2.2 わが国による案件の発掘・形成


Q24
専門家は案件の発掘・形成にどのようにかかわるべきですか





  Key words:案件の発掘・形成、要請主義、優良案件

 専門家の業務は、第一義的には要請書に記載された業務を遂行することであり、案件の発掘・形成にかかわることが主たる業務ではありません。しかし現実的には、水道分野での数少ない専門家であり、わが国としても相手国側からも幅広い活躍を期待されています。

1.家庭医のような立場で
 わが国にはさまざまな援助形態があり、相手国側は、援助がスムーズに動くようにするにはどうすればよいのか、わからないことが多いと思います。専門家は、各形態をどう組み合わせれば機動的で効果 的な運用ができるかなど、相手国側が気軽に相談できる家庭医のような存在であることが望ましいといえます。
 また、わが国は「要請主義」をとっていますが、これは途上国からの要請に対して、わが国自身の判断のいかんを問わず援助を決定することではなく、十分な調査に基づいた能動的な援助を重視すべきです。そのため、今後は、わが国から申し出るかたちのオファー方式を含めた、相手国との対話の推進が重要になってくると思われますので、専門家のほうから往診することも必要になります。

2.「なじみの客」になるつもりで

 案件の発掘・形成には種々の思惑が入っている可能性があります。あまりよいたとえではないかもしれませんが、自分の住宅・宅地を不動産業者から買う場合を例にして考えてみます。住宅・宅地は生涯にわたって住む所ですから、日当たり良好、交通 至便、閑静な物件を探すため、パンフレットを集め、現地を見て、家族と話し合うでしょう。親の経験や子供の意見も大切です。
 しかし、不動産広告を見た飛び込みの客が、はたして掘り出し物にありつけるでしょうか。よい物件は、広告に出さないうちになじみの客にいち早く売れてしまいますので、広告を見てから行っても遅いわけです。なかには、売れない不良物件をうまく言いくるめて買わせてしまおうとする不動産業者がいないとも限りません。
 DAC諸国全体では日本の10倍の事業を実施しているわけですから(Q38参照)、もし、DAC諸国が相手国内で「なじみの客」になっているとすれば、優良案件はすでに実施されて残っていないかもしれません。専門家は、日本が「なじみの客」になるための窓口にならなければ、優良案件は発掘できないことになります。北側の日当たりの悪い宅地は、いくら細部に手を入れても優良宅地に変えることができないように、もともとの不良案件を優良案件に変えることは至難の業なのです。

3.発掘・形成へのかかわり方
 水道分野において、専門家あるいは調査団員として国際協力に参加する人は、回答者の調査によれば、約80%の人は1回限りの参加です(同一案件に数回参加しても1回と数えました)。このため、発掘・形成へのかかわり方がわからないこともありますので、以下に箇条書きにします。
(1)分野情報の整理
まず最初に、相手国の水供給・衛生分野の状況がどうなっているかを整理する必要があります。これは“Water Supply and Sanitation Sector Profile”などの名称で、国家計画、組織、財務、公衆衛生の状況、都市・地方の整備状況などが記載されているはずです。国によっては作成されていない場合もありますので、そのときは、地域開発銀行などに問い合わせるか、最近実施された調査報告書などを参考にして自分で整理することになります。
(2)援助機関の動向
各援助機関の、実績、今後の予定、対象地区、プロジェクトの内容、協力額、協力手法などの動向を把握します。(1)と(2)は通 常の専門家業務のためにも必須の情報です。
(3)プロジェクトの視察
いろいろな援助機関が実施したプロジェクトのなかから、優良プロジェクトといわれているものやあまり評判がよくないものなどを視察し、問題点やその国に合う協力手法を探ります。視察にあたって、専門家はともすれば技術面 からみる傾向が強いですが、どんなに技術的に優れた施設であっても、数年で壊れてしまってはどうにもなりませんので、ソフト面 を中心にして、次のようなポイントを確認すべきです。
 1)保守・運営面の組織的な仕組み
 2)保守・運営面の費用的な仕組み
 3)中央・地方政府のかかわり方
 4)地方の場合は住民のかかわり方
 5)援助機関のかかわり方
(4)わが国の協力手法
他の援助機関が実施できたからといって、わが国が同じ手法で協力できるとは限りませんので、わが国の援助形態に合うかたちに構成する必要があります。また、公正な立場で候補案件を選定し、自分なりに優先順位 をつけます。
(5)案件情報の提供
以上をもとに、案件にかかわる正確で公正な情報を大使館とJICA事務所に提供します。

4.案件はたくさんあるか
 これは、案件の発掘・形成にかかわる人にとって気になることですが、答えは次の2つです。
(1)どんな案件でもかまわないならたくさんあるけれども、優良案件は真剣に探さなければ見つかりません(Q38参照)。
(2)国によって、優良案件が多い国と少ない国に分類されます。その理由は、水道分野でも「よい統治」1)が行われていなければ、いかなる案件も優良案件になりにくいからです(Q23参照)。

【参考文献】
1)外務省経済協力局編:我が国の政府開発援助(ODA白書 上巻),国際協力推進協会,p351,1995.

(岩堀 春雄)

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