5.11 漏水防止作業と不明水


Q220
途上国での漏水防止対策で、ここを直さなければいくら努力してもむだというキーポイントがありますか





  Key words:漏水防止対策、漏水防止作業、老朽管の敷設替え、漏水調査

1.漏水防止対策と問題点
 多くの開発途上国は、都市部への人口集中化に起因した人口の急増に伴い、住宅、道路や水道など、いわゆるインフラストラクチャーの整備が大幅に遅れています。
 水道の整備については、住宅地、商業地区の急激な拡大、さらには工業団地の築造計画などを理由として給水量 が増加していることから、水源開発やそれに伴う各施設の拡張工事を行い対応することとしていますが、一方では老朽化した施設からの漏水、破裂が多発し有効率が低く、収益率が悪いなど大きな問題を抱えています。
 一例として、タイの水道事業について記述します。
 タイの水道事業は国王ラーマ5世により創設されましたが、その施設の一つとして、1914年に建設されたサムセン浄水場が現在も稼動中です。一方、配水管路については、自国で製造が可能であったアスベスト管が配水小管の大部分に使用されています。また、バンコクを中心に都市の急激な成長によって水不足問題が起き、住民や企業が大量 の地下水を汲み上げていることから、多くの地区で地盤沈下問題が発生しています。このほか、海岸近郊部では海水の浸入問題が生じており、漏水・破裂が多発しています。水道事業者は、漏水防止を重要施策の一つとして施策を急いでいますが、地盤沈下や脆弱管の使用などを原因として有効率が低い状態が続いています。なお、タイ以外の途上国においては、ヨーロッパ諸国の植民地からの独立が多いことから、植民地時代に近代式水道の創設があったものと考えられることから、老朽管からの漏水が多発し、タイと同じ状況であると考えられます。

2.問題点への対応
 途上国の水道事業は、施設の拡張と地盤沈下に伴う漏水・破裂の多発、海水など塩水および腐食性土壌による管体劣化による漏水多発、さらには、老朽管や脆弱管などからの漏水多発など相反する問題を同時に解決することが必要となっています。このため、多くの水道事業体では、漏水量 の減少を考慮して、配水管内の水圧を下げ給水しています。
 一方、ソフト面での問題としては、漏水探査機材の不足や、機材があっても使いこなすことができる職員の不足が考えられます。
 このような状況から考えた場合、
(1)漏水防止対策を行う場合のキーポイント
 1)地下水の過剰汲み上げの防止
 2)塩水や腐食性土壌からの腐食防止対策
 3)老朽管や脆弱管の取り替え
 4)適正口径を有した配水管の敷設
(2)漏水防止作業を行う場合のキーポイント
 1)漏水調査(探査)機材の充実
 2)職員の経験不足
 3)ベテラン職員あるいはチームリーダーである職員が関係職員へ探査技術あるいは技能の移転不足
 4)配管図などの図面情報の未整備
 5)職員の待遇改善
 6)漏水調査の計画的実施
などが考えられます。

3.漏水防止対策で、ここを直さなければむだというキーポイント
 まず、ここを直さなければむだというキーポイントはありません。途上国では漏水防止対策の効果 を上げるために、ハード/ソフトの両面の対策および対応が必要と考えます。しかしながら、ハード面 の対策として老朽管の敷設替えなどの対策は、長期間のスパンでの対応となることから、漏水調査(探査)および修繕を行うなどの対症療法的対策を実施することが必要です。このため、配水管内の水圧が比較的高い浄水場やポンプ場の周辺から漏水調査(探査)を開始するなど、各国の実情を正確に把握し、自力で継続して実施できる案を考えることが大切であり、漏水防止対策でここを直さなければ、いくら努力してもむだという考え方を取り下げ、途上国の立場に立って少しでも協力することが必要と考えます。
 ちなみに、有効率の目標レベルを70%まで向上させる場合の一例として、10カ年程度が必要と考えられます。内容としては以下のとおりです。
(1)対症療法的対策を中心に音聴調査など基礎的対策を付加した計画を立案します。
(2)漏水調査が可能な水圧の確保、管路の安定化のため断水状態をなくしたのちに調査します。

(久保田照文)

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