2.3 多国間援助機関による案件の発掘・形成


Q26
多国間援助機関(世界銀行を中心に)が、他の援助機関による調査をもとに融資する場合の視点・条件を示してください





  Key words:国際協調、多国間援助機関、世界銀行、コンディショナリティ

1.緊密化する国際協調
 基本的に多国間援助機関が、他の援助機関による調査を利用することはありえます。たとえば、世界銀行が融資を決定する際にJICAの調査報告書を参考資料として利用することは、現在も行われているし将来もますます活発化していくでしょう。ところでそのためには一定の条件があるので、ここではそれについて考察します。
 今までは各援助機関とも、なるべく川上でデマケーションをして実際のプロジェクト形成から融資までなるべく接触を避けてきたのではないでしょうか。一方で協調融資の際は全面 的に相手側のリードに依存して融資のみに関与してきたのではないでしょうか。ところで今後はますます調査段階でも協調が進んでいくでしょうし、またそうする必要があります。それは調査の有効利用であるし、プロジェクトの複雑化に伴う当然の帰結です。
 調査と融資の関係を整理するため、表1のように多国間援助機関を世界銀行とし、他の援助機関を日本としています。
 パターンTやVは、従来より行われていた古典的なパターンであり、パターンUは協調融資のパターンです。ここでのテーマはパターンWの、調査は日本で行い融資は世界銀行が行うものです。さらにパターンYとZは協同調査のケースであり、今後の課題になるでしょう。

2.世界銀行の融資の考え方
 世界銀行は歴史的にみても途上国の発展を通して世界の平和と繁栄に貢献するべく、オーソドックスなアプローチをとってきました。そのために途上国の発展計画とセクターの発展計画の2つの軸を用いてプロジェクトを推進しています。前者は各国の国情報告書であり、後者は1980年代の「国連飲料水供給と衛生の10カ年計画」や1990年代の「地球環境」のようなテーマです。これらを各国にブレイクダウンして、たとえば「インドネシアの全国水道計画」や「韓国の全国下水道計画」を立て、そのなかで個々のプロジェクトを位 置づけようとします。
 このような観点から、まず次の条件が満たされなくてはいけません。
(1)その国にとってそのプロジェクト推進が適当か。
(2)セクターとしてそのプロジェクトが必要か。
 世界銀行内には調査部門があり、たえず各国の状況やセクターの進展を調査し、working paperなどで周知徹底しています。これらの文献は、日本においても入手できるものも多くあります。

3.融資のための調査とは
 世界銀行が融資を決めるためには、大きく分けて次の3つの条件(技術的、財務的、制度的条件)をクリアしなければいけませんが、これらはどの調査にも共通 している事項です。
 技術的条件としては、適用しようとする技術が実証済みであることと、途上国の自己能力で運転・管理できることが必要条件です。このため世界銀行のプロジェクトに採用される技術は、最新のものよりやや旧式の実証済みのものが選択される傾向があります。ところが途上国の為政者は、コンピューター化や自動化など最新のものを求める傾向が強く見られます。
 財務的条件としては、マクロ的に国民経済全体をみてその投資規模は適当か、利用者は負担が可能かという観点で評価します。ここで重要なのは、コストリカバリーをすること、国庫補助に頼らないことです。ということは、水道や下水道のような初期投資が大きく、さほど高い料金を徴収できないプロジェクトをどう財務的に正当化するかが鍵となります。世界銀行は、安易な国庫補助は結果 として国民経済全体を歪め悪影響が出ると考え、認めません。
 制度的条件とは、たとえば料金の値上げが必要な場合、それを可能とする制度的保証を求め、公社の設立が必要と認めた場合、その法律改正をコンディショナリティとする。
 これらの条件は、基本的にJICAの調査のなかに含まれるものであり、その意味でその調査結果 (マスタープランやフィージビリティスタディ)が世界銀行の融資の根拠として使われることはありえることです。

4.世界銀行融資の視点と条件
 世界銀行融資を受けるためには、その理事会での承認が必要です。スタッフはそのための準備に全力を傾けて、4段階を経て最終成果 物であるSAR(staff appraisal report)をまとめます。SARの概要は数十ページ程度のものですが、次のようなものが掲載されています。
(1)セクターの概要
(2)プロジェクトの被益者
(3)プロジェクトの概要
(4)プロジェクト実行の組織・監理
(5)プロジェクト関係の財務状況
(6)プロジェクトの必要性と危険
 つまりSARは、このプロジェクトの内容を示し、実行すれば多くの便益が得られ財政的にも十分可能であることを訴えているのです。したがって他の援助機関の調査はこれに答えるものであればいいと考えます。日本の調査がこの要望に答えられるかどうかは、その力量 によっていますが、十分可能だと考えられます。

【参考文献】
1)世界銀行年次報告書(各年).
2)世界開発報告書(各年).
3)staff appraisal report(各種).

(野田 典宏)

表1

戻る    次へ

コメント・お問合せ