5.8 管路の維持管理とリハビリテーション
Q189 途上国で実施された管路リハビリテーションプロジェクトの具体例を示し、 調査で配慮すべき事項について説明してください
Key words:管路リハビリテーション、管網解析、漏水調査
1.管路リハビリテーションプロジェクト
JICAが実施した調査で、管路リハビリテーション(以下、リハビリ)のみを対象としたものはありませんが、管路リハビリを主目的としたものは下記のとおりです。
(1)開発調査
1)インドネシア「ウジュンバンダン市水道整備計画調査」(1984〜1985年)
2)タンザニア「ダルエスサラーム市給水施設整備計画調査」(1990〜1991年)
3)カンボジア「プノンペン市上水道整備計画調査」(1993〜1994年)
4)インドネシア「ジャカルタ市水道整備計画調査」(1993〜1994年)
5)ヨルダン「ザルカ地区上水道施設改善計画」(1994〜1996年)
(2)無償資金協力
1)スーダン「首都圏給水計画」(1988年)
2)カンボジア「プノンペン市上水道整備計画」(1993〜1994年)
2.個別調査での例
一般的に途上国では、水源確保、取水、導水、浄水などの生産施設を増強するために、限られた資金や人材が優先的に割り当てられています。このため、配水部門は、組織整備、人材拡充、計画的な施設整備がなされないままに、職員の経験に頼った対症療法的な維持管理、あるいは、わずかな改善にとどまっているのが現状です。したがって、管路リハビリプロジェクトの援助は、途上国の現状を十分認識したうえで総合的な水道施設整備計画の一環として実施されるべきと考えます。
なお、途上国の多くでは工事の竣工図面などの整備が機能的になされていないため、管路図面 の整備および種々の情報の整備を先に行う必要がありますが、ここでは情報整備がある程度完了していることとし、下記の条件を設定して具体的な個別 調査について説明します。
〈設定条件〉
・給水人口:100万人
・調査期間:現地調査6カ月、国内解析6カ月
・調査団構成:日本人4名、ローカルコンサルタント使用可
(1)管網解析調査
施設能力の現状把握や評価および施設の将来計画を作成するためには必要不可欠な調査です。
1)すでに存在しているべき資料
@管路図面(管種、口径、延長、管内面仕様、敷設年度、管敷設地点の地盤高などの情報を含む)。
A配水池、揚水ポンプ所の位置および形式、能力。
B配水池の水位、増圧ポンプの二次水圧。
C配水池および増圧ポンプの流出水量データ。
D管路の主要地点の水圧および流量データ。
Eバルブの設置位置および開閉情報。
F消火栓の設置位置および形式。
G需要者の使用水量(検針台帳)。
H将来を展望した水需要予測。
I将来を展望した施設計画。
2)開発調査で行える調査内容
@管路情報および弁情報の補足調査。
A管路図面に基づく現況のモデル管網図作成。
B1日最大給水量発生日などの各流量データおよび検針台帳を参考にして各節点に水量 を割り付け。
C現況の管網解析作業。
D解析結果と主要地点の水圧データとの整合チェックに基づく解析条件の訂正。
E消火時を考慮した管網解析作業。
F主要施設の事故を想定し、バックアップ方法を考慮した管網解析作業。
G将来の施設計画に基づくモデル管網図の修正。
H目標年度の水需要予測値に基づく節点水量の割り付け。
I目標年度時の管網解析作業。
J現況および目標年度時の解析結果に基づく管網の評価。
3)日常業務で実施すべき事項
@管路の更新および新設工事による管網図データの更新作業。
A主要地点の水圧データ収集。
B給水量変化に基づく節点水量割り付けの更新作業。
C管網図更新に伴う管網解析作業および分析と評価。
(2)管路更新計画の作成調査
管路の能力不足や漏水防止および水質劣化防止の面から管路更新計画を作成することとなりますが、将来においても安定した給水が図れるよう、将来の水需要や主要施設の事故時などを想定した管網解析結果 や拡張計画も考慮して更新計画を作成する必要があります。
1)すでに存在しているべき資料
@管路図面(管種、口径、延長、管内面仕様、敷設年度などの情報を含む)。
A管路の埋設場所の地質情報。
B管路の埋設深さと通行する車輌の状況。
C管網解析に基づく評価結果。
D漏水、赤水、濁水などの事故記録。
E将来を展望した施設計画。
2)開発調査で行える調査
@管路図面などの各種情報の補足調査。
A各種事故記録の事故原因別、管種別、敷設年度別、埋設地盤条件別などによる整理と分析。
B各種事故記録の分析に基づく管路の問題点の把握。
C必要に応じて既設管路および埋設土壌などをサンプリングして管路の老朽度試験。
D必要に応じてパイロット地区の漏水調査による漏水事故のサンプリングの実施。
E管網解析に基づく評価結果による管路の問題点の把握。
F将来の施設計画を考慮した管路更新計画の作成作業(更新ルートの設定、更新管種口径の設定、更新費用の算出、実施優先順位 の設定、更新年度割り付けの実施)。
3)日常業務で実施すべき事項
@管路更新実施の管理。
A漏水、赤水、濁水などの事故データの収集および分析。
B主要地点での水圧データの収集と分析。
C各分析に基づく管路更新の評価および管路更新計画の見直し。
(3)パイロット地区の漏水調査
漏水防止計画を作成するにあたり、既存資料として漏水事故データが不足している場合に補足するための調査です。
1)すでに存在しているべき資料
@管路図面(管種、口径、延長、管内面仕様、敷設年度などの情報を含む)。
A管路の埋設場所の地質情報。
B管路の埋設深さと通行する車輌の状況。
C漏水、赤水、濁水などの事故記録(給水管の事故を含む)。
2)開発調査で行える調査
@管路図面などの各種情報の補足調査。
A管路図面を利用して、管種、敷設年度、埋設地盤条件などによる地域的傾向により地域区分。
B条件の異なる地域区分のなかからパイロット地区を数カ所選定。
Cパイロット地区の漏水調査作業および漏水事故のサンプリングの実施。
D必要に応じて既設管路および埋設土壌などをサンプリングして管路の老朽度試験。
E漏水事故記録を原因別、管種別、敷設年度別、埋設地盤条件別などにより整理。
F漏水事故箇所を配水管と給水管とに分けて事故条件別に管路図面上に整理。
G漏水発生傾向の高い条件を考慮し、全域の漏水調査作業計画の作成。
H漏水防止計画(漏水防止の面からの管路更新を含む)の作成。
3)日常業務で実施すべき事項
@漏水防止計画に基づく定期的な漏水調査、漏水修理、管路更新の実施。
A地域別の漏水率の把握と漏水防止効果の分析。
(4)送配水コントロール計画の作成調査
浄水池および配水池の貯留量を活用して送水施設や配水施設を安定かつ効率的に運用し、配水区域内の適正な水量 ・水圧を確保するための計画ですが、将来の水需要および施設計画も考慮する必要があります。
1)すでに存在しているべき資料
@送配水系統図面(浄水、送水、配水施設の形式、能力などの情報を含む)。
A現状の送配水コントロール状況およびコントロール機器の整備状況。
B浄水池、配水池などの流入・流出水量、各ポンプの送水量、その他流量 ・水圧のデータ。
C各ポンプの稼働状況と電力使用量のデータ。
D需要者の使用水量(検針台帳)。
E将来を展望した水需要予測。
F将来を展望した施設計画。
2)開発調査で行える調査
@現状および将来水量時における送配水シミュレーション。
A現状および将来水量時における主要施設の事故を想定した送配水シミュレーション。
B各シミュレーション結果から安定給水および効率性からの評価。
C評価に基づく送配水コントロール計画の作成。
3)日常業務で実施すべき事項
@送配水コントロールで得られる各データの収集と整理。
A施設整備実施に伴う送配水コントロールの変更作業および再評価。
3.その他に配慮すべき事項
(1)組織体制
管路リハビリプロジェクトの計画作成および提言を行うためには、水道事業に関して執行責任のある組織と制度の概要および管路の維持管理組織を把握し、維持管理部門の職員などとのヒアリングを実施し、現状把握に努める必要があります。
(2)経営実態
計画実施を確実にするためには、水道事業体の財政状況や経営実態を把握することも必要です。
【参考文献】
1)小林康彦:水道管路の研究開発の方向,水道技術研究センター,1988.
(佐藤 亮一)