5.5 浄水場の電気・機械・計装の計画と設計


Q172
途上国の浄水施設管理の計画・設計において、自動制御の導入を要請された場合、国情を考えてどのように判断すべきでしょうか





  Key words:浄水場、自動制御

1.要請の背景
 途上国より自動制御の導入を要請された場合、まず相手国の要請の目的なり背景を知る必要があります。
 自動制御導入の目的が安定かつ確実な浄水処理や給配水などをめざすものであることは予想できるのですが、当該途上国の技術レベルなり経済状態を考えると要請される自動制御のシステムがあまりに高度な場合がよく見受けられます。そのような場合は特に要請される自動制御システムの目的を含めて要請の背景を正しく認識しなければなりません。たとえば、トップダウンにより物事を決定する国ではトップだけの意見で要請されることもありますし、最新の技術を導入することがその国の国策の一つであることも考えられます。また、それらの技術を導入することにより、その国の技術レベルアップを図る意図が含まれている場合もあります。

2.システムの種類
 一口に浄水施設における自動制御といってもさまざまな制御形態や種類があります。大きく分けるとフィードバック制御とシーケンス制御に分類できます。具体的には流量 や圧力や水位の制御、薬品の注入制御、ポンプの運転・台数制御、さらに沈澱池の排泥に関する制御や、ろ過池の自動洗浄などの制御も考えられます。また方式も1つの制御系ごとに独立した制御装置で制御するワンループ制御、さらにコンピューターを使用してプラント全体をトータルに制御するDDC(direct digital control)の採用も行われていますし、従来大きな制御盤に複雑なリレー回路で構成していた制御回路を小さなシーケンサーにより構成して使用することも珍しくありません。
いずれの自動制御システムの採用も、合理的に安定した浄水処理や効率的で経済的な管理、さらに労働条件の改善などを目的としています。途上国では、どの方式で何を自動制御することが適しているかはそれぞれの事情や要請の背景によって一概にいえません。一般 的には制御システムが大規模で複雑であれば維持管理の作業量も多くなり、それらの技術レベルも高度なものを要求されることになります。

3.自動制御導入の留意点
 途上国での自動制御の導入は、まず、その目的と要請の背景を理解したうえで次の点に留意をして行います。
(1)オペレーターおよび維持管理技術者の人数や技術レベルが妥当であるかを検討します。その施設にとって新しい技術であるならば、維持管理技術の移転の方法も考慮しなければなりません。
(2)制御装置が故障した場合には常に安全サイドに作動し、マニュアルで操作できる構造とします。
(3)途上国の電力事情についても考慮する必要があります。特にコンピューターで制御する場合は、瞬時停電でもシステムが停止する場合がありますので無停電電源装置の採用などを計画しなければなりません。
(4)自動制御の方式はなるべく単純で簡単なシステムとし、必要以上に複雑な構造としないほうが望ましいと思います。できれば、薬品注入とかポンプの自動運転とか1つの独立した系統での制御方式を採用するほうがよいでしょう。
(5)数年分の消耗品および予備品を所有し、将来にわたってこれらの入手経路を確保しておくことができるか検討します。
(6)所有しているスペアパーツまたはスペアカードを使用してある程度の修理調整ができるように技術者を研修するプログラムを含めておきます。
(7)自動制御に依存すればするほど、その安全性を維持するための管理体制を確保する必要があることを、計画の段階から途上国のスタッフに認識させなければなりません。日本の現場でも完全な自動制御システムを導入したため、オペレーターの水処理に関する技術レベルが導入以前に比べて低下するといった皮肉な弊害が起こることがあります。

4.施設運用の継続性
 先進国の援助プロジェクトが自動制御システムを含めたプラントの建設を行い、建設後に所定の維持管理技術をローカルスタッフに技術移転し、プロジェクト期間中は調子よくシステムが稼動していたのに、プロジェクトの専門家が帰国したら自動制御システムがうまく運用されずに手動運転のみで運用されていた、ということが予想されます。
 このため、途上国の浄水施設管理の計画・設計においては施設運用の継続性を特に考慮しなければなりません。逆にいえば施設運用の継続の可能性がなければ必要以上な高度の自動制御システムは導入しないほうがよいということです。具体的には普段の保守点検や定期点検を実施するための維持管理体制の確立や、消耗品や予備品の確保などです。しかしながら、途上国の経済状態、その水道事業体の経営状態によって理想的な維持管理体制が望めない場合もあります。その場合は設備建設の援助だけにとどまらず、プラントを運転開始してからの運用面 での技術指導を含めた援助の必要も考慮しなければなりません。 さらに電子機器はポンプや電動機と比べてその耐用期間が比較的短いのでリノベーションのサイクルも当然短くなります。将来、施設更新の時期を迎えたとき、途上国が独自に施設を更新できるように自助努力の姿勢を促すことも大切です。

(盛田 茂樹)

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