2.3 多国間援助機関による案件の発掘・形成


Q25
多国間援助機関による案件の発掘・形成





  Key words:多国間援助機関、世界銀行、案件の発掘・形成、要請主義

1.多国間援助機関とは
 多国間援助機関とは、世界銀行、米州開発銀行、アジア開発銀行、欧州開発銀行などのように加盟国からの拠出金や発行債券による資金をもとに途上国援助を行っている機関のことで、通 称マルチと呼ばれています。これに対して先進国の独自財源をもとに途上国の開発援助を行っているものが二国間援助であり、通 称バイと呼んでいます。さらに最近、韓国、タイ、トルコなどの中進国が近隣の後発途上国に援助するといった形態もあり、現在の国際援助は多層化しています。そうしたなかでわが国の援助額が世界最大となっています。
 これら国際援助の目的は、南北問題の解消、途上国の発展を促進することで、各機関とも世界全体の繁栄と平和に寄与すべく活動を行っています。ただ地理的、歴史的、社会的関係から、それぞれの機関が特徴をもっているのは当然です。

2.世界銀行
 第2次世界大戦が終結に向かい始めた1944年5月、米大統領ルーズベルトが連合国側44カ国をニューハンプシャー州ブレトン・ウッズに招き戦後の復興策を討議・交渉したのち、1945年12月に創設されたのが、国際通 貨基金(IMF)と世界銀行〔International Bank for Reconstruction and Development:IBRD(国際復興開発銀行)〕です。これがいわゆる「ブレトン・ウッズ体制」ですが、ソ連側が離脱したので発足時の世界銀行加盟国は34カ国でした。激化していく冷戦時代には西側の援助機関の呈をなしていました。
 ちなみに国際連合は、1945年10月に51カ国の加盟国をもって発足しました。さらにこの時期ヨーロッパの援助計画として重要なのは、1947年から始まったマーシャルプランです。戦後一貫して世界銀行は西側の途上国の開発援助に対して重要な役割を果 たしました。
 世界銀行はその総裁(歴代米国人)の意向、主にアメリカの政策の影響を大きく受けながら発展し、世界の途上国の開発・発展にとってリーディング的な役割を担ってきました。わが国は1952年8月、世界銀行に加盟しました。
 世界銀行は愛知用水、東名高速道路、新幹線などの公共事業や川崎製鉄などの民間事業に対して援助を与え、わが国の戦後復興および発展に大きく貢献をしてきました。ところで米州開発銀行、アジア開発銀行、欧州開発銀行などの地域開発銀行は後発であり、世界銀行をモデルに業務を遂行してきた面 が多くみられます。

3.援助の内容
 一般的に途上国に対する援助は大きく資金協力と技術援助との2つがあり、前者は有償と無償に分けられます。技術援助も、純技術的援助から財政、制度的な援助まで広範にわたっています。制度面 に関する技術援助として、途上国の間で最近関心の深い「民営化」の問題もあります。このように技術援助といっても、わが国の定義よりやや広いようです。実際の援助が効果 的であるためには、この両者が車の両輪のような機能を果たす必要があります。わが国では、JICAが前者の、OECFが後者の役割を果 たしています。
 ところで世界銀行援助のカバーするセクターは広範囲で、一般のインフラストラクチャープロジェクトのほか人口・栄養・家族計画・教育などのプロジェクトやノンプロジェクトに対する融資を行っています。

4.世界銀行のプロジェクト発掘・形成
 案件の発掘・形成の手法について、多国間援助機関とわが国とで基本的に大きな違いはありませんが、いくつかの特徴があるのでそれをまとめます。
(1)わが国が要請主義をとっているのに対して、世界銀行では必ずしもそうではありません。外交チャンネルを通 して要請を受けることもあるし、自らの判断で相手国を説得してプロジェクトづくりを行うこともあります。この例としては環境関連のプロジェクトがあります。
(2)プロジェクト形成の前に、徹底的にその国情とセクターに関する調査を行いcountry reportとsector reportにまとめますが、これはいわば縦糸と横糸であり、そのなかで新規のプロジェクトを発掘し形成していきます。さらに国連の他機関との連携を緊密にとり、そこと協同することも少なくありません。最近の例では、旧ソ連邦の国々や南ア連邦などへの援助があります。
(3)プロジェクトの進め方が理想主義的でアングロサクソン的であり、やや理想を追求しすぎる傾向がみられます。この結果 として途上国の国情を十分考慮せずに、かなり性急に関税の引き下げ、補助金の廃止やコストリカバリーを要求し、これをコンディショナリティとしています。
(4)世界銀行は途上国の産業育成にも配慮し、プロジェクト形成にあたっては、できるだけその国の財、サービスを使って工事の発注が行われるような発掘・形成を行っています。

5.わが国の発掘・形成
 わが国は、経済大国でありますが開発援助の歴史はあまり長くないので、次のような特徴があります。
(1)発掘・形成が要請主義であるということです。案件の発掘・形成はいろんなチャンネルによってなされ、商社であったり、各種外郭団体であったりコンサルタント、ゼネコンなどですが、いずれも当事国の要請というところに集約されます。このためプロジェクト相互間や各国間との関連が十分に配慮されていません。このため政治的に声の大きいものは、利益を受けるという事態に陥りやすいといえます。
(2)要請主義に阻まれて、日本のポリシーを相手側に伝えることが少ないことがあげられます。これはたとえば環境分野への対策において、人間の住むべき環境はこうあるべきと思っていてもそれを十分訴える点が乏しいということです。
(3)日本の援助は、あまりこうあるべきと訴えない反面、融通性が高いので、コストリカバリーなど絶対的条件とはせずに柔軟に対応しています。これには一長一短がありますが、日本的なスタンスも守りながら言うことは言うという姿勢が必要でしょう。

 以上のように多国間援助機関の融資のあり方をよく理解して、新規プロジェクトを発掘・形成していくことが大切で、今後国際化がいっそう進むなかで日本のODAが質・量 ともに充実し、わが国が発展の過程で得た教訓が他の途上国で生かされるような努力が必要です。途上国はアジアの一国としての日本の発展には注目し、欧米型と違うやり方を求めています。

(野田 典宏)

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