2.3 多国間援助機関による案件の発掘・形成


Q28
多国間援助機関(世界銀行を中心に)のプロジェクトサイクルについて、わが国と対比しながら説明してください





  Key words:多国間援助機関による案件の発掘・形成

1.プロジェクトサイクルとは
 プロジェクトサイクルとは、あるプロジェクトの準備から終了までの一貫した流れを指します。これは最初の政策対話も含めると、数年から10年以上にわたるものです。各段階は次のようになっています。ただしプロジェクト完了後は、半永久的に維持管理されていきます。
(1)準備段階:プロジェクトを発掘し形成する。
(2)審査:そのプロジェクトが融資の対象になるかを判断する。
(3)調達:融資の対象となったプロジェクトの入札を行う。
(4)実施:プロジェクトを実際に遂行する。
(5)評価:実施されたプロジェクトが当初予定の成果を上げたかを評価する。

2.世界銀行のプロジェクトサイクル
 世界銀行でいうプロジェクトサイクルとは、次のような段階を指します。
(1)identification(プロジェクトの決定)
(2)preparation(準備)
(3)appraisal(事前審査および精査)
(4)negociation and board presentation(交渉および承認)
(5)implementation and supervision(実施および監督)
(6)evaluation (プロジェクトの評価)
 プロジェクトが単独で終了せずに、何次にもわたって継続するような場合には、こうしたプロジェクトサイクルが連続します。こうした例としては、「Water Supply ProjectT」、「Water Supply Project U」といったプロジェクトがあり、世界銀行では多く見かけます。これらを表すと、図1、2のようになります。
 次にプロジェクトサイクルの各段階を概括します。(1)のプロジェクトの決定では、決定といってもまだ最終決定ではなく、候補としてあげた程度のものです。(2)の準備では、すでに当該国のF/Sがあっても通 常2年程度かけます。技術的だけでなく財務的にも組織的にも満足のいくものとするため、外国の専門家を投入します。(3)の審査では、スタッフがプロジェクトを精査し4段階にわたって報告書(SAR)を仕上げていきます。その最終版が次の(4)において当該国の担当者と交渉した後、承認を求めて理事会にかけられます。理事会では、各国を代表する理事が審議し最終的な承認を与えます。(5)はプロジェクト実施段階で、入札資料を作成し業者を決め施工を行います。最終の(6)では、当初の成果 が上がっているかを評価します。
 ところで最近の世界銀行の傾向として、従来型のプロジェクトサイクルでは、受益者である住民がプロジェクトの内容を知らされるのは最後の段階であり、民主主義的でないとの反省から、できるだけ「川上」から受益者の参画を可能にすべく、新たなプロジェクトサイクルの試みがなされています。これは、@受益者から要望の聞き取り(listening)、A試験的実施(piloting)、B段階的拡大・普及(demonstration)、C本格的実施(mainstreaming)というstepwise方式によるものです。これは、当然の対応といえますが、プロジェクト形成・実施において従来以上の時間と手間がかかります。よい点は、先進国の専門家だけがプロジェクトを推進するのでなく、途上国の要望を受けたかたちでプロジェクトが形成されるので、社会的受容性(social acceptability)の面で望ましいということです。

3.わが国のプロジェクトサイクル
 わが国のプロジェクトサイクルと世界銀行との大きな違いは次の点です。
(1)わが国では、技術協力を行うJICAと資金協力を行うOECFとが別組織である。
(2)世界銀行では、UNDP(国連開発計画)など国連の他の機関との協同作業が緊密である。
 このことから、わが国ではJICAで行った調査が、必ずしもすぐ資金協力がつき実施されるとは限りません。また資金協力の目途が立ったときにはすでに調査の内容が古くなったという事態も発生します。このためOECFでは、独自の調査〔special assistance for project formation:SAPROF(案件形成促進調査)〕を行うこともあります。ところで世界銀行の仕事に対する非難としては、プロジェクトの発掘・形成から完了まで時間がかかりすぎる点です。官僚的な世界銀行内部で多くの段階を経ることと批判が多いために、プロジェクト承認までに長い時間がかかることです。
 図3、4にJICAの開発調査の流れとOECFの直接借款の流れを示します。日本の場合、技術協力のプロジェクトサイクルと資金協力のそれとがうまく連動したとき、国際協力の実効が十分発揮されると考えられます。

【出 典】
1)国際協力事業団編:開発のしおり,国際協力事業団,1994.
2)海外経済協力基金・開発援助研究所編:海外経済協力便覧,海外経済協力基金,1995.

(野田 典宏)

図1,2

図3,4

戻る    次へ

コメント・お問合せ