2.3 多国間援助機関による案件の発掘・形成


Q27
多国間援助機関(世界銀行を中心に)の融資とコンディショナリティについて説明してください





  Key words:多国間援助機関、世界銀行、コンディショナリティ

1.世界銀行の融資について
 世界銀行には1947年に設立された第一世界銀行(IBRD)と1960年に設立された第二世界銀行(IDA)があります。前者は一般 の途上国に、後者は後発途上国に融資を行っています。世界銀行は、融資の便宜上、途上国を表1のようなカテゴリーで分類しています。
 このうちカテゴリーV、Wが基本的に第一世界銀行の対象となり、カテゴリーT、U、Vが第二世界銀行の対象となります。第一世界銀行と第二世界銀行とのブレンドであれば、カテゴリーWも第二世界銀行の対象となりえます。償還期間(据置期間)は、最短で15年(3または5年)から最長で40年(10年)となっています。据置期間はプロジェクト実施期間であり、その収入をもとに返済します。利率のほうは第一世界銀行がほぼ6%程度で、第二世界銀行が0%ですが、コミットメントフィーがあります。

2.コンディショナリティについて
 融資は一種の商行為であり、コンディショナリティはその融資条件のことです。それは、途上国が融資を受けるときに満たさなければならない条件のことであり、次のようなものがあります。
(1)融資条件(金額、利率など)
(2)返済条件(年数、据置期間、手数料など)
(3)法制および組織条件
 コンディショナリティの交渉は、プロジェクトサイクルの最後の段階で行われます。すなわちアプレイザルレポートの最終版ができあがった段階で、世界銀行のプロジェクト担当者が途上国側の責任者を本部のあるワシントンに招いて行います。途上国側の責任者も事前に内容については情報を得ているので、交渉はスムーズです。時として彼らの予期しない事項があると、決断しかねて本国に問い合わせたりします。この場合、予定より時間がかかることがあります。これらのコンディショナリティはすべて含んで返済計画など立てられているので、多少の変更でも全体計画が変わります。

3.原則に厳しい世界銀行
 これらの条件は、一般的には当然の条項ですが、一方で途上国の主権にかかわるようなものもありえます。というのは、世界銀行の融資を受けるときの条件の一つとして、コストリカバリーがあります。これは他からの援助によらず、借款の返済を行い、かつ維持管理費もカバーするだけの料金を設定するというものです。さらに減価償却分を加えることがあります。
 こうした原則に対して妥協点が見い出せず、プロジェクトの途中で中止したものもあります。身近な例で、かつて東京都の水道事業拡張のため資金が必要となり、世界銀行に依頼したことがあります。これに対して技術的にすべてクリアーして、さて融資を承認する段になり交渉に入りましたが、どうしてもまとまらなかった理由は、このコンディショナリティでした。世界銀行側は当然のことながら、コストリカバリーを担保するために、返済期間中にわたって細かく水道料金を決めつけてきました。一方、日本側の言い分は、公共料金である水道料金の値上げについては、一定の手続きが必要であり、議決機関である都議会の決議を長い将来にわたって拘束することはできないということでした。したがってこの点が交渉で打破できず、融資まで至りませんでした。
 もう一例として、タイに対する水道プロジェクトは、1980年代初めより、新規の案件は形成されていません。これも世界銀行側は、コストリカバリーについて譲らず、一方タイ側の言い分は、水も空気も人間の生存にとって不可欠のものであり、水道料金は低所得者のことも考え、できるだけ低く抑えるべきであり、たとえそのために、水道事業が赤字となっても国庫補助でまかなえばいいのではないかということでした。ところが世界銀行のいうコストリカバリーは、国庫補助を基本的には認めないので、結局交渉決裂となりました。
 もう一例として、最近トルコの下水道プロジェクトへの融資打切りがありましたが、これも料金値上げなどのコンディショナリティが、地方議会での抵抗で満たされず、さらにプロジェクト遅延があったためとられた措置です。

4.技術的に保守的な世界銀行
 世界銀行が途上国に勧めるプロジェクトの内容は、一般的に保守的なことが多いといえます。この理由としては、@途上国の技術力をあまり信用していない、Aシニアのスタッフが多い、B世界銀行内の雰囲気として新技術に抵抗感があるためと考えられます。
 こうした世界銀行の姿勢は、途上国の技術発展の可能性など問題となることがあります。たとえば浄水場の施設に対する考え方でも、世界銀行は従来の人力多用型のシステムを推薦することになりますが、途上国のほうはもっとコンピューターを使った集中制御が可能なシステムを求めるというケースがあります。よい対応策としては、これだけ技術革新が進んでいるので、その途上国の技術レベルも考慮しながら、なるべく先進的な技術が導入されるようにすることです。
 いずれにしても、世界銀行は融資にあたって原則に厳しく、その実行を確保するために厳しいコンディショナリティを課すことが一般 的です。

【出 典】
1)通商産業省:平成9年度版経済協力の現状と問題点,通商産業調査会出版部,p240,1998.

(野田 典宏)

表1

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