5.5 浄水場の電気・機械・計装の計画と設計


Q170
途上国でのポンプ設備の計画・設計において、特に考慮すべきことは何ですか





  Key words:浄水場、ポンプ設備

 途上国でのポンプ設備の計画・設計において、特に考慮すべきこととして、次のようなことが考えられます。

1.機器類の選定
 必要なポンプ機器類の選定にあたっては、必要な計画水量などを満足に供給できうる性能を有していなければならないことはもちろんですが、下記についても考慮する必要があります。
(1)その地域の環境に長期間耐えうる機器の選定
 いわゆる現地の使用条件に合った適正な機器(台数)を選定する必要があります。
 1)気象条件などによる影響
 日本より厳しい気象条件の多い途上国での機器類に対する影響としては、乾期雨期、高温多雨多湿時の腐食、カビの発生による機器の劣化、多雨時などの機器類周辺の雨漏り、排水の不良、昆虫(白蟻など)による配線の断線、魚貝類による管路の流通 阻害などがあります。
 2)生活文化の違いによる影響
 途上国の多くは熱帯などの地域であるため、人々の活動時間は早朝の涼しい時間帯や夕方に多く、日中の暑い時間帯には休憩などを行います。したがって、日本と異なる時間帯に水需要の最大ピークなどが生じます。しかしながら、季節変化がほとんどないため、季節による使用量 の大きな変化は少ないようです。
(2)現地製造品(機器類)の選定
 輸送費の軽減、途上国産業の育成、アフターサービスなどを期待できるため、現地製造品の有無を調べ、可能な限り現地製造品の使用がよいと考えられます。
 1)信頼性の確認
 現地製造機器類を使用する場合、先進国の製品に比べ信頼性に問題がある場合もあるので、必ず信頼性を確認することが必要です。時には、製造工場などを訪問し、製造技術者から、性能、信頼性など疑問点について確認するのも一つの方法です。
 2)アフターサービス
 消耗品の補給や故障などが発生した場合には、現地製造品であれば、部品などが比較的安価で容易に供給されます。アフターサービスなどのために代理店、営業所の所在なども確認してください。なお、現地製造品が入手できない場合、またその使用が適切でない場合には、故障時の部品の入手方法について、対応策を必ず考えておく必要があります。

2.維持管理
 長期間安定した水を供給するためには、計画・設計段階において、特に維持管理について考慮する必要があります。
(1)操作管理が容易な機器の配置
 熟練した運転操作員や技術者が少ない途上国では、容易に運転でき故障の生じにくい単純な構造の機器の配置を優先したほうがよいと考えられます。すなわち小規模な施設の場合、中央操作盤においての遠方集中操作よりも現場での手動操作のほうが、構造が単純であるため管理が容易であり、ランニングコストも少なくなります。
(2)互換性のある機器、同一機種の配置
 使用する機器について、統一した規格などがある場合には、互換性のある維持管理に有利な規格品を使用することはもちろんのこと、できる限り汎用品の使用を心がけるとよいでしょう。また、複数の機器を配置する場合、補修(消耗)部品の共用化が可能となる、同一機種を複数(予備機含む)配置するほうがよいと考えられます。
(3)ワークショップの併設
 途上国では、故障時に即修理できる体制が不十分(通信、民間管理業者の未成熟)な場合が多いので、自前で修理できる体制が好ましいでしょう。したがって、測定機器、工具などを備えたワークショップ(修理施設)を併設してください。
(4)図面の保管庫の設置
 維持管理の基本となる、施設機器の図面が紛失することのないよう、図面の保管庫(場所)などを設置し所在を明確にしてください。
(5)吊り上げ装置
 維持管理に使用する「吊り上げ装置」については、電動式のクレーンより人力式のチェーンブロックなどのほうが経済的かつ管理が容易であり停電時にも対応できるのでよいでしょう。

3.電力(エネルギー)
〈安定した電力の確保〉
 多くの途上国で安定した電力の供給を得ることは困難であり、しばしば停電に見舞われます。非常用の発電機を用意しておくことはもちろんですが、電力事情により、自家発電装置を常用電源とした計画を考えるほうが得策の場合もあります。

4.必要な人材
 計画・設計時に最も重要なことは現地の情報などを得ることであり、竣工後は計画どおり運転することです。そのためには、現地のよい人材を確保しなければなりません。
(1)技術情報を交換する複数の現地技術者の確保
 友人、知人の紹介など、機会あるごとに多くの現地技術者(日本人を含む)と知り合い、技術情報などを得てください。
(2)操作員などの訓練
 前述したように熟練した運転操作員や技術者が少ないので、操作方法などについて研修訓練などを実施し、人材を育成してください。

5.安全第一
 ポンプ設備に関連して、安全面から考慮する事柄については、次のとおりです。
(1)ポンプ設備については、24時間稼動する場合が多いので、夜間には十分な照明が必要です。一般 的に途上国の照明は不十分な場合が多く、街灯なども少ないので、照明は必要な箇所に適切に設置してください。
(2)高所作業のできる限り少ない設計、計画にしてください。バルブなどの取り付け位 置については、取り換え時の配慮も必要であり、高所の照明器具などの保守管理のためには、丈夫な梯子や脚立も具備しておく必要があります。
(3)現地では保護具(安全靴、防塵眼鏡、マスク、安全帯など)の入手が容易でない場合もあり、あらかじめ具備しておくとよいでしょう。
(4)途上国の建物のフロアーには、思わぬ場所に段差などがある場合があります。これは施工業者の技術に問題がある場合も多く、ポンプ室などの建築時に、不要な段差など危険な箇所が生じないよう注意してください。

6.経済性
 最終的には当該設備の維持管理費は現地の住民の負担となります。したがって使用する機器、動力費については、できる限り低く抑えることも重要です。
(1)現地製造品使用によるコストの削減と産業の育成
 上記1.(2)2)とも関連しますが、比較的安い現地製造品を使用することにより、現地産業の育成にもつながり、経済発展にもつながっていくと考えられます。
(2)低電力(省エネルギー)によるランニングコストの削減
 できる限り動力、電力を節約する設計、計画とし、ランニングコストの削減を考えてください。

7.ゴミに対する対応の強化
 途上国の実情として、ゴミの収集処理が立ち遅れている場合が多く、河川などに投棄される場合が多いようです。したがって特にゴミに対しての対応を考えておかねばなりません。
(1)スクリーン
 スクリーンの機種、設置数そして清掃(洗浄)回数については、現地取水河川などへのゴミ投棄の実情を必ず考慮しておく必要があります。
(2)取水ポンプ
 取水ポンプについても、頻繁に清掃ができる据え付けにしておく必要があります。

(丹羽 繁生)

戻る    次へ

コメント・お問合せ