5.9 給水管の設計とリハビリテーション


Q199
給水管は細く敷設も容易なため安易に考えられがちですが、実体はどうであり、途上国で注意すべきことは何ですか





  Key words:漏水、給水管、標準図

 給水管は細く敷設も容易なため安易に考えられがちですが、給水管は水道施設と顧客をつなぐ大変重要な施設です。また、多くの漏水が給水管から発見されていることからも、給水管の設計と管理には十分注意をはらわなければなりません。

1.途上国でよく見受けられる問題点
 給水管に関連して、途上国でよく見受けられる問題点を以下に示します。
(1)標準図の未整備
 配水枝管から水道メーターまでの給水管敷設の手本となる標準図が、水道局によって整備されていないために、その場その場で給水管敷設の方式、材料などがまちまちで、維持管理に支障をきたしている例があります。また、標準図が整備されていても、材料の在庫不足などから標準図に従えない例、標準図どおりでは施工に時間がかかるので安易な工事をしてしまう例、などもあります
(2)大口径からの分岐
 上記のような標準図の不備にも関連しますが、給水管を分岐してもよい配水枝管の管径が規定されていない場合や、配水枝管の整備が遅れており近くに分岐を行う適切な管がない場合など、近傍にある大口径の配水本管から、時には送水管から直接給水管を分岐している例があります。このような例では、もちろん大口径の分水サドルなどありませんので、直接本管に穴を開け、ねじを切って分水するという、頼りない分岐となってしまいます。
(3)スパゲッティー配管
 配水枝管の整備の遅れはまた、スパゲッティー配管の原因ともなります。道路から少し引っ込んだ幅3mくらいの路地の両側に10軒の民家があったとします。しかし残念ながら10軒の家が同時に水道に加入したいと考えるわけではなく、通 常徐々に加入するようになります。するとその路地には結局、道路の配水枝管から10本もの給水管が路地に引き込まれ、見事なスパゲッティー配管となってしまうのです。
(4)側溝内、横断配管
 スパゲッティー配管は少々極端な例ですが、給水管を引き込むために道路・路地の路側に埋設される給水管が増えてくると、埋設スペースがないため道路表面 に管が見えるくらいに浅く敷設したり、ひどい場合は側溝の中に敷設される場合があります。また、家への引き込み管は必ずこの側溝を横断することになりますが、多くの場合何の防護もなく汚水の中を給水管が横断することになってしまいます。下水道の整備は一般 的に遅れていますので、側溝内は非常に非衛生的な状態です。
(5)給水管材質
 標準図のある場合は、給水管の材質についても適切な材質が規定されている場合がありますが、それでも予算や材料の不足から給水管の材質が標準に沿わず、安易に選定されている場合があります。途上国ではPVCやGIP(亜鉛メッキ鋼管)などがよく使われている代表的な管です。PVCの場合は日光によって劣化しますので側溝内・横断部分、地上配管部分に使われると、子供がちょっと乗っただけで折損してしまいます。GIPもメッキが不十分なものであると、錆びこぶが内部に発生して断面 を縮小させますし、外側も側溝の汚水によって腐食してしまいます。
(6)水道局の直営工事、粗末な工具
 水道局が定めた指定工事店が給水管の敷設を行うという方法は途上国ではまだまれで、通 常は水道局直営方式で行われます。水道局職員1人に一般作業員が3人くらいで1チームとなり敷設作業を行いますが、一般 作業員の人たちは配管の知識・経験もあまりない場合が多く、工事の品質を保つことは困難です。また、彼らの使用している工具類も非常に原始的なものが多く、分水の際の穿孔、管の接合など不安が残ります。
(7)竣工時の確認・承認、記録の保存
 現場で給水管敷設工事が完了した時点で、その工事の完成具合を確認したり、承認したりするシステムが確立していないために、後で不具合が生じた場合に責任の所在が不明確になってしまいます。また、工事関連の書類は保存されているようですが、系統的に整理されていないため。維持管理のために有効に生かせないのが現状です。

2.設計上の留意点
 上述した途上国によく見受けられる問題点をふまえて、そのような問題をできるだけ小さくするために設計時点で注意すべき点について以下に示します。
(1)標準図の整備
 給水管敷設のための標準図が整備されていない場合は、まず標準図の策定を進めることが大切です。この標準図は、もちろんその現地の実情に即したものでなければならないので、現状の詳細な調査をまず行います。現状調査では、現地の一般 的な道路断面、配水管(一般的な埋設位置、材質、口径範囲など)を調査するとともに、現地水道局に蓄積されている知見(通 常は担当者の頭のなかに蓄積されている)を十分に把握することが重要です。標準図では標準断面 、側溝の横断部をどのようにするか(鞘管の敷設など)、地下・地上部の管材質、分岐を行ってよい配水枝管径などを規定する必要があります。作成された標準図は現時点で考えられる最高のもの(管材質などの面 で)であるに越したことはありませんが、財政的に実現可能なものでなければ意味がありませんので、予算や水道加入金などとの比較検討を行い実現可能な標準図とすることが大切です。
(2)配水枝管の整備、総合的な水道施設の整備
 給水管の状況を改善するためには、給水管のみを対象としていては改善策にも限度があります。上述したスパゲッティー配管や、大口径管からの分岐を避けるためには、配水枝管が順次整備されていく必要があります。配水枝管が整備されるためには、配水本管も整備されなければなりません。「配水本管整備のためには浄水施設」というように、水道施設全体の整備という観点から、給水管の整備を考えることが重要であると思います。
(3)工具類の整備
 設計の最終的な段階として材料の購入・給水管敷設工事にかかわる入札書類の作成がありますが、材料の購入リスト作成にあたっては、もちろん必要な材料をすべて含むこと、予算の許す範囲で将来維持管理に必要となるであろう材料を含めること、さらに施設に必要となる工具類を含めること、さらに敷設に必要となる工具類を含めることによって工事の品質を向上させることができると思います。

3.施工上の留意点
 次に施工時点で注意すべき点について以下に示します。施工上の注意点というと多数ありますが、ここでは工事の監理上、途上国でよく不備のみられる点についてのみ記述することとします。
(1)標準図を守ること
 設計上の注意点で述べましたが、給水管敷設の標準図が作成されたら、施工時にこれを守ることが大切です。ただし水道局側にこの標準図を守れるような体制ができていなければ、守ることは困難であると思います。以下に続く留意点は、すべてこの体制づくりのためのものであるといっても過言ではありません。
(2)工事材料の確保と管理
 給水管敷設に必要な標準図に記載されている必要な材料が常に水道局に在庫として保管されていなければなりません。工事開始にあたっては、この材料を倉庫から持ち出すための手続き、これをチェックする機能、在庫を管理する部所、不足材料を調達する手続きなど、水道事業体内部の組織と仕事の流れが整理されなければなりません。しかしここで注意しなければならないことは、不必要に書類の数を増やしたり、承認手続きを煩雑にしないことで、最低限必要なチェックを行い、できるだけ手続きを簡素化することです。
(3)工事の監督
 水道局の職員は給水管敷設工事に立ち会い、標準図どおりに工事が行われているか監督しなければなりません。しかし実際の現場ではすべて標準図どおりに工事を行えない場合も出てくると思います。このような時に適切な判断を水道事業体職員が下さなくてはなりませんが、そのためには標準図がどのようなことを考えて、どのような問題を避けるためにつくられているのかを理解しておく必要があります。このために定期的な水道局職員ならびに工事従事者を対象としたトレーニングが不可欠です。
(4)工事竣工時の確認
 給水管敷設工事が完了した時点で、水道事業体、工事担当者、顧客の三者で工事の結果 について標準図どおりである、あるいは変更したが問題ないことを確認することが大切です。
(5)工事記録の保存
 工事記録は顧客台帳と関連させて、地域別など系統的に整理し、今後の維持管理作業に役立つよう保管しておくことが重要です。

(間宮 健匡)

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