5.11 漏水防止作業と不明水


Q223
無効水量を減少させるための漏水防止対策は、どのように実施すればよいですか





  Key words:無効水量、漏水、漏水調査、漏水防止対策

1.無効水量の発生要因となる社会的背景とその対策
 無効水量となるのは、そのほとんどが水道施設からの漏水です。水道事業経営にとっては遺失利益となり、経営に大きな負担となるマイナス要因です。水道事業を営む側はこの損失をどのようにして防止するか、もしくは減少させるかが大きな問題なのです。
 なぜ無効水量が増加するのかについて考えてみると、一つには都市への急激な人口集中をあげることができます。
 人口増加の著しい都市部においては、給水量の増加に伴い水道施設の拡充を余儀なくされ、拡張工事が先行することによって、完成した施設の維持管理が追随しない状況をつくりだしてしまっていたのではないでしょうか。
 さらに、建設費用も十分でなかったことから材質的に下位の材料を用いなければならず、これらの要因が無効水量 の増加に拍車をかけているものと考えられます。
 わが国も過去においては同様なことを経験しています。1950年代後半から1960年代にかけて、水道の普及が急速となった高度経済成長期に、わが国の水道事業体では安価でかつ作業性にすぐれたアスベスト管をさかんに配水管に使用しました。今日、アスベスト管は新たに使用していませんが、前述の高度経済成長期に使われたアスベスト管から漏水が多く発生し、一時期、無効水量 の増加をみたこともあります。これらの対策として、わが国では、これまで使用されていたアスベスト管に替わって高品質でかつ耐久性のある鋳鉄管および鋼管などを配水管に採用するようになりました。
 一方、配水管から分岐する配水支管については、配管が迅速に行えることや安価であること、さらには接続・加工が容易であることなど、特に作業性を重視した管材料が使用されてきました。しかしながら、電気・電話・下水道など社会基盤の整備が進むなか、これらの埋設工事に伴う毀 損事故の増加、さらには材質の経年劣化とあいまって配水支管からの漏水も多く発生しています。
 配水管、配水支管を問わずわが国では、水道管の材質を軟質材から粘りのある硬質材へと順次変更することによって漏水を防止してきた経過があります。また、材質の変更に限らず施工方法の基準を制定し、工事標準仕様書の作成・図面 整備もあわせて行ったことが無効水量を減少させた一因と考えられます。

2.漏水防止は水圧状況の把握と人材育成
 無効水量を減少させるための技術的(人為的)対策について述べるならば、それは漏水調査を積極的に実施することです。
 漏水調査を行ううえで最も大切なことは、「調査が行える環境にあるかどうか」です。漏水(地下漏水)を発見するため、今日では高性能の漏水探知機とともに、マイクロコンピューターを搭載した相関式漏水探知機などより高度な調査機器が開発され、使われています。しかしながら、それらの調査機器に共通 している機能は、水道管から発せられる漏水の噴出音を感知するということです。つまりは、「音」なのです。漏水音をつくる源は、水圧と噴出口の形状および大きさです。「漏水調査ができる環境にある」とは、「調査対象の給水区域に十分な水圧がある」ということです。
 したがって、漏水調査を実施するためには給水区域の水圧状況をあらかじめ把握しておくことが肝要です。なお、水道管の材質、埋設深さ、あるいは調査区域の立地条件によっても異なりますが、1kg/cm2(0.098Mpa)以下の水圧では、地表から地下の漏水音を探し当てることは困難であると思います。一方、管路の水圧は十分であっても、発見率の向上をみない場合もあります。これは明らかに人為的な問題です。調査機器は、調査員の耳に「音」を情報として与えてくれますが、必ずしも漏水音のみを提供してくれるわけではありません。調査員は、さまざまな「音」のなかから漏水音を識別 し、漏水箇所を特定しているのです。
 漏水の発見率を左右する大きな要因は、作業経験によって培われた調査員の技術力であることから、早期に熟練調査員を養成することも無効水量 を減少させる近道です。

3.維持管理(漏水防止対策)に終わりはない

 水道管が敷設され、給水が開始されると同時に、水道の管理は適正に行われなければなりません。この場合の適正とは、「安全な水を支障なく円滑に需要家のもとへ供給する」ことを目的として行われる技術的な管理(水質管理、水量 管理など)を指しています。
 無効水量を解消するための抜本的対策は、施設を新しくつくり替えることかもしれません。施設をつくり替えたことによって無効水量 の減少が図られたとしても、今度はその状態を維持していかなければなりません。維持していくためには、前述の管理が必要となります。
 この管理の一部が、漏水調査、修理、老朽管の敷設替えを含めた漏水防止対策なのです。つまりは、給水を開始した以上、水道の必要がなくなるまで、水道事業体は安全な水を支障なく円滑に需要家のもとへ供給する義務があるのです。
 これらのことから、漏水防止対策に終わりはないといえます。

(田口 徳男)

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