 被援助国の多様な発展段階および援助需要に的確に対応するため、国別の現状、開発計画・経済政策およびわが国との二国間関係をふまえた国別 援助方針をもつ必要がある。
 3)事前調査の充実
 わが国の経験やノウハウを生かして援助案件の発掘・形成段階から途上国に対して働きかけるため、事前の調査が十分行われる必要がある。
(2)発展段階を考慮した視点
 水道は基礎生活分野(basic human needs :BHN)に含められ、BHNに対するODAは二国間ODA全体の約3分の1を占めているように(1994年)、近年、水道分野への援助の構成比は着実に増加していますが、開発経済学的視点から客観的にみるとどうなるでしょうか。援助の優先分野は発展段階に応じて決められるべきであり、相手国がどの発展段階にあるかによって、水道分野の優先度が異なります。
 図1に「国の所得水準によるインフラストラクチャー構成の推移」を示します。インフラストラクチャー(以下、インフラ)とは生産活動を支える基盤であり、経済インフラと社会インフラに分けられます。前者には道路、鉄道、港湾、通 信、電力などが、後者には保健、水供給・衛生、小中学校などが含まれます。図1によってインフラの整備順位 をみますと、所得水準の向上にしたがって、幅の狭くなる割合が大きいほど整備順位 が早いことを示し、1番は灌漑、2番は水供給、3番は鉄道となります。一方、幅が広くなる割合が大きいほど整備順位 が遅く、通信、電力、道路(高速)などが含まれます。このことから、無償資金協力の対象となるような低所得国および中所得国の一部では、水供給分野の優先度は高いといえます。

2.同一分野間での優先度の決め方
 ここに記したことは、案件選定にかかわる担当機関や担当者による優先度の決め方を述べるのではなく、「どのような案件なら優先度が高いはずである」という視点から述べたものです。協力形態は無償資金協力を想定しています。
(1)費用対効果が大きいこと
 水供給・衛生分野への投資額は必要額の5分の1程度といわれており、また投資額に対して無償資金協力で実施できるのはごく一部にすぎず(Q38参照)、無償資金協力の案件選定は厳密に行う必要があります。WHOは2000年に向けての取り組み方として、“Some for all rather than more for some”とのスローガンを掲げているとおり、少ない費用で被益効果 が多い案件を優先すべきです。
(2)波及効果があること
 案件には幹になるものと枝のものがあり、当然、前者を優先すべきです。たとえば、地方に井戸を掘るような案件の場合、保守・管理基地としてのワークショップ(修理工場)と保守・管理組織が不可欠であり、それがない状態で井戸を掘っても、2〜3年で故障が続出し機能不全になるおそれがあります。都市部の浄水場や配水管網の整備でも、幹と枝を間違えると波及効果 が少なくなります。相手国側から示された優先順位が正しいという保証はなく、いろいろなバイアスによって枝の部分が先になっていることもあり、よく見きわめる必要があります。
(3)持続性があること
 費用対効果や波及効果が大きくても、それらが長期間にわたり利用されなければ、結局は高くつきますので、費用対効果 は、(費用)対(被益人口)ではなく(費用)対(被益人口×利用年数)で測られるべきです。WHOによる取り組みでも、いったん整備された施設は持続的に維持運営されるものとしており、つくったにもかかわらず次々に壊れてしまっては、いつまでたっても目標は達成されません。その意味で、運転費や修繕費が確保されるもの、保守・管理組織や要員が整備されるものを優先すべきです。
(4)料金収入に結びつくもの
 相手国側に運転費や修繕費の確保、保守・管理組織や要員の整備を求めても口約束に終わり、「ないものはしょうがない」として、結局は耐用年数を全うせずにダウンするおそれがあります。上記(2)では施設面 の幹と枝について述べましたが、これに加えて、経営面でも同じような配慮をする必要があり、料金収入に直結する幹となる協力内容に含め、相手国側が自助努力をすることによって収入に結びつくような案件を優先すべきです。
(5)他の援助機関の足を引っぱらない
 多くの援助機関が水道分野の協力にかかわり、特にアフリカにはさまざまな足跡が残っており、プロジェクトの成功と失敗の展示場ともいわれています。その結果 、上記(1)〜(4)を重視して実施しようとしていますが、組織的および経営的な条件は、強制を伴わないと実現が難しいといえます。援助機関には多国間援助機関と二国間援助機関がありますが、前者のほうが強制を伴う条件をつけることに適しています。
 他の援助機関が苦労して条件を整えているプロジェクトの近くで、安易な手法で別 のプロジェクトを計画することは要注意です。相手国側も住民も、目先のことに気を取られ苦い薬を飲むことを嫌いますので、せっかく整った条件を壊し足を引っ張るおそれがあるからです。案件の優先度や対象地区を選ぶときには、このような周囲への気配りも必要になります。

【出 典】
1)外務省経済協力局編:我が国の政府開発援助(ODA白書 上巻),国際協力推進協会,p76,1995.
2)世界銀行編:世界開発報告(1994),イースタン・ブックサービス,p4,1994.

(岩堀 春雄)

図1

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