5.8 管路の維持管理とリハビリテーション


Q192
管路を維持管理するためには管路図の整備・管理が基本ですが、それがない場合に、図面 管理の体制と手法をどうすればよいですか





  Key words:管路、管路図、図面管理

 途上国の多くは、植民地からの独立や多くの紛争を経て現在に至っています。こうした理由から人材、資料、技術などの多くを喪失しており、行政管理における引き継ぎなどにもそれらの影響がいまだに色濃く残っているのが実情です。
 このため、計画、建設、管理の各業務を実施するために必要な図面、台帳などが欠落あるいは未整備であるため、各業務は現場のベテラン職員の記憶と勘に頼って処理されています。また、技術者やベテラン職員の多くは、習得した技術や業務にかかわる情報を個人のノウハウとし、他の職員に技術や情報を伝授しない閉鎖的な業務環境が多く見受けられます。このような状況のなかで図面 管理業務を開始する場合には、現地スタッフと協調、協力関係を築き、図面管理体制の構築について理解が得られるよう啓蒙し、管路図のデータ収集業務が組織的にできるような環境づくりを心がける必要があります。

1.管路図作成のための業務体制
 管路図を作成および大幅な変更を行う場合の体制としては、管路図面の必要性、経済性、精度、効果 などを検討するため、計画、図面管理、設計、施工、維持管理の各部門から職員を集めてプロジェクトチームを編成し、技術協力専門家を中心として関係各部所と協議しながら業務を推進し、全体のコンセンサスを得ながら行うことによって、完成後の利用や情報伝達が円滑に進むことになります。
 管路図を維持および更新するときの体制としては、図面管理担当部所を設け、管路図に関する情報を集中管理し、維持、補正の体制と手順を明確にしておく必要があります。
 なお、図面を利用するすべての職員が、自分たちの情報であることを認識し、記載ミスなど誤情報を発見した場合には速やかに連絡、訂正するルールを徹底させることも重要です。

2.管路図を作成する手法
(1)整備方針の設定
 管路図を作成するには、関連する台帳類とともに作成することとなり、その流れ(図1参照)としては、まず整備方針の設定が必要となります。これは、既存の図面 台帳類の保有状況、利用状況、整備状況、維持管理状況の調整を行い、その内容を分析し、整備すべき図面 台帳類の種類と記載内容の検討を行います。
(2)情報量および精度の決定
 ここで一番重要なことは、管路図およびこれに関連する台帳類の情報量および精度(正確さ、精密さ)をどこまで求めるかを決定しなければならないことです。これは、各業務における利用可能な範囲を拘束することとなり、整備費用に大きく影響します。精度が高いほど誤差は小さく、費用は高くなるため、利用目的によっては高い精度を必要としない場合もあり、必要に応じて決定することが経済的です。
(3)基図(地形データ)
 管路図の背景となる基図の作成と維持管理には多大な費用を必要としますので、既存の地形データにある程度の精度があるならば、これを利用して作業を進めるべきです。また、適した地形データがない場合には独自で測量 作業を始めることになります。
(4)情報の収集
 情報の収集、整理は情報管理の基盤であり、図面台帳類の新規作成の際のみならず、完成した後でもその精度を維持、向上させるためにも重要です。情報の発生する部所から情報を収集するルールや、収集するデータ内容および様式を決定する必要があります。また、現在ない情報で必要なものについては、今後発生する情報を収集することによって補う方法と、現地調査によって補う方法があります。なお、現地調査には、バルブ、消火栓などの位 置を調査し、これから管路の埋設位置を探知機によって推定する方法や、試掘によって管種、口径、埋設位 置を確認する方法があります。なお、情報の矛盾が発生した場合は「不確定」とし、現地調査によって確認して、不明な場合は「不明」として段階的に処理し、一度に高い精度のものを求めて長期間かけて作成するよりも、現地調査を2〜3年程度とし、数次に分けて作業を繰り返すことにより精度の向上をめざしたほうがより利用度の高いものとなります。
(5)情報の整理
 情報の整理については、必要な情報がすぐ取り出せるように情報を分類し、コード化したり索引を整備する必要があります。なお、この整備業務の手段としてパーソナルコンピューターを利用するとより効果 的です。
(6)管路図作成の手順
 管路図を作成するには、その様式(記載する情報項目、図郭の設定、図形記号の決定、注記の記入方法、整備)を決める必要があります。管路図を使用する国や地域によってデータに違いが生ずることがありますが、すでに使用されている国や地域の管路図などを参考にすると、より効果 的に管路図の作成が可能となります。管路図の作成手順を図2に示します。

【参考文献】
1)水道技術研究センター:水道管路情報管理マニュアル,水道技術研究センター,1991.

(諸我 敏夫)

図1

図2

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