5.5 浄水場の電気・機械・計装の計画と設計


Q173
途上国での水位計および流量計の設計において、特に注意すべきことは何ですか





  Key words:浄水場、水位計、流量計

1.使用目的
 途上国での水位計および流量計の設計においては、まず使用目的を明確にします。さらに水位 計や流量計の設置がそのプラントにおいて必要であるかを考慮します。浄水場で水位 計や流量計が必要なのは当然のことですが、途上国では電子式の水位計や流量 計を1つ設置するにしても決して予算的に安いものではないので、計測の重要性を考えて計測する箇所のデータが本当に必要であるか検討します。
 次に設計する水位計または流量計が、単に水位あるいは流量を測定してそれらの計測データがどのように活用されるか、あるいはそれらのデータを何らかの制御に利用するのかということを検討します。これらの使用目的の明確化が設計を始めるにあたってのまず最初の作業となります。

2.設置条件
 さて実際に水位計や流量計を設計する場合、それら実際の使用に伴う条件や設置場所の環境を考慮します。これらをまとめると次のような事項となります。
(1)測定点とそれらの計測データを必要とする場所が近接しているか距離があるか。
(2)測定データが自動制御に利用されたり自動記録装置などにより記録されるか、または近い将来そのように使用されるか。
(3)施設の運転・管理体制はどのようになされているか、あるいはどのように計画されているか。
(4)施設の技術者の手によって維持管理できるか。
(5)設置場所の環境はどうか。
(6)安定した電源が得られるか。

3.機器の選定
 次に設置条件を考慮して機器の選定をします。水位計や流量計は単に測定精度を重視するだけでなく、耐久性や現場技術者が維持管理を行うことを考慮して決定します。できればその途上国に使用機器メーカーの代理店があればよいでしょう。
 水位計については、わが国ではフロート式、超音波式、差圧式その他さまざまな方式の水位 計が利用されています。途上国ではフロート式や差圧式が環境やその他の条件、あるいは維持管理の面 から考えて比較的適していると思われます。
 流量計については、現在のところ電磁流量計、ベンチュリー(差圧式)流量 計および超音波流量計を主に採用しています。途上国では構造が簡単で維持管理が容易なベンチュリー流量 計が適していると思われます。ベンチュリー管は内部に堆積物が付着する以外は長期間の使用が可能ですし、使用する差圧発信器は調整が簡単で、故障して修理が不可能な場合は、規格が同じであれば特別 な技術を要さないでも比較的容易に交換ができるからです。

4.計測のバックアップ
 途上国においては電力事情が非常に不安定で自家発電装置をもった浄水場が多くみられますが、何かの事情で自家発電装置が運転できない場合もあります。日本では無停電電源装置を計装設備に使用することがありますが、途上国では経済面 から考えて大容量の無停電電源装置の導入は現時点では無理と思われます。そこで水位 や流量を停電時でも計測できるバックアップ設備を併設することが望まれます。これらのバックアップ設備は電気を使用しない物理的な計測方式とします。具体的には貯水タンクや配水池の水位 計なら、透明のパイプやチューブを使用し連通管方式で実水位を計測できるようにしたり、フロートと指針を兼ねた重りをロープで結び、それらを上部から滑車で吊り下げることにより水位 変動を重りの指針の上下変動で知ることができるようにした水位計などです。また、フロート式水位 発信器のなかには、機械的に実水位を表示する機能を備えたものもあるのでそれを利用するのもいいでしょう。また流量 計ならベンチュリー管に水銀式U字管を併設してその差圧で流量を測定したり、開溝水路なら堰流量 計で計測できますし、流量の積算値なら翼車式の機械的な流量計で測定できます。

5.予備品など
 設計の最後に予備品を考慮する必要があります。途上国では電子式の水位計や流量 計が故障した場合、スペアパーツやスペアカードを短時間で手に入れるのはまず不可能です。そのため、入手の難易度に応じて3〜5年分のスペアパーツを確保しておきます。これらのスペアパーツは、メーカーのサービスが受けられず途上国の浄水場の技術者の手によって交換・修理されるのですから、それらの作業性を考えてユニット単位 の部品やカード、あるいは機器によってはその使用機器本体と同じものをそのまま予備品として保有することが望ましいこともあります。
 スペアパーツ以外の予備品として維持管理用の計測機器を含ませると大変役に立ちます。たとえばフロート式水位 計ならデジタルマルチメーターがあれば校正ができますし、圧力発信器を使用した水位 計やベンチュリー式流量計の差圧発信器などは、デジタルマルチメーターと標準となる圧力計と簡単な空気ポンプ、あるいは低差圧の場合はビニールチューブを水柱に使用したマノメーターなどがあれば簡単に校正をすることが可能です。また、電磁流量 計を設置した場合は校正用のキャリブレーターを内蔵した機種ならばいいのですが、そうでない場合は必ず専用のキャリブレーターが必要になってきます。本来はこれらの計測機器は「予備品」という範疇には入らないかもしれませんが、途上国の浄水場においては入手が難しく、そのために維持管理ができなくなる一つの要因となっています。

(盛田 茂樹)

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