5.9 給水管の設計とリハビリテーション


Q196
わが国で給水管の管種・管材が変遷した経過と理由を説明してください





  Key words:給水管、管種、管材、給水管の変遷

1.明治・大正時代の給水管の変遷
 わが国では、明治20年に横浜市が近代水道を創設したときから純鉛管を使用していました。しかし、純鉛管は材質が柔軟で耐圧力、引張り強さが小さいので相当の肉厚が必要でした。
鉛管は水道創設当時には外国製品を輸入していましたが、明治30年ごろから、外国製品に品質の劣らない国産品が製造されるようになり、しだいに国産品を使用するようになりました。
また、鉛管の原料である鉛は、その大部分を輸入していましたが、大正15年ごろから合金鉛管(2種)の研究が行われました。これは、鉛にごく少量 のアンチモン、銅、錫などを加えたもので、純鉛管に比べ管厚が薄くて強度も強く、耐久力が優れるなど、多くの利点があったため、以後合金鉛管が採用されるようになりました。

2.昭和初期〜戦時の給水管の変遷
 大正15年ごろから行われた合金鉛管(2種)の研究結果により、合金鉛管は昭和初期から純鉛管に代わって給水管の主流を占めるようになりました。
また、鉛管以外の材料としては銅管、鋼管、鋳鉄管などが使用されていました。
銅管は、わが国で大正12年に給湯用に使用したのが最初といわれており、給水用としては昭和7年ころから使われるようになりました。鉛がほとんど輸入品であるのに対して、銅は国産品でした。
 鋼管は、主に鉛管の代用として継目無鋼管、亜鉛鍍金鋼管、電弧溶接鋼管、綿布巻鋼管などが使用されていましたが、日中戦争の影響で鉛管の入手が困難になるにつれて鋼管の使用が増え、太平洋戦争が始まった昭和16年ころからは、黒管(無塗装管)まで使用せざるをえない状態となりました。しかし、そのうちには粗悪なものも多く使用されたため、多数の出水不良などの問題が生じました。
 このうち亜鉛鍍金鋼管は昭和7〜8年ごろから使用され始めましたが、内面の腐食によって水に赤錆を混入し、水質を汚染するおそれがあったため、亜鉛鍍金鋼管の欠点を補う鉛管入亜鉛鍍金鋼管が製造されましたが、この鉛管入亜鉛鍍金鋼管はきわめて特殊なもので、実際に使用されたのはわずかでした。
鋳鉄管は、昭和の初期までは銑鉄のみが使用されていましたが、銑鉄に10〜20%の鋼を混入して強度を高めた高級鋳鉄管が開発され、主に大口径用に使用されました。
 なお、太平洋戦争勃発以来、戦時体制強化のなかで、鉛管、銅管、鋼管などの金属給水管の使用はほとんど不可能な状態となりました。そこで代わるものとして陶管・セルロイド管・合成樹脂管などの製作が考案され、また、真鍮管、アスファルト焼付鋼管、アスファルトジュート巻鋼管などを一部使用しましたが、実際の使用はわずかでした。

3.戦後の給水管の変遷
 戦後、給水管として使用していた主なものは合金鉛管のほか、脱酸銅管、亜鉛鍍金鋼管、石綿セメント管、鋳鉄管などでした。
 このうち、銅管は戦後多数の会社で製造されましたが、そのころ製造されたものは材質の悪いものが多く、さらに戦後は連合国軍として米軍が進駐し、GHQ統治が始まりました。このときGHQは、特に、水道の衛生管理を重視し、とりわけ、塩素消毒の強化を指示してきました。これを受け塩素注入量 が戦前に比較して著しく高められ、そのため、成分分離などによる人体への影響が懸念されたため製品を統一するとともに、粗悪品の使用を禁止するため、昭和27年1月12日、銅管の規格を改正し、材質を脱酸銅管により製作されたものとしました。
また、石綿(アスベスト)を原料とした石綿セメント管は、鋳鉄管、鋼管の代用品として昭和8年ごろから一般 に配水管用に採用されていましたが、一部では給水管(主に口径50mm以上)としても採用されたものの一般 家庭の引き込み管としての使用はほとんどされませんでした。

4.昭和31年以降の給水管の変遷
 給水管材料は、従来から鉛管、銅管および鋼管などを用いてきましたが、化学工業の急速な発達によってそれぞれの管種の特性を生かし、給水管材として非常に優れた合成管材が開発され使用されるとともに、強度があり、また非常に錆びにくい管材であるステンレス管の採用も行われるようになりました。  
 現在、主に使用されている給水管材は、公道地中埋設部分ではダクタイル鋳鉄管、耐衝撃性塩化ビニル管、ポリエチレン管などで、敷地内地中埋設部分ではダクタイル鋳鉄管、耐衝撃性塩化ビニル管、硬質塩化ビニルライニング鋼管などです。また、屋内給水用としては、硬質塩化ビニルライニング鋼管、耐衝撃性塩化ビニル管、ポリエチレン粉体ライニング鋼管などが使用されています。
 以下、現在使用されている主な給水管材の変遷を記します。
(1)鉛管(対象呼び径10〜50mm)
 従来の合金鉛管よりさらに強度の優れた合金鉛管が開発され、これを鉛管3種として規定しました。
 一方、近年、飲料水の水質に対する関心が高まり、WHOでは、飲料水中に溶出する鉛に対する量 規制を一段と厳しくしており、わが国でも平成元年6月に厚生省が、新たに給水管を敷設する際には鉛溶出による問題の生じない管材を使用するよう指示しました。これに対応するため、従来は外面 にのみ腐食を防止するためポリエチレンなどを被覆していたものを、鉛管の内面 にもポリエチレン粉体ライニング被覆することにより鉛溶出をゼロに抑えることに成功しました。また、同時期に、テルルを添加することにより強度を増した合金鉛管を、鉛管特種として規定しています。
(2)硬質塩化ビニル管(対象呼び径13〜150 mm)
 硬質塩化ビニル管とは、石油を原料とする塩化ビニル重合体と安定剤を使って成形したもので、わが国で製造が開始されたのは昭和26年です。その当時の接合方法は熱間工法でしたが、昭和36年ころから継手受口(taper :勾配)をつけたTS継手(taper sized joint)が開発され、熱を使わない冷間工法として急速に普及しました。昭和42年ころになると耐衝撃性の塩化ビニル管と同継手がHI(high impact)と呼ばれてつくられるようになりました。これは、従来の硬質塩化ビニル管は衝撃に弱く、大きな荷重の加わる箇所には使用できなかったためです。
 また、塩化ビニル管の接合方法は、従来からTS継手(接着剤)により行われていますが、口径が大きくなると使用場所や天候により十分な接合ができない場合があったため、ヨーロッパで開発された、ゴム輪を使う接合方法(RR工法)がわが国でも採用されるようになりました。
 現在、給水管材として硬質塩化ビニル管は主に宅地内、耐衝撃性塩化ビニル管は道路部分にと、多くの都市で採用されています。
(3)ポリエチレン管(対象呼び径10〜50mm)
 ポリエチレン管とは、ポリエチレン樹脂に耐候性をもたせるため2〜3%のカーボンブラック(炭素粉末)を混入して成形したものをいい、そのポリエチレン樹脂は昭和8年に英国で開発され、昭和30年にはわが国でもつくられるようになりました。
 昭和28年に英国で初めてつくられたポリエチレン管は、昭和32年にわが国でも国産化され、軽量 で柔軟性、耐寒性があるほか、長尺物の生産が可能であることから水道用配管に使用されるようになり、翌33年1月にポリエチレン管の1種(軟質管)、2種(硬質管)のJWWA H 101 規格として制定されたのち、昭和34年にJIS K 6762 水道用ポリエチレン管に移行しました。
 一方、昭和52年ころから一部の都市において敷設後、数年経過すると埋設管内に水泡が発生し、ごくまれな例として、薄皮を剥いだような剥離現象が生じるという問題が発生しました。これの対策について検討を進めた結果 、剥離現象はカーボンに起因することが判明したため、管の外面には従来どおりカーボンを混入し、内面 のみノンカーボンとする2層管を開発し、水泡の発生を防止することに成功し、規格品として採用されています。
 現在、ポリエチレン管は、その特性(伸び率が非常に優れている)から耐震管材として、特に注目されている管材です。
(4)銅管(対象呼び径10〜50mm)
 水道用銅管と同継手の規格は昭和28年4月にJWSA H 101、JWSA H 102として制定され、昭和46年8月に銅管を使用する圧力の範囲が静水頭(最高使用圧力)150m以下から100m以下に、材料がリン脱酸銅の1種類から無酸素銅との2種類に、また水圧試験の圧力が21kgf/cm2から25kgf/cm2に変更するなどの改正が行われています。昭和54年12月の改正では、住宅設備のユニット化に伴う各種設備ユニットの給水・給湯用配管に、JIS H 3300(銅および銅合金継目無管)に規定されている配管用銅管が大幅に採用されていることなどから、JIS H 3300に規定する配管用銅管が追加されました。その後、昭和63年8月、輸送の便のためコイル管は別 として1形と2形の直管の長さを短くし、4.0mに改正されています。
 なお、2形は1形に比べ外径が大きく、呼び径の単位は1形はmmで、2形はA、Bで示し、AはmmをBはinchを表しています。
 給水用銅管にはLタイプ(厚肉)とTタイプ(薄肉)が使用されます。また、軟質と硬質があり、軟質は主として地下埋設用、硬質は主として屋内用ですが、Mタイプは管厚が薄いため地下埋設用には使用されていません。
(5)鋼管(対象呼び径1/8inch〜 )
 亜鉛鍍金鋼管の白濁、赤水発生などの問題を解決するため塗装方法の研究が進められ、昭和30年代後半から40年代にかけて内面 に硬質塩化ビニルライニングを施した管が使用されるようになりました。これには、配管用炭素鋼鋼管の黒管(SGP)を原管とする硬質塩化ビニルライニング鋼管A(VA)と白管(SGP)を原管としたC(VC:1995年に廃止)、水道用亜鉛鍍金鋼管を原管とする同B(VB)と埋設用として外面 被覆したD(VD)があります。
 次いで、ねじ込み式可鍜鋳鉄製管継手の内面にエポキシ系樹脂および塩化ビニル系樹脂コーティングを施して防食効果 を高める技術が開発されました。
 また、昭和50年にはポリエチレン粉体ライニング鋼管が実用化されました。これには、外面 の区分によりPA(一次防錆)、PB(亜鉛鍍金)、PC(2層のポリエチレン被覆:作業性が悪く製造実績が少ないため、1995年に規定が廃止された)がありますが、そのうち2層のポリエチレン被覆については、接合部の被覆除去など配管の作業性に問題を残しているため、1層のポリエチレン被覆を施したD(PD)が開発されるとともに、さらに、エポキシ樹脂粉体ライニング鋼管が開発されました。
(6)ステンレス鋼鋼管(対象呼び径10〜50 mm)
 鉄のもつ最大の欠点である錆(stain)を防ぐため各種の塗料が開発されてきましたが、この錆との闘いのなかで生まれたのがステンレス鋼です。ステンレス鋼の種類は多く、現在日本工業規格に約100種類規定されていますが、基本的には鉄に12%以上のクロムを加えた鋼をいいます。
 昭和55年5月に一般配管用のステンレス鋼鋼管の規格が制定され、その後、給水管にも使用されるようになりました。管の材質は、クロム・ニッケル系ステンレス鋼のSUS304とSUS316が使われています。
 継手には、はんだ式、プレス式、圧縮式、伸縮可撓式の1形(鋳造品)と2形(塑性加工品)がありますが、そのほかに型式登録品としてメカニカルジョイント、伸縮可撓継手、波状継手などがあります。
 現在、関東方面の給水管材として主に採用されています。
(7)ダクタイル鋳鉄管(対象呼び径75mm〜 )
 昭和25年に遠心力金型鋳鉄管の水道協会規格が制定され、以後、昭和29年7月に立型鋳鉄管、遠心力砂型鋳鉄管、遠心力金型鋳鉄管、鋳鉄異形管の規格がそれぞれ制定され、昭和34年10月にメカニカルジョイント鋳鉄直管と同異形管の規格も制定されました。
 また、材質もこれまでの高級鋳鉄管より耐食性、強靱性に優れたダクタイル鋳鉄管が昭和29年ころに開発され、昭和36年9月には遠心力ダクタイル鋳鉄管と同異形管の規格が制定されました。
 ダクタイル鋳鉄は球状黒鉛鋳鉄とも呼ばれ、組織中の黒鉛が球状のため表面 積が最小となり、地鉄の連続性が保たれて強靱性を増します。引張り強さは1mm2につき420Nと鋼鉄に匹敵する強度があり、組織中に存在する不活性な黒鉛を中心にして炭水化物、酸化物、ケイ酸化物などの不溶性の緻密な生産物をつくるので、これが一種の保護被膜となり、耐食性を増します。
 現在、配水管および給水管材(主に口径75mm以上)として多くの都市で採用されています。
(8)石綿セメント管(対象呼び径50mm〜 )
 石綿セメント管は、昭和25年にJIS規格で制定され、その後も追加制定を行いながら長年月使用されてきました。しかしながら、石綿(アスベスト)を原料としており、この石綿の粉塵が身体に影響を及ぼすおそれのある物質として注目されることとなり、これら諸般 の事情により製造もされなくなりました。このため昭和62年、JIS規格も廃止され、現在は新たな敷設には使用していません。
(9)その他の管
 1)架橋ポリエチレン管(対象呼び径5〜50mm)
 高温特性、耐食性、施工性などに優れ、わが国でも暖房・給水・給湯用、その他の配管材として使用されるようになりました。
 2)ポリブテン管(対象呼び径7〜100mm)
 高温特性、耐食性、施工性に優れ、給水・給湯、空調などの配管、温泉の引湯管などに使用されています。

(石原 健夫)

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