2.2 わが国による案件の発掘・形成


Q23
完成後に問題を起こさないため、案件の発掘・形成段階で注意すべきことは何ですか





  Key words:案件の発掘・形成、優良案件

1.完成後に起こる問題
 代表的な問題は次のようなことです。
(1)相手国側に引き渡した後で、あまり効果的に利用されていない。
(2)相手国側に引き渡した後で、十分に利用されないうちに壊れてしまった。
 これらの問題が起こる原因は以下のことが考えられます。
 1)本当のニーズではなかった。
 2)経営や保守・管理の仕組みができていなかった。
 3)経営状態が悪く、保守・管理の費用が出せなかった。
 なぜこのようなことが起こるのか、それを防ぐにはどうすべきかを無償資金協力を例にして示します。

2.本当のニーズ
 案件の発掘・形成は、「そこに問題があるから」という場合が多いですが、この視点ですと下記のような展開になります1)。
(1)水道施設が老朽化あるいは故障しているから、わが国が援助する必要がある。
(2)相手国が強く要請しているから、わが国が援助する必要がある。
(3)他の援助機関機関が協力しないので、わが国が援助する必要がある。
これらはニーズには違いありませんが、発生している問題の重要度、問題が解決できるのか、対象案件が実施可能なのか、プロジェクト完了後に保守・管理できるのか、などの評価を伴っておらず本当のニーズとはいえません。したがって、このような視点で選んだのでは優良案件になりにくいといえます。

3.経営や保守・管理の仕組み
 途上国でもほとんどの水道事業は独立採算制をとっていますが、建前上そうなっていることがめずらしくありません。しかし、水道事業体のトップや上層部が、時の政権の都合で頻繁に代わり、基本政策や計画が一貫せず、水道料金も国の承認を要することが多いのが実状です。そのように手足を縛られた状態で、水道事業体に独立採算制で経営せよといってみてもできるはずがありません。
 問題点の根本的な解決は、相手国政府の対応、すなわち「よい統治」2)が行われているか否かによって決まるといってもよく、水道分野でも「よい仕組み」がなければ、いかなる案件も優良案件に仕立て上げるのは難しいのです。経営および保守・管理の仕組みについては、以下の点をチェックする必要があり、これらに疑問がある場合は要注意です。
(1)人事を司る組織が確立し、組織に活気があるか。
(2)上層部が問題点を正確に把握しているか。
(3)独立した経営を行う権限が与えられているか。
(4)会計情報を管理し、予算・決算・長期見込みを作成する組織が確立しているか。
(5)水道使用者の管理を行う組織が確立しているか。


4.経営と保守・管理費用の支出
 水道事業の財務状況を把握するには財務諸表をチェックします。技術者の人はあまり見慣れていないために、たとえば、損益計算書で収支の均衡だけを確認して、黒字か(利益が出ている)、赤字か(損失が出ている)という議論をしがちですが、黒字になったのか黒字にしたのか、など財務の本質を見きわめる必要があります。経営分析の具体的な方法はQ89以降に記されていますので、ここでは途上国の水道事業経営と施設が破綻し疲弊していくパターンを示します。
(1)料金がきわめて安く料金収入も少ないが、国や住民の反対で適正な料金を徴収できない。
(2)水道事業経営が成り立たないので、国が補助金を投入する。
(3)国は補助金を少なくするため、水道事業に対しコスト削減を要求する。
(4)水道事業としては、最も削減しやすい保守・管理費用をカットする。
(5)水道施設が老朽化し故障が続出するが、修理や更新ができず施設能力が低下していく。
(6)給水量や給水範囲が減少し、ますます料金収入が少なくなる。
(7)住民は水売りから水道料金の20〜30倍の法外な価格で買うはめになり、いっそうの生活苦に陥る。
(8)また、(1)に戻る。
 このように、縮小再生産を余儀なくされた水道事業体は、自力で立て直すことも投資することもできず、援助を要請することになります。しかし、根本が変わっていなければ援助で一時的に施設能力を回復しても、また同じパターンをたどって施設が老朽化していくことになります。

5.優良案件を発掘・形成する視点
 Q38によれば、わが国が無償資金協力で実施できるのは100案件のうち1.3案件にすぎません。このことは、上記2.で述べたように「そこに問題があるから」ではなく、「100個のなかから1.3個を選定する」という視点が必要であることを意味し、そうすれば発掘・形成は次のような展開になるはずです。
(1)水道事業・施設の問題点の把握とその重要性の確認。
(2)問題点の改善策と対処方針の作成。
(3)上記(2)の改善策と対処方針が上記(1)の問題点を解決できるか。
(4)上記(3)の改善策と対処方針が相手国に適合しているか(実施可能性、持続可能性など)。
(5)上記(4)のために必要な案件の対象・内容・手法の確認。

【出 典】
1)国際厚生事業団編:環境衛生プロジェクト計画作成指導事業報告書作成手引書,国際厚生事業団,1993.
2)外務省経済協力局編:我が国の政府開発援助(ODA白書 上巻),国際協力推進協会,p351,1995.

(岩堀 春雄)

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